83.狙撃手と武闘大会の予選
武闘大会のルールはこうだ。
まず一週間、ランクマッチの期間がある。
いわゆる予選だ。
参加者はこの間に、2人1組のタッグを組んでひたすらランクマッチを回す。
対戦相手はランダムで、勝てばポイントが入り、負ければ減る。
既存のランクマッチコンテンツはあくまでソロ用なので、このタッグマッチは今回の公式イベント用に新設されたものだ。
そして一週間のランクマッチ期間が終わると、ポイントの多い上位128タッグ、計256名が本戦に進むことができる。
この本戦からトーナメント形式になり、7回勝てば優勝となる。
ルールとしては妥当なところだろう。
プレイヤー数があまりに多いので、予選からトーナメント形式にしてしまうと時間がいくらあっても足りないし、運営としてもトーナメントを組む労力が多大なものになるだろう。
予選はプレイヤー各々で勝手にポイント稼ぎをしてくれというシステムだ。
観客が闘技場で観戦できるようになるのも本戦からなので、知名度を上げたいというプレイヤーは是が非でも本戦に進みたいだろう。
俺は知名度には全く興味がないというか、むしろ知名度が上がるとプレイスタイル上、少々困るのだが、参加賞以外の賞品がもらえるのも本戦からだ。
リコッチのためにも全力で本戦を目指そうと思う。
そしてこの形式は、自宅警備員のような時間を大量に使えるプレイヤーが一方的に有利になるわけではないのも良い点だ。
勝てばポイントが増えるが負ければしっかり減るので、結局は実力がないといくら時間を使ったところで上には上がれないのだ。
ちなみに回復ポーションの使用は禁止されている。
むやみに時間が長引くことを避けるためだろう。
人数が多いのでこれも妥当なルールといえる。
「センパイ、スキルポイントリセットのアイテム使います?」
「・・・そんなものがあるのか?」
「ガチャで当たる課金アイテムですねー。かなりレアです」
例えば俺は今、スキルポイントを55全て振り分けているが、これを転職時のようにリセットして振り直せるということだ。
そういうアイテムはMMORPGにはよくある。
一度スキルポイントの振り分けをミスったら、キャラを作り直すしかないというゲームは受けが悪いからな。
「リセットアイテム、使ってくる相手は多いと思うか?」
「んー・・・。上位プレイヤーの人たちは大体使うと思います。モンスター狩りでしか役に立たないスキルとかありますし」
「まあそうか」
廃人と呼ばれるプレイヤーたちなら、一回のイベントのためにこの手のレアアイテムを惜しげもなく使ってくるだろう。
俺とて今回のイベントにおいて、射程など何の意味もない。
リセットして威力や命中、アクティブスキルなどに振り直したほうが有利に決まっている。
ただなあ・・・。
「リコッチは振り直すのか?」
「ですよー。闘技場の2対2でノーザンクロスとかいらないんで、フリージングトラップとかにつぎ込みたいです」
「なるほど」
「センパイはどーします?」
「うーむ・・・」
別に戦闘力が直接上がるようなアイテムではない。
上位プレイヤーはほぼ使うというし、実際リコッチも使うことに忌避感はないようだ。
というか使って当たり前のアイテムだと思えなくもない。
しかし。
「俺はやめておく」
「そーですか? 私からタダでもらうのが気が進まないんでしたら、買い取るって形でもいいですよ?」
「いや、そういうことじゃない」
「?」
首を傾げるリコッチ。
まあそうだろう。
俺も言葉で上手く説明できる自信がない。
何というか・・・俺のこのスキル振りは、詳しくないなりに自分でいろいろと熟考した結果の賜物だ。
経験の積み重ねと言い換えてもいい。
俺はこのケンタロというキャラクターに、スキル振りまで含めて愛着があるのだ。
いざ不利なシチュエーションになったから、ぽんとリセット。
そしてまた別のシチュエーションになったら、またリセット。
それもいいだろう。
しかし俺はそうではなく、不利な状況であっても今まで積み重ねてきたケンタロでやりくりしたい。
システムが用意したアイテムを使って数値を有利に変更するのではなく、あくまで自分の手腕でもって攻略したいのだ。
・・・ということを、どうにか言葉をひねり出してリコッチに説明する。
リコッチも首を傾げ傾げだったので、全てを理解してもらえたかどうかはわからない。
だがリコッチは説明を聞くと、特段ごねることもなく「わかりました! センパイの意思を尊重します!」と言ってくれた。
ゲーマーではあっても勝率より俺の意思を優先してくれるあたり、いい子だと思う。
「とりあえずこの一週間はランクマッチを回すことに集中しましょ!」
「そうだな」
******
「フリージングトラップ!」
リコッチが足止めした相手を、俺が狙撃でキルする。
相手にプリーストがいたら、相手が足を止めてバリアを張った瞬間、俺がバリアごと貫通して倒す。
シーフがステルスを発動したら、リコッチがフリージングストームでダメージを与えながら解除する。
相手にリコッチの苦手なアーチャーがいたら、アーチャーがリコッチを攻撃するために足を止めたところを、俺がヘッドショットで倒す。
連携が上手く行かず、星を取りこぼすこともあったが、それでも勝率はかなり良かった。
とはいえ当たり前だが、全勝とは行かない。
そして負けるときは大体、俺のせいだ。
ライフルの先手を外してアーチャーを倒せず、リコッチがキルされて負けたり。
俺の攻撃のタイミングが悪く、リコッチのフリージングトラップが発動しても俺の攻撃がクールダウン中だったり。
あるいは相手がシーフ2人組で、リコッチのフリージングストームに一人しか巻き込めず、その間に俺がステルスからの攻撃で即死したり。
こうして改めて戦ってみると、通常攻撃にクールダウンがあり、かつ近接戦闘の手段がないスナイパーライフルという武器は、かなりパーティプレイに向かないし、闘技場での戦闘にも向かない。
・・・いや、言い方に語弊があるな。
俺が選択したスナイパーという職と、ソロプレイに特化させた俺のスキル振りが問題なのだ。
これがもう一つの選択肢だったアサルトシューターなら、勝率はもっと良かったに違いない。
まあそうは言っても、スナイパーライフルという武器はパーティプレイ向きではない。
パーティプレイのほうが遥かに有利なこのゲームにおいて、そりゃあライフルの人気がないわけだ。
遠距離をやりたいなら弓のほうが圧倒的にいい。
リコッチもそれをわかっているだろうに、俺の武器に関して文句を言ったことは一度もない。
それどころか連携の問題点を洗い出し、この一週間で俺たちタッグの精度を上げることに注力してくれる。
今ある手札で勝ちに行くんだという気迫を感じる。
ゲーマーの鑑といえよう。
そんなわけで一週間、ひたすらランクマッチを回した。
そして本戦に進める上位128タッグが発表された。




