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ごめんなさいね?私、『悪女』ですの。

作者: 朱瑠

殿下は王子、陛下は王様に対する敬称です。王子の方をちょいちょい名前抜きの殿下だけで呼んでるし、王様の方は1回しか名前出さないレベルなので一応。

「貴女の数々の悪事!果ては、俺にクレア嬢の根も葉もない噂を吹き込もうとする始末!許してはおけん!我が名の下に、アマンダ・オネスト公爵令嬢との婚約を破棄し、その罪は裁判所へ提出させてもらう!」


 貴族の子女が通う学園。そこに、私達の学年が通う最後の日。記念すべき卒業パーティの場で、私の目の前で、その断罪は行われた。


 断罪したのは、この国の第一王子であり、王位継承権第一位の、オーウェン・バーティル殿下。

 断罪されたのは、この国に存在する四大公爵家が一つ、オネスト家の長女であるアマンダ。

 罪状は、罪の無い男爵令嬢に不当な扱いをしたこと。詳しく言えば、悪口、私物を隠す・捨てる、金で雇った暴漢に襲わせようとするなど。


 ……そして、被害者である男爵令嬢というのが、私、クレア・ラスト男爵令嬢だ。


 私は、目の前の、私を虐めてきた公爵令嬢に怯えるように、王子の後ろに隠れていた。そして、まさに目の前で、この断罪劇が、私達と同じ学園の生徒と教員達へ披露されてしまった、という訳だ。

 アマンダは、王子の発言を受けて、顔を真っ青にさせてしまった。今にも倒れそう……というか、ちょうど膝から崩れ落ちた。それを見届けた王子は、こちらへ向き直る。


「これで大丈夫だよ、クレア。誰にも君を傷つけさせやしない。安心して、俺の傍に居るといい」


 私は、そう言う王子に、脈絡のない、しかし決まっていた言葉を告げる。


「誠に残念ですわ、オーウェン殿下。先程行われた愚行は、直ぐにでも国王陛下へ伝わり、殿下の王位継承権ははく奪され、再教育の後に王城で勤めあげる以外の選択肢は無くなることでしょう。殿下はおそらく生涯独身で、きっとこの日の選択を一生後悔なさいますわ」

「……は?クレア、何を言っている?」


 案の定、狐につままれたような顔をする王子。しかし、何を、も何も無い。


「簡単なことですわ。私、男爵令嬢ですの。国に何の利益も齎すこともなく、ただ細々と領地経営をギリギリで回している程度の、いつ没落してもおかしくないような。そんな女性が、次代の王とされる男性と、正妻として婚姻をする?ありえないでしょう?私ではどれだけ良くても愛人が限界。王妃として迎えるならば、アマンダ以上の女性はいませんわ」

「な、何を……」

「これでもしも私がアマンダ以上の利を国に齎す存在であるのならば、殿下の選択は、顰蹙は買えども非難はされないようなものであったと言えるかも知れません。ですが、私の学内での成績は常に中央。知識で言うならば毒にも薬にもならない、平々凡々な存在。家格も足りず、実績も無く。はて、そんな女性が王妃たりうるでしょうか?」

「ど、どういうことだ!何が言いたい!」

「まあ、怖い。先程までは愛を囁いて下さったのに、今では怒りを叫ぶのですか?やはり、王たる器では無かったのでしょうね。アマンダが気の毒ですわ。私、彼女にお詫びをしなければなりません」


 核心は避ける。何故か?簡単。これの詳細を伝えるのは、陛下直々に、と決まっているのだ。故に私は、のらりくらりと躱す。もうすぐで、陛下がお見えになるはず。

 と、噂をすれば、のようだ。パーティ会場のホールの入口辺りが騒がしくなり、私達を少し遠巻きに囲んでいた貴族の輪に切れ目が入る。

 そこから、人生に一度の卒業パーティに、と意気込んで着飾ってきた貴族の子女達とは比べ物にならないほど豪華で、しかしその気品と威厳を損なわないデザインの衣装を纏い、王冠を被った人物が現れる。現国王の、グレイツ陛下である。


「……ち、父上!?」

「公式の場では、陛下と呼ぶように。さて、オーウェン第一王子よ。そなたは大きな過ちを犯した」


 そう言いながら、陛下は壇上へ上がり、陛下に付き従ってきた側近に連れられ、私とアマンダは殿下から距離を取る。


「過ち!?何が過ちだと言うのです!私は、不当な扱いを受けていた男爵令嬢を助け、その首謀者を断罪しただけだ!」


 流石の王子も、私の言葉から、問題にされている事態が何かは把握しているようだ。それの何が問題なのか、軽く説明してあげたというのに理解していないのは残念だが。


「そなたは、次代の王候補たる存在でありながら、国の利益を無視し、私欲を優先させた。王としての資質に問題有り。故に、そなたの王位継承権ははく奪される。また、五年間、西の塔に入り、再度、王族としての責務を一から学び直してもらう」

