表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/113

飲み会に参加した勇気は褒めてほしい

「じゃあまずは自己紹介ね」


幹事?である坂口は目の前に用意された酒のグラスを手でいじりながらそう言った。

男側一番左が俺、真ん中が坂口、その奥が赤坂、坂口の正面に座るのは坂口の彼女である遠藤さん、女性側はどちらも遠藤さんの友達だそうだ。遠藤さんの奥、赤坂の正面に座るのが東千夏さんという小柄で小動物を連想させるような可愛いらしい子。そして、俺の正面に座るのが、


「春宮愛です。よろしくお願いします」


お隣さんだ。というか今、名前初めて知ったわ。


そこから何事もなく会は進行。ちらちらとお隣さん改め春宮さんを盗み見していたが、目が合うことはほとんど無かった。そりゃそう。


そしてそんな俺はというと、一見店員かと見間違うような働きぶりを見せていた。

空いた皿があれば回収し、空いたグラスがあればすぐさま次何飲む?とメニュー表を渡し、追加注文があれば店員へ、そう、俺は黒子に徹していた。

だって、初対面の女の子となんてお話しできるわけがない。注文を聞くぐらいならできるが、なにより以前バイトしていた居酒屋の店員としての血が目覚めてしまったのだ。あんまり喋らなくて済むし。


そんな時、酒がある程度回ったのであろう坂口が、俺を指さし、


「そういえばこいつ最近、女の子にふられたらしくてさ、誰かいらない?」


と、最低なパスを出した。そうだ、こいつは基本的にいいやつだが、酒癖は悪いんだ。

俺の動きがぴたっと止まる。さっきまでにぎやかだったその場が一瞬、凍り付く。あんだけうぇいうぇい言ってた赤坂でさえ、手元のグラスを見ながら動きを止める。


「おい坂口、そんな言い方やめろよー」


俺は必死に平静を取り繕いながら坂口の頭を叩いた。一瞬、しまったというような顔をした坂口だったが、俺のその行動に、


「ごめーん!言っちゃいけないやつだったわ!」


と、手でごめんとしながら舌を出した。


「ちょっとトイレに」


いたたまれなくなった俺はそう言って席を外す。後ろ目で振り返ると、赤坂が坂口をそれはもうひどいぐらい叩いていた。坂口の彼女の遠藤さんに至っては、身を乗り出して殴っている。ちょっと面白かったけど、待って、俺別にふられたわけじゃない。


トイレで用を足し、出るとそこには春宮さんが立っていた。


「あんた、大丈夫?」


「え、な、なにが?」


「強引に連れてこられたんじゃないの?あんまりお酒も飲んでないようだし、無理しちゃだめよ」


「あ、ありがとう」


「いい。約束は守ってくれているようだし、今回はたまたまこんなことになっちゃったけど、言う気もないみたいだし」


「そりゃあ、約束だから」


「うん。それじゃあ」


気を遣ってくれたようだ。久しぶりに話をしてちょっと舞い上がる俺であった。


春宮さんは踵を返す。少し時間を置いてから俺も戻ろう。


それから会は無事に終了し、店前で女の子達と別れた。てっきり坂口は彼女と帰るのかと思ったが、そうではないようだった。男3人、また駅に向かって歩く。


その道中、最後尾を歩いていた坂口は意を決したかのように、


「藤宮!ごめん!俺、余計な事言った!」


と、叫ぶものだから俺は驚いて振り返った。赤坂も同じように振り返っている。

坂口はまだ人通りもあるこんな所で土下座をしていた。


「酒が入っていたこともあって、言っちゃいけないっていう領域がうやむやになっちゃったんだ、本当にごめん!」


坂口は地に頭をつけたまま、そう続けた。


「坂口!気持ちはわかるけど、今じゃねぇって!」


赤坂が坂口を抱き起す。3人で足早に近くの公園へ向かった。


「大丈夫だよ、全然気にしてないよ」


公園に着くなり、まだ凹んでいる坂口に俺は言った。


「ほ、本当か?」


「うん、ほんとに大丈夫。ていうかそもそも俺、ふられてないし」


「「そうなの!?」」


坂口と赤坂の声が重なる。仲良しかよ。


「いや俺も坂口に「大事な友達が失恋したようだ。お前の場の盛り上げが必要なんだ。一緒に来てくれ」って言われて来たもんだからそうだとばっかり」


大事な友達という言葉にちょっと気恥ずかしくなる。


「え、じゃあ俺の勘違いだったってこと?」


「そうなるね」


「なんだよー!心配して損した!」


はー、と坂口が息を漏らす。酒臭い。


「赤坂くんもごめんね、付き合わせて」


「いいよ、どうせ暇だし」


「最初、絶対仲良くなれないって思ったけど、見てたよ、俺がトイレに行ったとき坂口を怒ってくれてたでしょ、嬉しかった、ありがとう」


「最初の余計じゃね?」


うぇいを取り戻した赤坂がまたノリ良くそう言った。


お疲れーと言いながらその公園で2人と別れた。近隣に住む彼らは電車での移動が必要だった俺に合わせて駅集合としていてくれていたらしい。ありがたいなぁと思いながらその背中を見送った。


赤坂の連絡先が増えた電話帳をニマニマと眺めながら(一年ぶりに増えた)俺もそろそろ帰ろうかと駅に向かった。


改札前の辺りでさっきの飲み会で同席していた女の子が立っているのを見つけた。確か、東さん?だったか。同じく電車で来ていたのか。


無視するのも気まずくなるだけなので、話しかける。酒が入っているとコミュ障はどこかへ行くらしい。


「東さんも電車だったの?」


「あ、藤宮さん。先ほどはありがとうございました。あなたのことを待ってたんです。電車で来ていたと聞いて」


「あ、そうなんだ。何か用事?」


「突然で申し訳ないんですが、私と付き合ってもらえませんか!」


今度は駅構内で時間が止まることとなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