第九話 心配
桶にためた水で、顔を洗う。冷たい水が、熱を持った目元にあたって気持ちいい。
「ほんと僕、どうしちゃったんだろう」
夢であった出来事で泣くだなんて。小さい子じゃないんだし。
そこで、はっと思い出したことがあった。昨日、教会から帰る時に聖女に言われていた。
「今日は守護者に選ばれたり、エルシス様のステッキに触れたり、様々なことがありましたね。もしかしたら、それらの反動がどこかで出てくるかもしれません。不思議な体験をするかもしれません。なので、明日はこのことを少し気に止めて置くと良いでしょう」
聖女の言う反動というものが、さっき見た夢なのだろうか。夢は何かを暗示している事がある。それに、昨日ステッキに触れた時、ビリビリとした感覚があった。きっと、エルシス様が何かを伝えようとしているのかもしれない。
そう思っても、なぜ自分が泣いたのかは分からないけれど。
顔を洗ったら、いつもの作業をする。家まで送ってくれた神官が、また今日の午後に来ると言っていたから、午前中は作業をしていても大丈夫だろう。
(というか、今日は何をするんだろう……?)
まだ、昨日あったことを現実だと受け入れることさえできていないような気がするのに、また昨日のように衝撃の事実のようなものをバンバン伝えられては、頭がパンクしそうだ。
どうか、今日は穏やかに過ごせますようにと、シエルはランプのデザインを考えながら願わずにはいられなかった。
〇
「ふぅ……、とりあえずこんなもんかな……」
デザインに沿ってガラスを切り終わったシエルは、一息ついた。やはり、仕事に没頭していると心が穏やかになる。
しかし、その穏やかな時間は突如終わりを告げた。
バンッ
「シエルちゃーん!!!」
「うわあぁ?!」
いつもより大きな音を立てておばさんが入ってきた。心臓に悪すぎる音に、肩が大きく跳ねた。
「おばさん! 静かに入って来てって言ってる……っ」
話終わらないうちに、おばさんに強い力で抱きしめられる。
「良かった……。もう昨日はどうなることかと思ったわよ……。なんも説明無しに行ったもんだから、なにかあったんじゃないかと心配でねぇ」
そういえば、昨日は帰ってきておばさんに何も説明しないまま寝てしまった。少し心配させて申し訳なかった。でも、今なら詳しく話せるだろう。
「心配かけてごめんね」
僕はおばさんを近くにあった椅子に座らせて、昨日あった出来事を話した。
守護者に選ばれたということ。
資料室にあった神話のこと。
エルシス様が使っていたステッキを使うということ。
昨日は帰った途端寝てしまって、心配をかけてしまったこと。
不思議な夢を見たということは、話さなかった。たしかに変わった出来事だったけれど、特に昨日の出来事とは関係ないと思ったからだ。
全ての話を聞き終わったおばさんは、ほっとした顔をしていた。
「そんなことがあったのね……。じゃあ、このお店も続けられないかもしれないわね」
「えっ、そうなの?」
「そりゃあねぇ、守護者とやらに選ばれたんなら、何かやることが山積みになってるんじゃない? 厄災が来るまで何もしなくていいわけはないだろうし……」
「そっか……」
このガラス工房は、週に三回ほど工房前に商品を並べて売っている。たしかに訓練的なものをこれからやらされるかもしれないし、時間や体力的に店を続けることは難しそうだ。
ステンドグラスを作ること自体は、いつもよりは時間はかかってしまうだろうけれど、空き時間で作ることは可能だろう。
仕事の時間が減ってしまうことは悲しいが、守護者に選ばれた身だ。街を守るためには、しばらく我慢しなければならないだろう。
「そういや、今日はなんか予定があるのかい?」
「うん、今日は午後に神官の人がここまで迎えに来てくれるみたい」
「そうかい。じゃあ、帰ってきた時にうちによりな。美味しいお菓子を作って待ってるからね」
「ほんと?! ありがとう~!」
いいんだよ、とおばさんが言ったところで、コンコンと扉が叩かれる音がした。きっと神官が迎えに来たのだろう。
「来たみたいだね。じゃあ、僕行ってくるね!」
「はい、行ってらっしゃい。気をつけてね」
扉を開けると、やはり神官が立っていた。昨日と同じ人のようだ。
「では、行きましょう」
そして、僕は教会まで歩いていった。
こんにちは、そしてこんばんは!
お久しぶり(?)です!
シエルちゃんを心配してくれた、近所のおばちゃん。
優しいですねぇ~。こんな優しい人が近所にいて欲しいものですよ。
そういえば、最近番外編的なものを書こうと思ってるんですけど、需要ありますかね( ¨̮ )??
あるっぽかったら書くかもしれないですし、書きたくなっていきなり投稿するかもしれませんね。
では、さいなら~(。・ω・)ノ゛