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79.狙撃手と心を折る戦い

俺は「策がある」と告げてリコッチと別れた。

一緒に行動するわけにはいかない。

俺の愛しい彼女はPKプレイヤーではないからだ。


俺は修羅の道に踏み入るため、心に鬼を飼うことにした。

なあに、二次職となった俺に敵はない。

何せ俺はあのドラゴンとジャッティを討ち滅ぼした最強スナイパー様なのだ。





俺は不動産屋から出ると、すぐに周囲を探す。

まださほど遠くには行っていないはず・・・・・・いた!


青年が大通りをのこのこと歩いている。

やつが俺の標的だ。

そう、あの青年は先程、生意気にも高級住宅地の権利書を購入した富豪だ。


ククク・・・。

あの青年には何の恨みもないが、この最強スナイパー様に目をつけられたのが運の尽きだ。

諦めて俺の人生の踏み台になるがいい。


俺はこそこそと物陰に隠れながら青年を尾行する。

青年は倉庫NPCに立ち寄る。

恐らく土地の権利書を預けたのだろう。

そりゃあそうだ。

あんな高価なアイテム、持ち歩いてうろうろするなど愚か者のやることだ。

だからこれは想定の範囲内だ。

俺は別に、あの青年からのキルドロップを期待していたわけではない。




青年は街から出て、野外エリアに移動していく。

俺はそれを尾行する。

かなり距離を離しているから青年に気取られる恐れはない。


俺は周囲に人がいないことを確認すると、スナイパーライフルを構える。

スコープを覗くと、青年の呑気な顔が映し出される。

これから地獄を見ることになるなど想像もしていない顔だ。

照準を合わせる。

トリガーを引く。


ターン。


青年の頭が吹っ飛んだ。


うむ。

俺は青年が間違いなく電子の光となって消滅したことを確認すると、すぐさま踵を返す。

そして街のすぐ側にある復活ポイントが見渡せる場所まで戻る。

もちろんかなり距離を置いている。

弓や魔法が届かない距離でも、スナイパーライフルなら攻撃が可能だ。


身を伏せてしばらく待っていると、復活ポイントの泉にあの青年が現れた。

この泉の周辺は街中と同じくPK禁止エリアなので、手出しができない。

これは当然の仕組みだろう。

復活ポイントがPK可能だったら、リスキルが多発してゲームにならないからな。


リスキルというのは、復活したプレイヤーを復活ポイントで即座にぶち殺す非道な行為だ。

そうした人を人とも思わぬ外道なプレイを好まないプレイヤーは多い。

だからシステムとしてリスキルを禁止しているゲームが大半だ。

全くリスキルは最悪だな。やる奴の気が知れない。




俺はスコープを覗く。

青年は復活ポイントの泉から離れて、再び狩りに赴くようだ。

先程PKされたことで、やや不満顔になっている。

まあそりゃそうだ。可哀想に。


俺は青年が泉から充分に離れたことを確認すると、再びトリガーを引いた。

青年の頭が爆散した。

復活ポイントから離れている以上、これはリスキルではないのだ。

何も問題はない。




青年が再び、泉にリスポーンしてくる。

目視では表情までは見えない距離なので、スコープで確認してみると、釈然としない顔をしている。

まあ2回もキルされたらそうだろう。不憫このうえない。


青年がめげずに泉から離れて、狩りに出る。

青年が泉から充分離れたところで、俺はまたトリガーを引く。

銃弾は過たず、青年の頭に風穴を開けた。




3回キルされた青年が、また泉にリスポーンする。

その表情は怒りに染まっている。

周囲をしきりに見渡している。下手人を探しているのだろう。

だが何百メートルも離れた場所に潜伏している俺を、発見することはできない。


