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1対1ならコミュ障はよく喋る

俺のこの部屋一番のお気に入りスポットが無くなってしまった。

なにせ、両隣のベランダとの敷居が無くなったのだ。プライベートもへったくれもない。容易にベランダに出るという行為自体ができなくなってしまった。俺の洗濯物はこれからどこに干せばいいんだ。


あの瞬間、ベランダにて二階の住人が一堂に会したあの瞬間、最初に立ち上がったのは春宮だった。恥ずかしいところを見られたからなのか、それとも恥ずかしいところを見てしまったからなのか、真相は分からないがその頬は少し赤らんでいた。

スカートの裾を手で払った後、こほんと咳ばらいをしたかと思ったら何も言わずに自室へと戻っていった。それを見送ってから俺と東も部屋へ戻った。それがつい、昨日のことだ。


そして今日は抜群の秋晴れ。まさに洗濯日和。外に干せたら乾きも早いだろう。部屋干しは衣類が臭くなるから嫌なのだ。


ただ、この状況である。

仕切り板は上下に隙間が空いており、サイズはおそらく2mほどだろう。隙間もそこまで広いわけではなく小学生の腕が入るぐらいのわずかなものだった。それこそ大人の腕は確実に入らない。まぁ仕切り板というぐらいだからあんまり隙間があってもだめだと思うが。

そして今はそれが取り払われている状況だ。何が言いたいかというと、一歩でもベランダに出ようものなら隣室のベランダが丸見えだということだ。

さらには少しでも隣室のベランダに近寄ろうものなら隣室までも覗けることだろう。そうしたらわざとではないにしろ、警察沙汰は免れない。


え?お前、仕切り板があった状態でも覗いていなかったかって?


おいおい男なら過去のことなんて引きずるなよ。俺はもう忘れたぜ。


あーあ、洗濯物が干したいなぁ。

そう思いながら窓の外を眺めているとひょこっとこちらを覗き込む顔があった。こんなことするなんて奴しかいない。そう、東だ。


「あ、藤宮さん、いたー」


「お前それ夜には絶対やるなよ。トラウマになっちゃうから」


「え、藤宮さん怖がりですね?」


「お前にも同じことやってやろうか」


仕切り板取っ払い事件の元凶である東は、さも自分の部屋のように窓を開けて部屋に入ってきた。自由すぎる。猫じゃないんだから。


「デートしませんかっ」


「しません」


「暇そうじゃないですか」


「忙しいです」


「具体的には」


「洗濯がしたいからです」


「すればいいじゃないですか」


「干すところがありません」


「ベランダがあるじゃないですか」


きょとん顔で首を傾げながら「なんの問題が?」とでも問いかけるようにこちらを見つめる。いやでも見えちゃうじゃんか。


「あ、わかった。パンツ見られるの恥ずかしいんでしょー?」


「なっ!ちがうわ!」


「じゃあなんなんですか」


「ベランダに出ちゃうと、その、見えちゃうだろ」


「なにがですか?」


「お前の部屋とかだよ!」


「別に藤宮さんだったらどれだけ見られてもいいですけど」


「なっ!」


「あ、むしろもう来ちゃいます?というか住んじゃいます?」


「住まない!!」


「でも案外、見えないですよ。ほんとに覗こうと思わない限りは。私もこうして覗き込んできたわけですし?」


「そう、なの?」


「試してみますか。善は急げ!」


すくっと立ち上がった東はこれまた自分の部屋のようにまたベランダに出ていく。俺も、まぁ公認なら、と後に続く。


「ほら、どうです?見えないでしょう?」


ベランダに出て顔を上げる。すると、確かに東の部屋の中は見えなかった。あるもので遮られていたからだ。


東の洗濯ものだ。

タオルやバスタオル、衣類、と確認していってひと際色鮮やかに彩るものも見える。


「あ、あ、東さん?」


「なんですか?」


「下着が見えるんですが?」


東は洗濯物をちらっと見て数秒固まったあと、取り繕うように、


「そりゃあ乾かさないと履けないですから」


と言った。顔が少し赤い。

俺は気にせずに東を怒った。


「女の子の一人暮らしでベランダに下着を干す子がいますか!!!」


「えっ、な、なんですか急に」


「この辺はまだ治安がいいけど、普通はベランダに干さないから!!!」


「でも隣の部屋には藤宮さんがいますし。何かあれば助けてくれますし」


「俺が助ける前提かよ」


見ないように気を遣っても視界の端で揺れるそれが気になって仕方がない。


「と!に!か!く!下着は中で干すこと!いいね!?」


「わかりましたよう」


ぷんぷん、と俺は部屋へ戻る。

少しして下着類を取り込んだのであろう東も部屋に戻ったようだ。

一安心していると、なんというのだろう、声を押し殺したような、例えば衣類などを口に当てて声量を抑えるような、そんな感じで東の部屋から、


「ぎゃー!!!」


という声が聞こえた。

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