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82.狙撃手、初めて闘技場に入る

「センパイって闘技場を使ったことありましたっけ?」

「いや、一度もない。興味もなかった」

「ですよねえ」


闘技場はプレイヤー同士の決闘で使用されるエリアだ。

もちろん俺のようなスタイルのPKプレイヤーが正々堂々と決闘などするはずもなく、立ち入ったことは一度もない。


「センパイ、何回かやってみましょうか?」

「そうだな。練習が必要だ」


俺が頷くと、ピロン!と音がしてリコッチから決闘の申請が飛んでくる。

俺は”はい”を選択する。

すると視界が暗転して、エリア移動した。




「・・・ここが闘技場か」


俺は周りを見渡す。

いわゆる古代ローマのコロシアムのような感じだ。

中央に直径100メートルほどの円形の戦闘エリアがあり、階段状の客席がそれをぐるりと取り囲んでいる。


100メートルか・・・。

ぱっと見は広く見えるかもしれないが、男子高校生の100メートル走の平均タイムは、おおよそ12秒程度だ。

普段から1km前後の距離で狙撃を行っている俺からするとかなり狭い。


それに直径100メートルのエリアとはいえ、お互い壁ぎりぎりからスタートになるわけではない。

戦闘開始はもう少し中央寄りだから、実際の距離は更に狭くなる。

相手が走って近接距離に至るまで、恐らく10秒もないだろう。

遠距離職である以上、先手は取れるが、初撃を外したらもう接近戦に持ち込まれる距離だ。


俺が渋い顔をしていると、リコッチが明るく声をかけてくる。


「センパイ! 実際に戦ってみましょ! 練習しなきゃ」

「ああ、そうだな」


俺とリコッチはそれぞれ壁際まで移動すると、戦闘開始のパネルを押す。

これでこの場はPK可能エリアと化した。


俺はスナイパーライフルを構える。

それを見てリコッチは、ジグサグ軌道で俺のほうに駆けてくる。


くっ・・・!

それをやられるとつらい。

リコッチは俺の戦い方を熟知している。

そんな風に動かれると、俺は照準を正確に定めることができない。


だが黙ってやられるわけにもいかないので、俺は先手でライフルをぶっ放す。

しかし銃弾はジグザグリコッチのすぐ横を掠めたのみ。


「フリージングエッジ!」

「ぐあ・・・!」


反面、リコッチの氷の刃を俺は避けることができない。

一撃で即死した。




そんなこんなでリコッチとのタイマンを10回繰り返した。

結果は俺の0勝10敗。

散々な有様だ。


「・・・センパイ、わかってましたけど正面からの戦いメチャクチャ弱いですね」

「言うな」


俺はかつて一次職のときに、リコッチと何度かタイマンをしたことがあり、勝ったり負けたりだった。

しかしあのときは様々な地形の野外エリアであり、俺は主にリコッチの意表をついた戦い方で勝ちをもぎ取っていた。

何の遮蔽物もない、そして距離の利もない闘技場エリアでは、この結果になるのは必然だった。


「リコッチ、闘技場における俺の戦闘力はわかったと思うが、これを踏まえてどうすればいいと思う?」

「そうですねえ・・・。センパイの武器はアーマーブレイクだと思うんです」

「というと?」

「相手がバリアスキルを張っても関係なくキルできるんで、回避よりも防御を重視するタンク相手とか、まずバリアを張ってくるプリースト相手に強いと思います」

「なるほど」

「逆にセンパイはシーフが無理ですね。ステルスされると何もできずに接近されちゃいます」


うん、いちいちもっともだ。

ベテランだけあってリコッチの指摘は的を射ている。


「リコッチは、というかウィザードは何が無理なんだ?」

「弓ですねー。こまめに連射されると、詠唱のあるウィザードは何もできないんです」


ああ・・・。

確か俺がこのゲームで初めてリコッチと出会ったとき、リコッチは弓使いの連射にずいぶん追い込まれていた。

ダメージを受けると詠唱がキャンセルされる仕様上、魔法使い系の職はチクチク連射に弱いのだ。


「とりあえずセンパイは、初弾を絶対に当てて相手タッグのどっちか一人を落としてほしいです」

「落とせるほうをきちんと見定めて狙えということだな」

「そうです。2対2の状態で接近戦になったら、同格以上が相手だとちょっと厳しいかもしれないんで」


俺とリコッチはいずれも遠距離職だ。

リコッチはベテランだからある程度は接近戦もできるとはいえ、本職に対して接近戦で有利を取れるわけじゃない。

だから俺たちの戦い方は、近づかれる前にすでに勝利が確定していなければならない。


「なあ。リコッチは弓が苦手といったが、シーフは苦手じゃないのか? ステルスがどうしようもないだろう」

「スナイパーはそうですねえ。何やっても勝てないと思います」

「ウィザードは違うと?」

「ステルスは姿が短時間消えるだけで、別に無敵じゃないんで、消えたあたりから位置を予測して範囲スキルを打ち込めばいいんです。ダメージを与えればステルスも解除されますし」

「・・・なるほどなあ」


俺はどうにもステルスに苦手意識があるが、リコッチからするとそうでもないらしい。

どの職もきちんと得意と苦手があり、このゲームは対人戦において比較的バランスが取れているのだろう。


「・・・ん? すると俺もバレットレインを取れば、ステルス対策になるのか? あれは範囲攻撃だ」

「ステルスは解除できるかもですけど、センパイの場合、だから何だって感じですねえ」

「くっ・・・」


確かにそうだ。

解除できたから何なんだ。バレットレインを撃ったあとに殺されて終わりだ。


しかしリコッチは遠慮しないでバンバン指摘をしてくれるからいいな。

本気で勝ちたいと思っている証拠だし、俺も同じゲーマーとして有り難い。

タッグを組んでいるパートナーがやる気に満ちているというのは、いい刺激になる。


武闘大会ということは、勝ち上がればリコッチ以上の上位プレイヤーたちと対戦することも考えられる。

楽な戦いにならないことは間違いない。

イベント開始までに、きちんと戦略を詰めたり練習していこう。

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