9.狙撃手、成果を得る
俺はPKをした。
最初に湧き上がってきたのは罪悪感でも良心の呵責でもなく。
達成感。
次いで満足感。
何だこれ。
たかがゲームで狙撃しただけなのに。
楽しい。
すごく楽しい。
機械的にモンスターを倒すのとはわけが違う。
胸の奥からふつふつと喜びが湧いてくる。
これが充足感ってやつか?
こんな感覚は社畜になってから一度も感じたことがない。
俺は今、すごく楽しい。
・・・。
・・・。
しかしふと冷静になってみると、PKをして喜びを感じている俺は少々やばい奴ではなかろうか?
ふむ・・・。
まあいいか。
こいつはただのゲームだ。
要はリアルでやばい行動を取らなければ何の問題もないのだ。
それより冷静になったことで、俺は確認を忘れていたことを思い出した。
大事な確認だ。
PKをしたことで、何が得られたのか。
ステータスがどう変わったのか。
俺に必要なのは情報だ。
俺は空中のパネルをタッチして、ステータスウィンドウを開く。
何も変わっていない。
3人も倒したのにスキルポイントを得ているわけでもなく、金も増えていないようだ。
そうか、PKをしたところで別に何も・・・ん?
何だ? アイテム欄に買った覚えのないアイテムがある。
元々、移動速度ポーションしか持っていなかったはずだが、2つ増えている。
一つはHPポーション。
そして2つ目は・・・命中の指輪+2だと?
俺がさっきキルしたプレイヤーは3人。
増えたアイテムは2つ。
なるほど、PKされると恐らく一定確率で所持アイテムのどれかをドロップするんだな。
美味しい。
だがあくまで確率でのドロップだから美味しすぎない。
絶妙のバランスといえよう。
仮に確定でドロップしたら、PKがはびこる世紀末ヒャッハーなゲームになってしまうからな。
リスクを冒しても何も得られない可能性がある。
だからこそPKが蔓延していないのだろう。
まあ・・・他にもPKをしたペナルティが何かあるかもしれんが、今の俺にはわからない。
おいおい調べていこう。
それより命中の指輪+2だ。
俺は指にはめて装備してみる。
ピコン!と音がして、パッシブスキルの”命中”が2増えた。
おお!
これはいい。素晴らしい。
今の俺にとって喉から手が出るほどほしいアイテムだ。
幸先のいいスタートになった。
PKは忌諱するようなことじゃあない。
少なくとも俺にとっては、積極的に行うプレイだ。
だが浮かれることばかりじゃない。
今日のPKは、明らかに幸運に恵まれていた。
標的となった3人はどう見てもPKに慣れておらず、反撃もなかった。
ひたすらモンスターだけを狩る平和な日々を送ってきたんだろうな。
うん。
俺は自分を戒める。
今後、PKを行っていくなら、いずれPK慣れしたプレイヤーとも遭遇する。
そのときにどう立ち回るかが肝心だ。
相手に反撃を許せば、脆い狙撃手なんて一撃で殺されるだろうからな。
よし。これからも頼むぞ、相棒。
俺はスナイパーライフルを肩に担ぎ直した。