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策士

「妹ってことは藤宮さんの小さい頃のことよく知ってるってことですよね!」


お盆からテーブルへ移した皿から料理をとりながら千夏ちゃんはそう言う。品数はざっと5品ほど。あれ、前はお弁当とか持ってきてなかった?足りなかったってこと?


「まぁそうですね」


「えー!いいなー!教えて教えて!!」


前のめりになって目を輝かす。そのせいでその豊満な二つの果実が料理に当たりそうになるところをすんでのところで秋野が下から持ち上げる。スライムのように少し潰れるそれから目が離せない。


「見んな」


隣の席の美冬から足を蹴られる。飴と鞭である。


「でもそんなに変わらないですよ今と。人見知りでコミュ障で頭もよくないし、イケメンじゃないし、身長も高くないし、出不精だし、面倒くさがりだし」


「言いすぎじゃない?」


足を抑えながら必死に反論、もといストップをかける。


「でも・・・」


食事をしていた手を止め、俯く美冬。


「その代わりに思いやりがあって、誰かのために必死になれて、優しくて・・・」


顔を俯けたのは恥ずかしかっただからだろうか。耳まで赤くなっているのがこちらからも分かる。というか聞いてるこっちが恥ずかしいな。


「いえーい!」


対面では千夏ちゃんと秋野がハイタッチしている。なんで?


「分かる!分かるよ!私もおんなじ気持ち!そういうところがいいよね!」


うんうん、と秋野も頷いている。なにこれ公開処刑?それともドッキリ?


「私たち仲良くなれそう!」


すっと千夏ちゃんは美冬に向かって手を差し出した。握手を求めている。それに、おずおずと美冬も応えた。「よろしくね!」と言いながらぶんぶんと手を振り回している。埃が立つからやめてほしい。


「まぁ付き合うのは私ですけどね」


美冬の先制攻撃だ。


「私だって負けないから!」


反論する千夏ちゃん。


「まぁまぁ」


宥める渦中の本人。なんだこれ。


「いやそんなことを言いに来たわけじゃないんですよ藤宮さん」


手を振りほどき、椅子に座りなおす千夏ちゃん。


「もう少しであれがくるじゃないですか、あれが」


「あれって?」


先程のことなど何も無かったかのように食事を再開しながら喋っているので普通に聞き取りにくい。飲み込んでから喋ってくれ。


「知らないんですか?」


「なにが?」


「おっくれってるー!!!」


「そういうのいいから早く言ってくれよ」


めんどくさいなこいつ。


「じゃん!ゴールデンウィークです!!!」


それ別に遅れてるとかの話じゃなくない?知ってるよそんなこと。


「そこでわたくし、プランを用意してまいりました!!!」


持ってきたリュックからごそごそとクリアファイルを取り出す。また何かよからぬことを考えているようだ。


「はいこれどうぞ!」


一枚の紙を渡される。横から美冬も覗き込んできた。そこには旅のしおりよろしく、『林間学校』という文字が書かれている。ちなみに手書きだ。


「林間学校?」


「ほら、小学生の時とかにあったじゃないですか。山のコテージ?みたいなとこに一泊してみんなでカレーとか作るやつ。私、あれがすごく好きだったんですよー、でも成長するにつれてそういうの無くなっちゃったじゃないですか、修学旅行とかはありましたけど」


「まぁ確かに」


「そんなわけで林間学校に行きましょう!みんなで!」


「はぁ」


ゴールデンウィークはどこかしこも人が多いから出かけたくなかったんだけどなぁ。


「でもこれから予約するとなると、もう無理なんじゃない?予約取れないでしょ」


「あ、もう取りました」


用意周到が過ぎる。断ったらどうしてたんだよ。


スマホを取り出して少し操作し、画面を見せてくる。


「一応、8人用のコテージをとってます。私、雫ちゃん、春宮さん、藤宮さん、坂口さん、遠藤さん、赤坂さん、あと、美冬ちゃん」


「え、私も?」


急に振られた美冬が驚きの声を上げる。


「もしかして何か用事あった?」


「いや特には・・・」


「じゃあ決まり!よかった、一人分多めの部屋をとっといて!人数は多い方が楽しいからね!」


というかこれ、もしかして美冬は最初から頭数に入っていたんじゃないか?そう思いながら紙から千夏ちゃんに目線を移すと彼女はいたずらっぽく舌を出して見せた。こいつ意外に策士だよな・・・。


「じゃあそんなわけで準備の方をよろしくお願いしますね!」


そう言いながら空の器をせっせとお盆の上に乗せ、秋野と共に行ってしまう。気付けばあんな大量にあった料理はすべて平らげていた。一人で。恐るべし。


何かが起こる予感しかしねぇ。

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