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第1話 『車は手では止められない』

見覚えのある街並みだ。


最近になって親しみを感じられるようになったその街には常に人が溢れかえっている。

日中は人で賑わい、夜も眠らない。

そんな街も今は奇妙な静けさの中にピリピリとした緊張感がある。


いつもは煌々と夜を照らすネオンや街灯は、こちらを伺うように不規則な点滅を繰り返している。

人影も全く無く、少し耳障りな喧騒も完全に鳴りを潜めてしまっているようだ。

本来であれば違和感を感じざるを得ないその状況も、目の前で起きているこの”現象”と比べると些細なことに思えてしまった。


その”現象”は、初老とは思えないほど鍛え上げられた肉体を持つ白長髪の男性に向いている。

そして電気、いや雷と呼ぶにふさわしいその”現象”は白長髪の男性めがけて飛んでいった。


雷が近づいていき、その光で白長髪の男性の顔がはっきりの見えた。

その顔は興奮と狂気に満ちた表情で、嬉々として”現象”に立ち向かっているように思えた。


ふと、目を落として気づく。

その”現象”は間違いなく、この手から飛んでいっていた。




ーーー現象を生み出したのは、僕だった。





-------------------------------------------------------


ジリリリリリ

ジリリリリ

バンッ


「うぅ、あぁ〜っ」


何度目のスヌーズかわからないその目覚ましを止める。

虚な眼で見た時計は7:53と表示されていた。

7:30にセットしたことを考えると急がねば遅刻というところだが、


「あっ、、さようなら...一限目...」


そういって欲求に身を任せようとすると


「ほら!今日も一限じゃないの!?早く起きて大学行きなさい!」


「...今日は...三限からなんだよぉ...」


寝起きにしては機転の効いた嘘をつけたと自負している。


「嘘おっしゃい!あんた1年生も2年生もほとんど学校行ってないんだから毎日一限でしょ!!」


ダメだった。歯が立たなかったどころの騒ぎではない。歯すら生えていなかった。


「はぁ...」


眠気を押し殺し準備を始める。

もうすでに学校の最寄駅からのダッシュが確定している僕は憂鬱であった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


最寄駅から運動不足の足に鞭を打ちダッシュ?したことでなんとがギリギリ教室に到着した。

汗ばんだ肌にエアコンの風が少し冷たい。


「おはよ!」

などといってくれる友達は皆無である。なぜなら1年生向けの授業だからだ。

なんだか胸のあたりまで寒くなってきたのは気のせいったら気のせいだ。

まぶたの重さに勝てず、漆黒の闇に引きずり込まれ、無抵抗のまま休み続けた1年生の自分を殴ってやりたい。


そして先生の全く興味のない話が右から左へと流れていき、ふと今朝の夢を思い出す。


(最近よく見るんだよなぁあの夢...妙にリアリティあるけど内容がファンタジー過ぎる...)

(だいたい夢なんて見てもほとんど覚えてないのに。いや毎回同じ内容なら流石に覚えるか。)


毎回、同じ内容の夢を見ていた。

もはや悪夢の類なのかもしれないが、当の本人はファンタジーな世界観が気に入っていた。


「はい、じゃあ今日はここまで。お疲れ様でした。」


都合の良い耳はその言葉だけはしっかりと聞き取り、授業が終わった。

そして、その後3科目しっかりと出席し帰路についた。


-------------------------------------------------------


いつもなら疲労困憊の体をなんとか家路に向かわせるとこだが、今日はなんとなく夢に出てきたあの街に向かっていた。

今までも気にはなってはいたものの、平日は直帰し、休日は家に引きこもっている生態上なかなか足を運ぶことが出来なかった。

大学の最寄駅より乗り継ぎを2回するという手間も足を遠ざけた理由の一つだろう。


その街は前回きた時から何も変わっておらず、人、人、人、物、車、人と、とにかく「都会」という表現が一番適している。

大学生になってから度々来るようになり、この街は結構好きだ。

大通りから一歩裏手にあるハンバーグ屋は絶品だし、菊坂という大きな坂を登ったとこにある焦がし味噌ラーメンは大学生活に彩りを与えてくれているといっても過言ではない。

ただ、何よりも好きなのはこのビル群だ。


(あそこから見る景色はまた違うんだろうなぁ)


と上を見ながら歩いてしまうのはここでの習慣になっていた。




僕は全く気付いていなかった。歩道にいるからと安心していた。


車がものすごい勢いで自分に近づいてくるのを認識できたのは、目の前3mまで迫ったところだった。


ブロロロロロロ


ブレーキ音もしないで突っ込んでくる。

あまりの恐怖に目を瞑り、足はガクガクして動かない、とっさに両腕を前に出した。それしか出来なかった。



そして5秒ほど目を瞑っていただろうか。

いっこうに予想していた衝撃や痛みがやってこない。


そっと目を開けてみると




ーー止まっていた。




正確には車だけでは無く、空間が止まっているような感覚だった。


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