雪と実家は切り離せない
「少なくとも年一で帰ってきなさい」
それは親戚の叔母から常々言われていることだった。繰り返すようだが、俺には両親はいない。地元に帰ると言っても親戚の家にお邪魔になりにいくだけだ。手紙ではあんなことを言ってくれたが、しょせんは人の家だ。やはり俺はあまりいない方がいい。
出発をぎりぎりまで遅らせた12月31日、大みそか。俺は高速バスに揺られて地元へ向かっていた。ワイヤレスイヤフォンで好きな音楽を聴きながらぼーっとするこの時間はわりと嫌いではなかった。でもこのシートだけはもう少し改良してほしい。
年末年始の過ごし方、というのは家によって様々だろう。俺が過ごしてきた親戚の家(今後、実家とする)では、夕方5時に、取り寄せた寿司とオードブルを食べ、仏壇に挨拶、自家用車には神様への感謝として、日本酒とみかん、餅をお盆に乗せて車内へ。家族全員でみかんを食べながら紅白を見る。それがこの家の毎年の恒例行事だった。
高速バスと電車を乗り継ぎ、実家へ。最寄り駅に着くと、叔父が迎えに来てくれていた。
「おかえり」
普段、寡黙な叔父は俺を見てそう言った。あまり表情が顔に出る人ではないが、少し嬉しそうな顔をしていた。実家では、父母娘と祖母が一人の四人家族だ。父親は肩身が狭いのだろう。男手が増えて嬉しいのかもしれない。
「大学はどうだ」
「家が火事になったんだって?」
「好きな子はできたか」
叔父は沈黙を避けるように矢継ぎ早に俺に質問をなげかけた。それになんとなく答えながら車窓の風景を眺める。年一で帰っては来ているので一年ぶりの光景だが、それはあまり変わっていなかった。雪は相変わらずすごい。
「おつかれ、着いたぞ」
車は十数分かけて実家へと到着した。幼少期からなので十年と少しをこの家で過ごしたわけだが、不思議と愛着は持てなかった。最後まで、人の家という感覚を拭うことはできなかった。
家に入ると、叔母が出迎えてくれた。エプロンとおたまを片手に。
「おかえり、寒かったでしょ」
「うん、てか、雪すごいね」
天気予報では毎年のように「この冬は雪がすげぇ」と言われていたが、今年は本当にすごかった。ひざ下まで来るぐらいの積雪だった。毎朝、叔父がしてくれている雪かきを少しでもさぼろうものならどうなることだろう。計り知れない。
「美冬ね、今友達と年末セールっていってでかけてんの。帰ってきてからごはんでもいい?」
「うん、大丈夫」
美冬というのはこの家の一人娘だ。今年高校三年生で受験勉強真っ最中のはずだが買い物にでかけるぐらいの余裕はあるのか。ちなみに去年と一昨年は俺を避けるようにどこかへ旅行に行っていたので会うのは二年ぶりとなる。
リビングに入ると祖母がテレビを見ながら「おかえり」と言った。ストーブの前では猫が丸くなりながら俺を見て「にゃぁ」と静かに鳴いた。
「覚えてたね、ゆずのこと」
その様子を見て叔母が言う。それに「うん」と答えながら喉を撫でる。猫はそれにゴロゴロと答えた。
「部屋に荷物おいたらお風呂にはいっちゃって」
叔母からの指示に従う。
今年の冬は特に寒いのだろう。脱衣所には石油ストーブが置いてあり、赤く炎を燃やしている。この家も暖房のオンパレードだが、浴室付近は暖房の調子が悪いのだそうだ。ささっと服を脱ぎ、湯船に浸かる。思わず「ぬはぁっ」と声が出た。
思い返すと、この夏から俺の人生は変わったと言えるかもしれない。家が燃え、最推しのvtuberが引退し、好きな人ができ、初めての告白をされ、友達ができた。色濃い半年だったと思う。来年は21歳か。果たしてどうなることやら。
その時、玄関が勢いよく開く音と「ただいまー!!」という元気な声が聞こえた。美冬が帰ってきたらしい。寒いところから来たのだから風呂に入りたいことだろう。俺は急いで浴室を出た。
「あー!寒い寒い!」
ガラっと脱衣所のスライドドアが開く音と、ガチャっという浴室のドアが開く音はほぼ同時だった。
かくして、二年ぶりとなる幼馴染とフルチンの男は脱衣所で鉢合わせとなったのだった。
「「ぎゃーーーーーーーっ!!!!!」」