「私欲!?どこが私欲ですか!クレア嬢を救うことの、どこが!」

「……む?クレア嬢、説明はしておらんのか?」

「アマンダ様では無く私を選ぶことに関しての問題点は説明してありますが、陛下が説明されることに関しては話しておりません」

「……なるほど。腐っても我が子だ。認めたくはなかったが……愚鈍な息子であったようだ。アマンダ嬢。こやつに代わり、父として、謝罪しよう。すまなかった」

「お、おやめ下さい、陛下。こ、これはっ、私も、悪い、のです……」


 口では否定するも、アマンダの涙は流れ続ける。それだけ、彼女はオーウェンのことを心から愛していたのだ。


「……そうか。では、この場にいる全員に、今回のあらましを説明しよう。ただし、口外は無用だ。お主らの親は知っていることであるが故に、親へ話すのは構わぬが、とりわけ兄弟姉妹への口外を禁止する。これは王命である。よいな?」


 陛下の言葉に、ホールに集まっていた貴族子女に緊張が走る。ごくり、と唾を飲む音が聞こえた。


「この国は、千年前、初代国王がこの地を平定して築いた国だ。皆も知っているように、その頃から続く様々なしきたりや儀式、催事や文化などがある。この学園もそのひとつだが……彼は、自らの子へ、試練を課した。自身がついぞ乗り越えることが出来なかったそれを、子には乗り越えて欲しい、とな──」




──それは、自らの子が産まれた頃。彼は、ある一族の元へと向かった。ちょうど第一子が産まれたその家に、彼はこんな依頼をした。

『我が子の王の資質を見極めるため、協力して欲しい』

 彼は、自身の最大の欠点を把握していた。

 それは、女性に弱いことだ。王となる前は良かった。そこらで適当な女性と遊ぼうとも、根無し草で流浪人。そんな彼を咎める人間は居ない。故に、少し言い寄られたら直ぐに転んでしまう。女と見れば見境がない。それは確実に自分の欠点であり、誰かに利用されかねない、と理解していたのだ。この性格は、王になってからもその性格が改善することはなく、愛人を十八人も囲っていたという逸話にも示されている。

 しかし、その性格が子に遺伝していては堪らぬ。敵国に利用され、国民が危険に晒されるのは避けねばならぬ。故に彼は、自らの子へ試練を課したのだ。

 その内容は、擬似的なハニートラップだ。

 彼は、協力を依頼した男爵家の令嬢を直々に教育して、見事な悪女へと育てあげた。もし十数年前の自分であれば、あっさりと魅入られるような女。男を虜にする方法を熟知した少女が誕生した。

 そして彼は、その為に設立した学園で、その少女に、自分の息子へハニートラップを仕掛けさせた。

 同時に彼は、その少女と男爵家に関するとある噂を流させる。曰く、その男爵家には隣国との繋がりがある。曰く、王子から情報を抜き取るつもりだ。などとな。

 しかし、彼の息子は、真実その婚約者を愛しており、近づこうとするその少女のことを見向きもしなかった。父親の性質は引き継がれていなかったのだ。これに喜んだ彼は、事の真実を伝え、男爵家の悪い噂も解消されて大団円。その男爵家は陞爵を

『臣下の責務を果たした迄』と拒否したそうだがな。そしてこの試練は、彼に産まれた三人の王子全てに行われ、以後この国の王家の伝統的な試練として伝えられてきているのだ──




「──そして、我が息子はその試練において、大きな過ちを犯したのだ。自身が惚れた女についてよく調べもせず、あっさりとその言葉に惑わされて、国へ最大の利益を齎す婚約を破棄し、無実の令嬢を断罪する、という最悪の過ちを、な」


 語り終えた陛下は、ほう、と息をつく。彼には五人の子がいて、うち三人は男だ。オーウェンが王としての不適格であるとされても、あと二人は可能性がある。しかし、そもそもこの試練で継承権をはく奪された王子は居ないと聞いている。故に、陛下は自分の息子が初めて試練で大失敗を犯した人間として、歴史に残ってしまうことを憂慮されているのだろう。


「……な、それが本当なら、クレア、君は……」

「……そうですわ。ごめんなさいね?私、『悪女』ですの。陛下より直々に教育を受け、貴方を罠に嵌めるために、学園で貴方を誘惑し続けて来ましたわ。同時に、私自身に関する悪評を流したり、アマンダ様の行いをでっち上げて伝えたりもしましたけれど……殿下はお気づきになられませんでしたわね」


