一途な気持ちはもやを生む
コミュ障には二種類いると思う。
イメージ通り、目も合わせられない、話そうとするとつっかえて何を言っているのか分からない、挙動不審で変な笑い声が出る、前を向けない、それが皆の想像するコミュ障だろう。
そしてもう片方は、コミュ障の皮を被った普通のやつだ。店員に話しかけれない程度で自分はコミュ障だと友達へ豪語するやつ。というか友達が複数人いる時点でそれはコミュ障と言えるのだろうか。俺なんて二人だぞ。片手で収まるとかのレベルじゃないぞ。ピース!じゃねぇんだよ馬鹿が。
そしてそんな俺はというと、
「藤宮さん、寒くないですか?大丈夫ですか?」
「ぜ、ぜんぜんぜん大丈夫」
「なんですかそれ」
圧倒的に後者だった。
隣にはとびきりに可愛い子がいてくれるこの状況に俺はもう緊張して血反吐を吐くかと思うぐらいだった。これまでの人生、ほんとに恋愛のれの字もなかった俺にとってこの状態は想像、いや妄想の中の話でまさかそれが現実に起きようとは露ほども思っていなかったのだから。
こうして誘われるがままに来てしまったが、この子は俺と一緒にいて楽しいのだろうか。まったくもって気の利いたことを言った覚えがない。いかん、ネガティブが出てきそうだ。
『とびきり楽しませるのでプランはお任せください!』
それは出発前日の東からの連絡だった。
楽しみにしてくれているんだなと嬉しかったが、それよりもいまだに白紙だったデートプランをゴミ箱に捨てられることの方に心底安堵していた。デート経験が無い俺にとってその申し出はありがたすぎるほどだった。
イルミネーションで彩られた商店街を歩く。こうしてまじまじと見たことが無かったので本当に心から綺麗だと思った。この街のどこかに飾り付けをしてくれた人がいて、それをデザインしてくれた人がいて、それを企画してくれた人がいて、そんな当たり前のことに感動するぐらいには綺麗だった。
「予約してたお店がこの先にあるんですよ」
東に促されて、後に続く。イルミネーションもずっと続いている。
「こちらです」
数分歩くと、喫茶店のような佇まいの店があった。一人で外食などもってのほかの俺はもちろんこんな店があることなど知らない。
喫茶店のような、と言ったが軽いフレンチの飲食店だった。個人経営らしく、店員は老夫婦とバイトと思わしき女性店員の三人だけだった。そこで、思ったよりも(失礼)美味しい食事をとった。会計時にどっちが払うかというので少し揉めたが、経営する老夫婦もとても良い人だったのでまた来ようと思った。一人で来れるかは分からないけど。
「このお店、以前家族と来てたんですよ」
店を出てから東がぽつりと独り言のような言葉を発した。
家族で来たというならそれは微笑ましいエピソードだと思うが、東の顔は暗かった。
踏み込んではいけない気がして、俺はそれに「そうなんだ」と答えた。
ここで追及していたらあんなこと、起こらなかったのに。
「さて、それでは本日のメインイベントです!」
暗かった顔もつかの間、東はとびきりの笑顔で振り返った。
「藤宮さん、高いところは大丈夫ですか?」
「大丈夫だけど」
「それじゃあ行きましょう!」
連れていかれた先は展望台だった。
おそらくここからの夜景をメインとしていたのだろう。だが、その東の思惑とは裏腹に、
「満員ですね・・・」
展望台は人でごった返していた。しかもそこにはカップルしかいない。
まぁそれもそうだろう、クリスマスだ。綺麗な夜景を二人で見たいに決まってる。
「やらかしてしまった・・・」
地上に降りてきて開口一番、東はそう言った。
「いや仕方ないよ、クリスマスだし」
「それもそうなんですがぁ、あぁー、私の見立てが甘かった・・・」
ひどく落ち込む様子を見てふと、ある景色を思い出した。
「そうだ、それなら俺が行きたい所に行っていい?」
「ふえ、え、えぇ、いいですよ」
今度はイルミネーションの中を俺が先導して歩いた。
商店街を抜け、住宅街を抜け、森の中の坂道を登り、
「藤宮さん、どこまでいくんですかぁ」
「もう少しだから」
坂道を登りきると、そこは公園だった。
駐車場もあるのでそこそこ人はいるかと思ったが、各々どこかで過ごしているだろう、人っ子一人いなかった。そして、高台に位置するこの公園の眼下には、
「うわぁ、すごい綺麗!」
先ほど歩いた商店街があった。
「上から見るのもいいもんでしょ」
「そうですね!!」
この公園は俺が少しセンチメンタルな気分に陥った時に来る場所だった。森の中を抜ける必要があるのでひどく暗く街灯も少ないから落ち着くのだ。地元を思い出す。
夜景をキラキラした顔で見つめる東をよそに俺はベンチへ腰を降ろす。坂道は疲れる。
「どうして私をここに連れてきてくれたんですか?」
夜景を背に東が俺に聞いてくる。
「展望台、行けなかったのすごく悲しそうだったから。ここだったら見えるかなって思って」
「そうなんですね、ありがとうございます。すごく嬉しいです」
「それはよかった」
「藤宮さんのそういう所、好きですよ」
「なに急に」
「これは私が藤宮さんの特別だってことでいいんですか?」
「それは、どうだろう」
「なんですかそれ」
東をここに連れてきたのは俺の意思だ。そこにはなんの嘘も無い。なのに、心にはもやっとしたものがあった。連れてきたい人は、もう一人いる。
「帰ろうか」
「え、ここで告白では?」
「しないよ」
「まぁでも、うん、そうですね、仕方ないから待ってあげますよ。藤宮さんの心が決まるまで。今日はこの夜景で良しとします」
にへっと笑う。
そして二人並んで坂道を下った。どちらが先でも、後でもなく、並んで。そこがなんだかとても居心地が良くて、ともすれば好きになってしまいそうなのに、俺の中のもやは晴れなかった。




