第3話 『冷えたスイカは旨い』
暖かい日差しを感じた。
時折吹く風が気持ちよく、この縁側から部屋の中に入る風が大好きだった。
(ここは...おじいちゃんの家?)
夏休みになると毎年遊びに来ていた祖父の家だ。
祖母は僕が3歳の頃に交通事故で亡くなってしまったらしく記憶がない。
この家に祖父が越してきたのは僕が小学校2年生の時だった。
元々は一緒に暮らしていたが、地方で古民家を買ってゆっくりしたいと言って家を出て行ってしまった。
おじいちゃん子だった僕は泣いて引き留めたが、毎年一緒に縁側でスイカを食べようという約束で折れたのを良く覚えている。
「おぉ〜い、優馬や、このスイカ運ぶの手伝っちょくれ」
「え?あ、うん。」
おじいちゃんの家の近くには綺麗な湧水が出ており、それで冷やしたスイカは格別だった。
「うまいか?」
「うん。うまいよ、爺ちゃん。」
「そうじゃろう、そうじゃろう。爺ちゃんが切ったスイカはうまいんじゃ。また来年もここで食べような、優馬。」
「そうだね。ありがとう...」
祖父と話すのは9年ぶりだった。
僕が6年生の時、突如行方不明となり、母からは不慮の事故で亡くなったと聞いた時は、わんわんと泣き喚いた。
そんな祖父との会話と、久しぶりの甘いスイカの味を思い出して、心が暖かくなり涙が零れた。
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「爺ちゃん....」
涙が顔を伝っていく感覚で意識が戻る。
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ
メトロノームの様な音が聞こえる。
徐々にはっきりとしてくる視界にクリーム色の天井がみえた。
自分がベットに寝ていることは自覚でき、周りには点滴やら、難しい機械が置いてあるため病院の様なところであることは察しがついた。
(あれ...なにがあったんだっけ。えっと、金髪のやつとあって、、、)
そしてあの場面を思い出てし、血の気が引いた。
咄嗟にバッと自分の腹部に目を落としたが包帯が巻かれていた。
(あんまり痛くないな。血も出てない様だし、誰かが助けてくれた?)
周りに人影はなく、相変わらずメトロノームの様な音だけが響いている。
とりあえず起き上がり、点滴のかかっている棒を杖代わりにして歩き始めた。
部屋に一つしかない扉の前に立つと自動でドアが開いた。
とりあえず部屋の外に出ようとすると、
「おい、お前。まだ歩き回るんじゃねぇ」
声が聞こえたが人は見えない。
左右に続く道を何度も見たが声の主が見つからなかった。
「お前、失礼な奴だな。下だ。下。」
目を落とすとそこには小学生の女の子がいた。
「えっと?小学生?」
「なるほどな。もう一度死にかけないとわかんねぇっていうならそうしてやる。てめぇの腹にあいた穴を誰が治してやったと思ってんだ。そうゆう礼儀がなってねぇ奴には、こうだ!」
「ほーら、シルビィやめてあげなよ。」
そこに長身の男性が止めに入ってくれた。
全身に爽やかを纏ってる様な好青年で、優しい一重で微笑みながらシルビィという小学生をなだめてくれた。
「いやだってこいつ俺のこと小学生っていうんだ!」
「まぁまぁシルビィの凄さは俺たちがよーく知ってるからさ。大丈夫だよ。」
自然と頭を撫でてしまう彼のイケメンスペックの高さに驚いているが、シルビィは顔を真っ赤にし涙を浮かべてこちらを睨んでくる。
「いや、あのすみません。助けていただいたみたいで、、、」
「いきなりで色々混乱しちゃうよね。おれはシュン。この子はシルビィ。シルビィは天才的なお医者さんなんだよ?君の怪我を治したのも彼女なんだから、ちゃんとお礼は言わないとだね。」
「そうだったんですね、本当ありがとうございます」
未だに小学生と言われたことを根に持っている様子で、プイっとそっぽを向かれてしまった。
やっぱり小学生ではないか。
「シルビィ、彼はもう大丈夫そう?あの世界に入ってしまったなら説明をしてあげないとと思ってるんだけど。」
「ほぼ全快してるから問題はないわね。治す時にタイランをものすごい消費したから、別のところで死んじゃうかもだけどねぇ〜」
イタズラをする小学生の様な笑みを向けて、彼女はどこかへ走って行ってしまった。
「ごめんねぇ、起きたてで騒がしくて」
「い、いえ、、、」
「とりあえず、君の体験したことを説明してあげるからさ。長くなるから、ベットにでも座ってよ。」
ーー「まずは、リミトロフについて。」
次回、ようやく異能力に関しての説明回です。