99.狙撃手と土地の下見
「センパイ! ここです」
「おお・・・!」
リコッチに案内されたのは森林エリアの奥深くだった。
森とも林ともつかない場所を抜けると、視界が開ける。
陽の光を反射してキラキラと煌めく大きな湖が、目の前に広がっていた。
「森林エリアにこんな穴場があったとは」
「えへへー。すごいでしょ?」
「ああ。思った以上に綺麗だ」
お世辞ではなく本心だ。
湖は透明度が高いようで、すいーっと泳ぐ魚が肉眼で目視できる。
更に底のほうには何やら巨大な影が見えるが・・・アレは何だ? 湖の主か?
間違っても襲ってこないよな?
・・・あまり気にしないほうが良さそうだ。
「よさそうだな。この湖に隣接するように家を建てよう」
「センパイ、どんな家がいいですか?」
リコッチがワクワクした様子で俺を見上げてくる。
そうだな・・・。
俺たちが得た権利書はフリーパスなぶん、屋敷を建てられるほどの広さは望めない。
せいぜいが大きめの一戸建て程度の土地になる。
とはいえ住宅地にあるような普通の戸建てを、これほど綺麗な湖のほとりに建てるのはどうも似つかわしくない。
仮想世界であることも考慮すると、やはり日常から離れた様式のほうがリコッチも喜ぶだろう。
「せっかく綺麗な景色と湖なんだ、別荘のような家にしないか? ほら、軽井沢とかにある」
「おおー! いいですね、別荘!」
「そして裏手にはベランダのような・・・こう、そのまま湖に出られるような構造にして」
「おおおー!」
「そうなると家の素材はレンガなどではなく、やはり木がいいだろう」
「おおおおー!」
リコッチの目がキラキラと輝いている。
興奮でぴょんぴょんと跳ねている。
恐らく頭の中で完成図を描いているのだろう。
嬉しそうで何よりだ。
「じゃーそんな感じで依頼しますね!」
「木工スキル持ちの生産職にか?」
「ですよー。センパイ、会ったことないんでしたっけ? しばらく前にジャッティに入った子で、そのときは初心者だったんですけど木工スキルをぐんぐん伸ばしてるんです」
ん・・・。
知っている気がする。
もしかすると以前、初心者いびりを受けて俺が助けた子かもしれない。
「背が小さめで目がくりっとしてて小動物のような印象を受ける子か?」
「あっ、そうです! 知り合いだったんですねー」
どうやら当たりのようだ。
まあ知り合いというか、向こうはギルド戦でギルド本拠地に立ち寄ったときに俺にちょっと会釈をしただけだ。
恐らく覚えていないだろう。
「でもたぶん素材とかは私たちが集めなきゃですけど」
「家を建ててもらう以上、当然だろうな。報酬も弾んでやりたい」
「ですねえ。そのあたりも話しておきます」
「頼む」
しかしそういえば、俺は木工スキルというものを全く知らない。
いい機会なので尋ねてみよう。
「リコッチ。当たり前だが、現実の大工のようなことをして建築するんじゃないよな?」
「あははー。それはそうですよ。センパイがカジさんにライフルを作ってもらったときも、タッチパネルをぽんぽんぽんで出来上がったんじゃないですか?」
「ああ・・・。言われてみるとその通りだ。家も同じなのか」
「家もっていうか、このゲームの生産は全部そうですよー。家具も服も料理も全部、ぽんぽんぽんで作成できちゃいます」
まあそりゃそうだ。
少々味気ない気がしないでもないが、これはあくまでゲームであり、実際にプレイしているプレイヤーは現実世界では専門の職人ではない。
ゲームとしての利便性が優先されるのは当然のことだ。
「センパイ! 別荘の中にはキッチンつけたいです。キッチン!」
「いやリコッチ、料理スキルないだろう」
「なくてもつけたいです! あとリビングは広くしたいですし、2階にはちゃんとベッドルームもつけて、それからそれから」
興奮気味に、手を大きく広げたり背伸びしたりしながらあれこれ語るリコッチ。
とても楽しそうだ。
そのおかげで別荘の内装も少しずつイメージが固まってくる。
・・・悪くないな。
こういうのも悪くない。
俺はリアルで戸建てなど買ったことはないが、きっとこんな感じなのだろう。
「・・・センパイ、何か微笑ましいものを見るような目してますけど、どうしたんですか?」
「いや。現実で戸建てを買うのもこんな感じなのかと思ってな」
「えっ、現実で・・・!? わ、わ、わああああ・・・!」
リコッチは顔を真っ赤にして、手をぱたぱた振っている。
いったいどうしたんだ?
・・・ん?
・・・んん?
待て。現実でリコッチと家を買うような発言だ。
家を買う以上は結婚となるわけで、ある種のプロポーズのような意味に受け取られてもおかしくはない。
「い、いや待て、落ち着けリコッチ。そんな深い意味で言ったわけじゃない」
「えっ・・・。は、はい。わかってます!」
わかっていると言いながら、赤くなった頬をぺちぺちしたり、落ち着きなくうろうろしているリコッチ。
ま、まあいいか・・・。
とりあえず目の前のことに意識を向けることにしよう。
立地が決まった以上、次は権利書を持ってきて正式に土地を確保し、生産職の子に家を建ててもらうのだ。




