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ドロップキックは裏切りの味

それからというもの、特に取り立てて言うことも無く日常は過ぎていった。

強いてあげるとするならば、やはりベランダ沿いに東が部屋を覗きにきたりした程度だ。ただ東なりに気を遣っていてくれているようで夜のシングルプレイ時には訪問があったことはない。


そんなこんなで気付けば時期は師走へと移っていた。

大学構内ではちらほらとカップルがよく目につくようになっていた。決して、意識があって見てるわけではない。圧倒的に目に見える範囲で増えているのだ。なぜかと一瞬、考えをよぎらせたが、すぐに至る。そうか、クリスマスか。


つまり、クリスマスを一人で過ごしたくないよう勢の仮初の一時的なそれだ。どうせクリスマスが過ぎて年始に差し掛かったころには別れてるんだ。みんなそんなもんだろ。この一瞬を楽しむんだな。べ、別に一人がさみしいってわけじゃないんだからねっ!


さて、男の定番ツンデレという誰得を披露したところでそろそろ帰るとしますか。


マフラーを巻いてモッズコートのポケットに手を突っ込む。

俺は北東北の生まれなので寒さには慣れている、と言いたいところだが実は全く持ってそんなことはない。確かに冬と言ったら雪が降るのが当たり前で、ここ千葉県に引っ越してきた年の冬はあまりの雪の降らなさにひどく驚いたものだった。


ただその代わりに風がひどく冷たいんだなと心底思った。かまくらは実はあったかいということを知らない人が多くいると思うが、やはり雪があるとそこまで寒くはないのだ。風よけになるしね。それに、家に帰ればそこは暖房のオンパレード。床暖房に断熱素材で作られた家。窓は二重素材だし、もちろん玄関だってそうだ。これでもかというほど、寒気を家に入れない作りになっている。そんなこんなで暖房に守られ、冬期間はほぼ外に出ていないのだからそりゃ強くなるわけもない。それは引っ越したって同じだ。実家の自室で使っていたこたつにいち早く潜り込むために俺は今日も帰路を急ぐのであった。


道中、目の前に勝手知ったる顔が見えた。赤坂だ。

ああいう生き物は冬場は弱るのだろうか。いつものうぇいがしぼんでいる。ちょっと面白い生態だ。


赤坂とは件の飲み会以降、ちょくちょく二人で遊びに行くぐらいには仲良くなった。なぜうぇい系なぞしてるのかと聞いたところ、将来は実家の家業を継ぐ必要があるらしく、遊べるのはこの大学生活の4年だけであるとのことだった。だから今のうちにしたいことをする、と。

そんなしたくなければしなければいいじゃん、とつい口に出そうになったが、人様の家の事情に首をつっこんでも余計なお世話以上の何者でもないことはすぐに分かったのでやめた。


自分で決めることもできない将来、生まれた時から決まっている将来、それはきっと楽なようでひどく寂しいものなのだろう。


赤坂は誰かと話してるようだが、相手は道路の曲がり角にいるようでその姿は見えない。邪魔するのも悪いし、素通りしようかと思っていたら赤坂は角の向こうへと消えた。俺は直進方向へ向かうので、少し残念ながらも話さなくてよかったという安堵で胸を撫でおろした。せめて背中だけでも見送ろうと角に差し掛かった時にそちらを見やると、


赤坂は女の子と手を繋いで歩いていた。


その刹那、脳裏に赤坂との会話が思い出された。


「え、藤宮も彼女いないの?一緒じゃーん!」


「うるさいなぁ。というか赤坂もいないんだね」


「そうー、女の子と遊びには行くけど付き合ったことはないねぇ」


「遊んではいるんだ」


「つってもあれよ?カラオケとか飲みぐらいよ?だからまだ童貞も守ってるわ!」


「健全じゃん!健全ギャル男じゃん!」


「俺をなんだと思ってたんだよ笑」


「ギャル男はしこたま遊びまくってめちゃくちゃ性病もってるとおもってた」


「偏見すぎる!!!ショッキング!!!」


「ごめんごめん」


「じゃあ俺たち、童貞仲間ってことで!」


「嫌だけど、いいよ」


「お互いに進展あったらすぐに言うんだぞ!」


「はいはい」


そうして俺たちは拳をぶつけあった。





「あの時の拳はなんだったんだー!」


俺は赤坂の背中めがけてドロップキックを放った。

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