『第3回 下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞』シリーズ
僕と彼女の交差点
高校の通学路。
いつも同じ時間、あの交差点に差しかかると、女子高生の彼女が向こうから歩いてくる。
僕は、名も知らぬ彼女とすれ違う。
いつしか僕は、今日も彼女に逢えないかと考えるようになっていた。
彼女の制服が半袖になり、季節の変わり目を感じた。
彼女が髪を切れば、失恋でもしたのだろうか?
妄想は膨らんだ。
ある日、交差点で僕と彼女は、いつものようにすれ違った。
すれ違いざまに、何かが地面に落ちた。
僕は振り返ると、彼女の落とし物がそこにはあった。
「あっ、あの……」
彼女に話しかけた僕の声は、自分でも驚くほど小さかった。
突然の会話のチャンスに、緊張が僕の喉を締め付けた。
落し物は、いつも鞄に付いているお守りだ。
彼女は振り返ることもなく、その後ろ姿は次第に小さくなっていった。
翌朝。
「す、すみません……」
僕は声を出したが、続きの言葉が出てこなかった。
その間に、彼女の後ろ姿は小さくなっていく。
このままじゃダメだ!
このお守りが、僕にきっかけをくれたんだから!
僕は、文章を考え何度も練習した。
その様子を彼女のお守りが見守ってくれていた。
翌朝、僕は意気込み玄関を飛び出した。
しかし、お守りを部屋に置き忘れる凡ミスをした。
慌てて引き返し、再び家を出る。
遅れるわけにいかない!
あの交差点に行かなければ!
しかし、今日はどういうわけか邪魔が入った。
道路工事により、迂回ルートを指示された。
遠回りをし、息を切らし僕は坂道を駆ける。
目の前を歩くお婆さんが荷物をぶちまけ、僕はそれを拾う。
外国人に道を尋ねられ、もう踏んだり蹴ったりだ。
僕は走った。
あの交差点に行かなければ!
別に明日渡せばいいのかもしれない。
だけど、何故だか今日渡さないといけない気がした。
あぁ、もう! なんでだよ!
僕が辿り着いた時、交差点には人だかりができていた。
赤い回転灯が見える。
ん?
トラックとの衝突事故があったらしい。
え……
タンカーで運ばれていくのは、彼女だった。
彼女は亡くなった。
いつもの時間に交差点に来ていたら、事故に遭ったのは僕だったのかもしれない。
もっと早く、彼女にお守りを返しておけば、彼女は事故に遭わなかったのかもしれない。
なんで、なんで彼女が死ななくちゃならなかったんだ!
平行な道は交わらない。
でも、ずっと隣にいられるのかもしれない。
垂直な道は交わる。
でも、その交差点は一度だけだ。
彼女が落とし物をした日、それがきっと、僕と彼女の交差点だった。