なんか色々あった
拙いですがよろしくお願いします。
思えば、ずっと何もかもはっきりさせず、曖昧にして生きてきたんだと思う。勉強するにつれて、それを言語化できるようになっただけで、言語化した自分と、思っている自分に差異があることは否めない。高校生になって、そう感じられるようになった。
でもまぁどんなにはっきりしない人間でも、(たとえ見せかけであっても)明確な個性を出せば、普通に充実した学校生活を送ることができる。
水無月 八日 午後四時 一年一組教室
みっちゃんが話しかけてくるようだ。
「柚ちゃん、リボンほどけてるよー。ってか夏休みに推しの握手会なんでしょ〜!!いいなぁー。」
そんなに近付いて私のリボンを直さないでほしい。緊張しちゃうじゃん。でもありがとう。
「1人で行くって結構勇気いるわ...」
握手会、ダメ元で応募したものが当たってしまった。推しの名前はhai...最近人気が伸びてきている20代中頃の男性歌手な。髪色がころころ変わるお洒落さんで、見た目が好きなファンも多い。私は"小6の頃から推してるんだ"よね。これが数少ない私の明確な個性。他人に依存した"推している"という個性。それ、本当に好きなのかって?好きに決まってる。
「haiくんのどこが好きなの〜?気になる〜」
「大事なものに気付かせてくれたのさ…そう...それは愛......」
「何それwww」
この抽象的に生きる私にも、具体的な「推し」というものをくれた人だ。何ぞ好きにならずを得んや。ただし、例の如く恋愛対象ではない。
葉月 十五日 午後二時頃 握手会会場
まさか個室とは思わんかった。というのも、握手会の詳細を隅から隅までは見ていなかったから。友達に聞いた通り、ぞろぞろ沢山の人々が懸命に一言二言、声をかけながら握手をして。その中の1人になるだけだと思っていたのに。困った。1分間もの時間が与えられ、話さなければならないと。非常に困った。
「次の方どうぞー。澤原 柚様〜。」
なぜ困るか…?話さなければならないのだ、個室で、1対1で。その状態は相手が身近な人でないと、私に恐怖心を与える。有り得ないと分かっていながらも、「相手に自分の薄情さを見透かされるのではないか...」という恐怖心の支配。
「失礼しまs...」ガチャン
礼儀を尽くそうとして振り絞った消え入るような声。皮肉にも、できるだけ外の音が入るように私が半開きしたドアが閉まる、金属音によって掻き消された。我ながら要領が悪い。いつものことだけどさ。それを、まるでなかったことのように
「よく来てくれたね〜、ありがとうね〜」
推しが柔和に微笑む。眩しいな…皆にあの笑顔振りまくとか疲れるだろうな...今日の夜はゆっくり寝てくれ...。
「あ、ありがとうございます。ずっと好きだったので、嬉しいですね。」
「え〜、好きだったの〜、付き合ってくれんの〜笑
というか、ずっとって言う割にあんま嬉しそうじゃないね?僕がイメージ通りじゃなかった?」
"嬉しそうじゃない"...この指摘にギクリとした。多分バレてない。最近は表情筋を上手い具合に鍛えているからね。
「いえ、haiさんではなく、会場が...」
「会場...?どうゆう...って、こんなこと話したかったわけじゃないのでは?なんか話したいことあったんじゃ??」
「いえいえ、まさかこのような形でお話しできるとは思っておりませんでしたので、遠慮させていただきます。」
「なぜ...?そして距離遠くない...?」
「初対面とは基本、このようなものでございます。」
「そっかー...みんなずっと見てて、親近感があるって言うのにな〜。...腑に落ちないぞ...。」
ここで私に、"遠慮がち"という新しい明確な肩書きが加わりそうになっている。実際は、上手く話せてないだけな気も。
とりあえず、haiさんに数歩近付き、握手をした。彼は瞳を凝視する性質を持つのか、目を一向に逸らさない。なので彼を見たら、バッチリ目が合った。すげぇ...ほんとに画面越しで見た通り、牛乳とコーヒーを半々に入れたくらいの絶妙な瞳の色をしている...虹彩どうなってんだ...。
こんな思考も気づかれないか不安で、不自然に目を逸らしてしまった。彼がスっと笑った気がする。
「お時間ですー」
という声が聞こえたので、挨拶を交わしてそそくさと部屋を出た。もう会う機会がないだろうと悲しむ、ということも別になく。振り返る気も起きず。
同日 午後八時頃 自宅
みっちゃんからメールが来た。
"リアルでみる推し、どうだった?♡"
"目の印象が強い。印象が目でしかない.."
"どゆこと?笑"
一連の流れを話しても、みっちゃんには理解しきれないようだった。主に私の行動が。
最終的には、
"そっか、まぁ無事会えてよかったじゃん!ところでさ、「パワーは力なり」、映画館に明日、見に行かない???"
という具合に、よく分からない映画を見に行く約束をしてしまった。え...これってもしかしてデーt...いや、語弊が生まれる言い方は、やめておこう。
葉月 十六日 午前十一時 街中
午前中に見せられた、「パワーは力なり」は、名前の割には伏線だらけで、学者の人々が難事件を解決していくお話だった。全然脳筋じゃなかった。誰だよその題名つけたの。
「柚ちゃんんん、お腹減ったあああ」
「はいはい、どこで食べようか?イタダキマッスル?
マンプクック堂?」
「どっちもやたら量が多いんだよね…」
「んじゃあ ナポリ坦々麺の店が無難か」
みっちゃんとともに、全体的に暖色の店に入った。
その時、黒髪を括った少年が飛び出て、みっちゃんにぶつかりそうになった。小6くらいかな。その後ろから、保護者と思しき色眼鏡の男性が現れる。
「ご無事ですか!!?ほんとすみません!僕の監督不行き届きです!!!申し訳ありません!!」
みっちゃんにも何もなかったんだし、何もそこまで焦らなくても。みっちゃんと私で、眼鏡の男性と半泣きの少年をなだめた。この時、この中で最も冷静であったはずの私だが、どこかか胸騒ぎを感じていた。私の抱くこの種の不安感の正体は、後に必ず現れる。よく「良くない予感だけは当たる」という人がいるだろう。まさにそれだ。
同日 午後7時 自宅近く・歩いて十分の展望台
私はいつも、考え込むと1人になりたくなる。多くの人がそうだろう。今も、考え込みたくなったので、大抵人口密度0の展望台に来た。
あの後、みっちゃんとのデーt...街ブラはつつがなく終わった。そう、"つつがなく終わった"のだ。つまり、明日以降に何かが起こる、または判明する...あの不安感の正体が。きっとヒントはあったはず。あの少年と男性だろうか。1人で壁に話しかけていたおばさんだろうか。大型犬を数頭従えたチワワだろうか。どれも大したことでなく、皆目見当がつかない。
なんか伝わりにくい文章だと感じたら、多分高校の評論で読んだ文章に影響されている部分だと思います。すみません。甘んじて受け入れていただけると幸いです。




