91.狙撃手・リコッチVSダンチョー・クッコロ
俺とリコッチは闘技場の戦闘エリアに移動する。
対面からはダンチョーとクッコロがゆっくりと歩いてくる。
「リコッチうおおおおお!」
「おっさんがんばれ!」
「ダンチョー勝てる試合だぞ!」
「クッコロかっこいい!」
「ここまで来たら優勝してくれーー!」
観客席は大盛り上がりだ。
ダンチョーとクッコロは上位プレイヤーとして安定した人気があるし、リコッチはその容姿も相まってファンが異常に多い。
俺は・・・まあ新参者が準決勝まで来たのだから応援してくれているのだろう。
俺は正面に佇む2人を見据える。
「やあケンタロ、リコッチ。正直ここまで勝ち上がってくるとは思わなかった。とても驚いてる」
「まあ、ほぼリコッチのおかげだ」
「そんなことないですっ。2人の力です!」
「ははは。仲が良いようで何よりだ。でも悪いけど、2人の快進撃もここまでだよ」
ダンチョーの瞳は真剣そのものだ。
たとえ自分たちが有利であろうと、一片の油断もなく全力で戦うとその目が言っている。
「ダンチョーの言う通りだ。手加減は期待しないでくれ」
「無論だ、クッコロ。手を抜いたら許さん。本気で来い」
俺の言葉にクッコロはぱちぱちと瞬きをし、それから「ふっ」と満足そうに笑った。
「センパイ。私、センパイの作戦を信じてます」
すぐ隣でリコッチが囁いた。
その言葉は嘘ではないようで、リコッチの目には迷いがない。
完全に俺を信じ切っている表情だ。
俺は大きく頷く。
僅かなタイミングのズレも命取りだが、リコッチが完璧に俺の作戦通りに動いてくれるなら勝機はある。
とはいえ肝心の俺がミスをしては何もならない。
これまでのどの試合よりも集中しなければなるまい。
【試合開始:5秒前】
俺はスナイパーライフルを握る。
隣でリコッチも杖をぎゅっと握り締めている。
俺のライフル同様、この杖がリコッチが命を預ける相棒なのだ。
【試合開始:3秒前】
クッコロが前傾姿勢になる。
今にも開始地点から駆け出しそうだ。
ナイトにもランサーにも飛び道具がないので、すぐにでも接近したいだろうからな。
【試合開始】
観客席から一際大きな歓声が上がる。
「カウンタースペル!」
予想通り魔法防御を上昇させたクッコロが、歓声に押されるように駆け出す。すぐ後ろにはダンチョーが槍を構えて追走する。
俺はライフルを構えて――何もしない。
そしてリコッチも何もしない。
「・・・?」
ダンチョーが眉を顰めるのが見える。
だが距離が離れていては何もできないので、駆け足を緩めることはない。
じき接敵する。
「フリージングトラップ!」
「ぬっ!」
ダンチョーが硬直する。
魔法にかかったのだ。
クッコロには効かなくとも、ダンチョーには通用する。
だがすぐさまクッコロが、ダンチョーの前に立ちはだかる。
大盾を構えて、どんな攻撃も通さない構えだ。
「リコッチ!」
「はい、センパイ!」
俺たちはそれに構わず、左右に分かれて駆けた。
俺はダンチョーの右側面、そしてリコッチは左側面へと移動する。
リコッチが硬直中のダンチョーへ杖を向ける。
俺も同じくダンチョーに銃口を向ける。
「2方向からの攻撃とは考えたな! だが甘い!」
クッコロが息を吸い込み、吼える。
「おおおおッ! タウントッッ!!」
ぺちんっ、ぽこんっ。
俺は素手でクッコロを殴った。リコッチは杖で。
「――――な」
目を剥くダンチョー。
驚愕の表情を浮かべるクッコロ。
俺の足元には、コロンとライフルが転がっている。
そう。
俺はタウントが発動する直前、武器を手放したのだ。
武器がなければ当然、素手で殴ることになる。
つまり――ライフルの攻撃はクールダウンに入らない。
驚きのあまり声を失っている2人を尻目に、素早く足元からライフルを拾い上げる。
