第4話 『点滴を引っ張ってはいけません』
「まずは、リミトロフについて。」
そういってシュンさんは説明を始めた。
「あ、昨日会った金髪のやつも俺のことをリミトロフって言ってました。なんなんですか?リミトロフって?」
「昨日?あぁ、きみはかれこれ1週間ぐらい寝てたんだよ。」
「え!?ぼくそんなに寝てました?」
「うん。シルビィの能力のせいもあるけど、かなり重症だったからしょうがないね」
「能力...ですか。」
「まぁそこも追々説明しよう。まずはリミトロフというのは《境界に住まう者》という意味なんだ。きみが今まで住んでいたことを〈現世〉、死後の世界を〈常世〉と言うが、その境界、リミトに落ちてしまった人々をリミトロフと呼んでいる。」
「えっと、その...じゃあなぜ僕はリミトロフになってしまったんですか?」
理由は直感的に感じてしまっていた。
しかし現実を直視できない、したくない気持ちから無意識にシュンさんに訳を聞いてしまった。
「君は、一度死んでしまったんだよ。本来、人は死ぬと常世に行くが、稀にリミトに送られる。心当たりがあるんじゃないかな?」
「......はい。車に引かれる直前で周りの時が止まって、、、」
今、生きているという事実のせいで実感さえ得られないが、一度は死んだという事実は心をギュッと掴まれたような窒息感があった。
「大丈夫だよ。かく言う僕もリミトに送られた人間だからね。送られる基準は未だ判明していないが、現世に強烈な心残りがある人なのではないかと言われている。」
そう言ってシュンさんは微笑みながら肩に手を置いてくれる。
そして、また神妙な表情に戻り
「今の君には酷かもしれないけど、また死にたくなければ戦うしかないことも事実だ。」
「...戦う?」
「うん。リミトロフに送られた人間にはタイムランク、タイランと呼ばれるものが付与される。」
「あ、さっきシルビィさんが言っていた。」
「そうそう。このタイムランクはリミトロフの寿命であり、生命力であり、全てだ。タイランはS〜Gまであり、Gから落ちると...”H行き”だ。」
「Hに落ちるとどうなるんですか?」
「Heaven行き、つまり成仏だね。(ニコッ)」
彼が纏っていた爽やかの中に闇を感じでしまい、ゾクっとして背筋が伸びてしまう。
「各ランクではクラスで序列が決まってて10が最高、1が最低。つまり、G1はほぼ死にかけと言っていい。手を出して、グーにしてくれるかな?」
点滴のついてない左手を出して握り拳を作ってみる。
「そして、心の中でタイムランクと念じながらギュッと手を握ってみてくれ」
「はい。」
(...タイムランク)
そうすると手の甲にG2という文字が浮かんできた。
「これが君のランクだ。Gランク クラス2だね。っにしても、シルビィの言う通りほとんど死にかけじゃないか!ハハハ」
全然笑い事じゃない。
イラッとした雰囲気を出してしまったことを気づいた。
「ごめんごめん。でもこのままだと君は本当に死んでしまうから戦うしかないんだ。何もしなければ君の寿命はあと2年。1クラスで1年分の寿命で計算され、日々タイムは消費されていく。」
「あと2年ですか...」
唐突な余命宣告を受けたが、死んだことすら実感が持てない優馬には一切の現実味がなかった。
いきなり戦えと言われたところで戦える気なんかしない。そもそも体を動かすことすら億劫だった。
今までやった運動なんて中学生で野球部に入っていたぐらいで、大した強豪校でも無いのに引退までベンチを温めて続けたぐらいには運動神経に恵まれていない。
「でも、いや、やっぱりぼくには戦ったりするのは無理だと思うんですけど...」
「みんな最初はそう言うけど、なんとかなってるから大丈夫だよ!まぁなんとかならなかった子もいたけど、大丈夫。」
「それ、それですよ。ぼくはなんとかならなかった子の1人になるのがオチです。運動神経なんて皆無だし、武術とかもやったことないし」
「よし!シルビィもほぼ完治って言ってたしとりあえずボスに挨拶に行こうか!」
「え?話聞いてました?」
思いっきり点滴を抜かれてイテッと言う間に着替えを持ってこられ、嵐のようにそこから連れ出された。
全然能力の話に行けないです。すみません。