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春宮愛の場合①

こういうことはあまり言いたくはないが、私はわりとモテるタイプだ。

振ってきた男は数知れず。街ではスカウトに声をかけられ、一目ぼれしましたと知らない男に声をかけられる。親のおつかいで食材を買いに行ったときなんて、お嬢さん可愛いからおまけしちゃうね、とより多く品物を貰える。

それもこの両親から受け継いだ容姿のおかげだ。

私は何もしていない。


勉強もそれなりにできた。

特に勉強をしなくても評価点以上の点数はとれるし、それこそテスト前に数時間勉強しただけで高得点がとれた。教師からの評価も高いし、勉強を教えてくれという同級生の数も少なくなかった。友人との友好関係も良く、それこそ優等生の鑑だった。

それもこの両親から受け継いだ頭脳のおかげだ。

私は何もしていない。


性格も、まぁ悪くないとは思う。

知らない人ともそれなりに上手く話せるし、気が利くとよく言われる。そのおかげで幾ばくか顔が広い存在になれた。もちろん、影でそれを悪く言う人もいた。しかし、私の友人達は強かった。特定し、一か所に集め、一網打尽としたのだ。当たり前だが、私はそれを指示してはいない。彼女たちが勝手にやったことだ。そういう言い方をすると彼女たちの善意を無下にするようで気が引けるが、事実だから仕方ない。その場に私も呼び出され、陰口側から謝罪を受けた。その時に全容を知ったのだが、本当に悪いと思っているようだったので私は許した。そうしたら、その心の広さに感動しました、と陰口側も一派へと入った。そうしてできた私の親衛隊。私の意図とは別に膨れ続けるそれに耐えきれなくなって私は県外の大学へと進学した。

それもこの両親から受け継いだ細胞のおかげだ。

私は、何も、して、いない。


そんなことがあったからだろうか、私は常に何かをしなくてはいけないと心から思うようになった。最近は親ガチャという言葉があるそうだが、その言葉になぞると私は最高レアを引いているということになる。恵まれている。それなのに私の性格はゆがんでいくばかりだった。


外面ばかり良くなって内面はガサツになる一方だった。自分の性格が本当に妬ましい。私もおしとやかな女の子になりたかった。街でクレープとか食べてカフェで友達と何時間も話すような普通の女の子になりたかった。だが親衛隊はそれを許さなかった。常に誰かが一緒にいた。それは私を守るため、という話だったが、目の上のタンコブ以外の何物でもなかった。


自分を偽るのはもう、嫌だった。


大学へ進学してもその気持ちは変わらなかった。せっかく再スタートをしようと思っていたのに人と接すると昔の、いい子ちゃんな私が出てきてしまうのだ。もう素の自分を出すなんてことできないのかな、そう思っていた矢先、気に障ることがあった。アパートの隣人である。


一回目はショッピングセンターだった。人とぶつかるなんてことはまぁあることにはあると思う。その人はなんてことないただの人だった。すごく謝っていたけれど、そのどれもが聞き取れるものではなく正直に言って不愉快だった。これがコミュ障という生き物かと思っていると、この人があの時、布団を持っていた彼だと気付く。同じアパートなのだろう。そういえば隣の部屋が空室だったっけ。まぁ部屋が隣だと言ってもほぼ会う事なんてないだろう。外面で乗り切っちゃえ。


二回目はアパートだった。ほぼ会うことはないだろうと高を括っていたが、それは間違いだった。彼の部屋の前を通った瞬間に扉が開き、急なこともあって避けることができなかった。尻もちをついた私は怒りに任せてつい、本性を出してしまった。容姿とは裏腹のその態度に驚いたのだろう。彼はひどく動揺しながら私に謝った。悪態をついてその場から離れた。


三回目はまさかの飲み会だった。大学で初めてできた友人から誘われた飲み会は男子同伴で、その中に彼がいたのだ。あんな態度をとってしまった矢先にこんなことになろうとは。私は少しだけ後悔した。でも彼への評価は変わらない。衝突コミュ障男。あまり私に絡んでくるなよ。飲み会は滞りなく進行していたが、その中で彼への評価は変わっていった。衝突コミュ障男は気配り上手だった。周りに合わせてお酒を飲んではいるが、目はずっと誰かのグラスを見ていた。必死か、と少し思ったが違った。彼も居場所が欲しかったのかもしれない。役回りは損以外の何物でもないが、そうして皆に声をかけることで『俺はここにいるぞ』という証明だったのかもしれない。私は、ここにはいない。だからなんとなくだった。席を立った彼を追ったのは。


家へ帰ってからも声をかけたのは私も存在証明をしたかったからかもしれない。少し、彼のことを羨ましくなったからかもしれない。


四回目は最悪だった。引っ越しのトラックがアパートの前に停まっていたのでこの階の空き部屋に誰か引っ越してきただろうと簡単に思っていた。外を見ると小さな可愛らしい女の子がせっせと荷物を運んでいたので、年齢も同じぐらいだし、もしかしたら友達になれるかもという下心を持って手伝おうと思っていた。ほどなくして地鳴りかと思うかのような揺れと大きな音が耳に届いた。もしかしたら荷物の下敷きになってしまったかもしれない、そうするとそれを知ってるのは私だけだ。救出のために部屋を飛び出し、開けっ放しになっていた空き部屋へ飛び込むと、先ほどの小さな女の子と隣人の彼が女性物の下着の中で横になっていたのだ。私はなぜかひどくがっかりしてその場を後にした。


それからはなぜがっかりしたのか考える日々だった。少し尊敬に似た感情を持つかもしれないと思っていた相手はやっぱりただの男の子で尊敬には値しないと分かったからなのか。初めてちゃんと人と向き合えるようなそんな気がしていたからか。私の素の姿をさらけ出した相手だからなのか。答えはこの脳をもってしても出ることはなかった。


そんなある日、外から男女の声が聞こえてきた。方向から察するにまた隣人だろう。私には関係ない、どうせまた痴話げんかだろう、そう思っていると金具性の何かが倒れる大きな音がした。またか、と思い、ベランダに出て声をかける。せめて奥の様子を確認できればいいのだが、と思いながら仕切り板に手を乗せる。そして今度は金具の外れる音。体重を乗せていたこともあって私の体は行き場を無くし、仕切り板と共に倒れることになった。


おでこを盛大にぶつけてしまい、頭痛のする頭を起こしながら顔を上げると、そこには同じように仕切り板が無くなったベランダで二人が向かい合って座っていた。あっちもか、一体なにをしているんだこいつらは。


そんなわけでなぜか顔がぐちゃぐちゃになるほど泣いている隣人の彼と黒髪ショートの女の子、茶髪ロングの三名が出揃う形となったのであった。

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