 悪女。名誉ある仕事だ。国が、王位継承権のある子息と同じ年齢の令嬢を持つ男爵家へ与える、国の為の仕事。これまでもこれからも続く、伝統的な役割。


 しかし、それを聞いたオーウェン殿下は、顔に絶望を滲ませる。


「そんな……では、この愛は騙されて……?ふ、ふざけるな!」


 更には、こちらに怒りまで向けてきた。

 そんな顔を見て……私も怒りを顕にした。陛下の御前であるが、これだけは言わねば気が済まない。


「何がふざけるな、ですか?それはこちらのセリフですわ。先程も言いました通り、私は自身に関する悪評を流しましたし、貴方へ渡したアマンダの行いは全てでっち上げ。根も葉もない噂、と言いましたが、調べさせてもいないでしょう?王宮の方には話が通っていますから、貴方が周囲の者へ調べさせていれば、それだけで私が信頼するに値しないという様々な証拠が現れます。私があえて流した悪評だというのは、誰も貴方へは伝えません。それだけでなく、三年目に入る頃に一度、貴方の側近が貴方へ忠告もしていますわ。それらを全て無視したのは貴方自身です」


 ……ここまでが、前置き。彼に自身の失敗を理解させるための。

 そして、ここからが本題だ。


「そのせいで、貴方を愛したアマンダは、貴方との婚約を破棄されました。公式な場で、公式な立場の人間が、その名のもとに行った婚約破棄です。これは正当な効力を持ちますし、それでなくとも、アマンダは、オネスト家の唯一の令嬢です。貴方が立場を失うことで、オネスト家はアマンダの扱いを改め、他の婚約者を探さねばなりません。貴方の行いのせいで、アマンダは、愛した人を失って、本当の意味で政略結婚の駒となるのを受け入れるしかないのです!それを分かっているのですか!?」

「や、やめて、クレア。もういいの、いいのよ。仕方の無いことだわ。これは国の伝統。必要な試練。殿下は、それに失敗した。その可能性も考えていたわよ。だって、貴女が『悪女』を演じるのですもの。殿下を諌められなかった私の責任だわ」

「いいわけが無いでしょう!?だって、私は……私は、貴女の婚約者を奪って……!私が、私のせいで……!」

「違う、違うわ、クレア。貴女のせいじゃない。貴女のせいじゃないのよ……」


 私は、陛下直々に教育を受けていた。アマンダは、王妃教育も受けるし、この試練についても予め聞かされる。私もアマンダも、よく王宮へ上がり、故に、よく出会っていた。オーウェン殿下は私と出会わないよう上手くスケジュール管理がされていたが、私とアマンダは寧ろ積極的に会っていた。立場は違えど、共に王城で学ぶ、同い年の女の子。また、今まで、王位継承権の優先度が下がる王子は居たが、はく奪されてしまうような者は居らず、オーウェン殿下とアマンダの婚約が破棄されることも無いだろう、と、お互いに思っていたこともあり、そのことで私が悪く思われることもなかった。何より、幼い貴族は同じ程度の年齢の人と会うことは少ないのだ。子供と言えど貴族。立場に応じた振る舞いを求められる。故に、マナーが身につくまでは、普通、外に出されない。私の同い年の知り合いは、アマンダだけで、それはアマンダも同じだった。


 つまり、私とアマンダは、古くからの親友だ。


 故に、彼女の婚約者を、愛する人を陥れるというのは心が傷んだ。しかし、王より賜った誇り高き役目を放棄する訳にもいかないし、学園でも事ある毎に私を励ましてくれたのはアマンダだった。その時は、私が彼を諌められればそれで問題ないのよ、と言っていたけれど、結局オーウェン殿下は私に首ったけになってしまった。一週間前、最後まで使命を全うしなさいと、でっち上げの罪状を殿下へ提出するのを躊躇っていた私へ言った時のアマンダの壮絶な顔を、私は今もハッキリと覚えている。


「……オーウェン。そなたは、二人の令嬢を不幸にした。自分を愛してくれていた令嬢を捨て、盲目的な愛とやらに没頭したせいでな。アマンダ嬢は愛する人と共に歩む未来を失い、クレア嬢は親友を裏切った罪悪感に囚われることとなる。私も、残念に思うよ。まさか、我が子がここまで不出来だとは思わなかった。オーウェンを連れてゆけ。アマンダ嬢とクレア嬢は、落ち着いたら王城へ来なさい。アマンダ嬢には謝罪を、クレア嬢には褒賞を贈らせてもらう」


 そう言うと、連れられて行った殿下を追うように、陛下もホールから出ていく。


 後には泣きながら抱き合う私とアマンダ、そして卒業パーティの出席者が残り、ザワザワと、先程の出来事について話していた。

仕掛けと登場人物の関係性だけ先に考えて、展開は筆の走りに任せたらバッドエンドになりました。バッドエンド、初めて書いた。

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