これでタウントはクールダウン中だ。すぐには再使用できない。
だが、まだだ。
射線を通すために、あともう一手いる。
「リコッチ、もう一度フリージングトラップだ! 俺が仕留める!」
「はい! センパイ!」
「・・・そうはさせん!」
俺の声で我に返ったようで、クッコロがすかさず俺とダンチョーの射線上に飛び込んでくる。
これではライフルでダンチョーを狙えない。
俺は――口角を上げた。
「クッコロ、フェイントだ!」
ダンチョーが声を張る。
リコッチが杖を振り上げる。同時にダンチョーが槍を繰り出す。
「――しまった!」
クッコロが振り返るがもう遅い。
2人を遮るものは何もない。
タンクのクッコロは俺が釣ったからな。
「はあああっ! フリージングエッジ!」
「タイダルスピアー!」
リコッチ必殺の氷の斬撃は、過たずダンチョーを切り裂いた。
同時にダンチョーの槍がリコッチを串刺しにする。
2人がデッドする。相打ちだ。
「・・・ば、馬鹿な」
相打ちを目の当たりにして、クッコロが呆然と呟く。
俺はそんなクッコロに銃口を向ける。
「く・・・!」
クッコロが大盾を構える。
だが彼女もわかっているだろう。
これで詰みだと。
「クッコロ、降参しろ」
「・・・」
クッコロが歯噛みするが、選択肢はない。
俺のライフルはクッコロを一撃でキルできないが、一応ダメージを与えることはできる。
反面、クッコロには武器がない。素手で殴ったところで俺にダメージはない。
大盾をぶつけるシールドチャージは見た目は痛そうだが、ただのノックバックスキルだしな。
そしてこの大会はポーション禁止だ。
クッコロはタフだが回復手段がないので、HPゲージは減る一方だ。
だから何発かかるかわからないが、俺がひたすらライフルで削り、時間をかけてクッコロをキルするか。
あるいは自主的に降参するか。
その違いでしかない。
俺たちの勝機は、いかにタンクのクッコロに仕事をさせず、ダンチョーだけをキルするか。
ただその一点だった。
だからどうしてもタウントを無駄撃ちさせる必要があったし、リコッチの攻撃のために俺がクッコロを釣る必要があった。
クッコロに仕事をさせなければ俺たちの勝ち、逆に仕事をされてしまうと負けというある意味で単純な構図だったのだ。
クッコロはぎゅっと目を瞑り・・・無念の声を絞り出す。
「・・・参った」
がくりと膝を落とすクッコロ。
俺は大きく息を吐き出した。
張り詰めていた緊張を解く。
「うおおおお! うおおおおおおおお!」
「ああーダンチョーが!」
「クッコロさんがああ!」
「すげえ試合だった!」
「観戦してよかったあああ!」
「うおおおリコッチいいいい!!」
「おっさんがやったぞ!」
「おっさんすげええ!」
「リコッチリコッチ! おっさんおっさん!!」
観客席はもはやお祭り状態だ。地鳴りのような歓声に耳が痛い。
俺がライフルを肩に担ぐと、幽霊状態から戻ったリコッチがぎゅうーっと飛びついてきた。
「センパイ! せんぱあい! やりましたよー!」
ぎゅうぎゅうと俺を抱きしめるリコッチ。
その目にはうっすらと涙が溜まっている。
負ける公算が高かっただけに、よっぽど嬉しかったようだ。
俺はリコッチの頭をぽんぽんと撫でる。
「・・・してやられたよ、ケンタロ。いや、軍師ケンタロとでも呼ぶべきか?」
「勘弁してくれ。一度しか通用しない策だ」
悔しそうな、しかし清々しい表情でダンチョーが手を差し出してくる。
俺も手を差し出し、握手をする。
「ケンタロ、嘘はずるいぞ」
クッコロも唇を尖らせながら、手を差し出す。
握手をする。
「クッコロは素直な性格だからな。騎士として誇っていい」
「ふっ・・・次は騙されないからな」
そう言って爽やかに笑うクッコロ。
こうして俺たちは決勝戦への切符を手に入れた。