青年もさすがに学習したようで、しばらく泉で待機している。

数十分も待てばPKプレイヤーが諦めてどこかに行くと考えたのだろう。

だがストーカーじみた執念を発揮した俺が、その程度で諦めるはずがない。

程なくして青年が動き出すと、俺はまた狙撃してキルした。




怒髪天を衝く青年は、ついにアイテムの力に頼ることにしたようで、バリアアイテムで自分の周りに防御壁を張り巡らせた。

意気揚々と泉から出る青年の防御を、俺はアーマーブレイクの力で突破してキルした。


キル数が15回を超えた頃、哀れな青年はついに半泣きで泉から出てこなくなった。

いい頃合いだ。

俺はライフルを肩に担ぐと、泉へと足を運んだ。


半泣きでうずくまって何やらブツブツ言っている青年に近づく。


「やあ、フレンド。調子はどうだ?」

「・・・あんたは誰だ?」

「つれないことを言うなよ。16回も親交を深めた仲じゃあないか」


俺の言葉に青年はぽかんとして、それからみるみるうちに顔を怒りで真っ赤に染める。


「てめえ・・・!」

「おっと、ここは泉だ。お前は俺に何もできない。そうだろう? ん?」

「くっ・・・!」


俺は青年の隣に来ると、十年来の親友のように青年の肩に腕を回した。


「俺たちは猿じゃない。理知的な人間だ。交渉の余地がある。そうだな?」

「・・・何が言いたい」

「お前はこの先、平穏無事なプレイが約束される。俺は土地の権利書をいただく。ウィンウィンだ。そうだな?」

「てめえ、それが目的か! 誰がてめえなんかに・・・!」


俺は吼える青年の肩を、ことさらに強く抱く。


「このまま復活ポイントでうずくまって生涯を終えたいと言うなら、もちろん俺は止めない。なあに、この泉だってささやかな魚釣りくらいは楽しめるかもしれん」

「ひ、卑怯だぞ・・・!」


16回も復活ポイントから出た瞬間にキルされた青年は完全にトラウマになっているようで、顔を真っ青にする。

これは心を折る戦い。

俺はここぞとばかりに畳み掛ける。


「なあ、土地の権利所は確かに高価だが、ただのゲーム内のアイテムだろう?」

「・・・でも」

「お前はこのゲームが好きなんだろう? ん? この先の平穏なゲーム生活のほうが、たかだか1つのアイテムより何倍も価値があると思わないか?」

「・・・」

「俺も鬼じゃあない。大人しく権利書を渡せば、お前の命は保証しよう。だが断ると言うのなら」

「い、言うのなら・・・?」

「100回でも、1000回でも、お前が地面に頭を擦り付けて権利書をもらってくださいと言い出すまで殺す。必ずだ」

「ひいっ・・・!」


俺が凄みを利かせると、青年は引きつった悲鳴を上げた。

顔色は青を通り越して白くなっている。


「な? もう楽になっていいんだ。たかがゲームだ、そうだろう?」

「・・・・・・わ、わかった。あんたの言う通りにする。だ、だからもう殺さないでくれ・・・頼む・・・!」

「もちろんだ、フレンド。俺とお前の仲じゃないか。さあ、街に戻って倉庫に行こう」

「あ、ああ・・・」


俺は半泣きの青年を立ち上がらせると、一緒に復活ポイントの泉から離れて街に向かう。

青年はもはや顔面蒼白で、逆らう気力もないようだ。


弱い。弱いなあ・・・!

こいつは心が弱かった。

それが敗因だ。

PKが横行するこの世界で、ましてハウジングというこの世の地獄で生きていくには、こいつの精神は脆すぎた。


この世は弱肉強食なんだよ。弱者は搾取されるのみ。

いい勉強になったなあ?

もちろん授業料はきちんと徴収してやる。

お前なんかよりよっぽど有意義に権利書を使ってやるから安心しろ。

弱者は貧民街の掘っ建て小屋で膝でも抱えながら震えていればいいんだよ。

ははははは! ふはははははは!



ぽんと俺の肩に、誰かの手が置かれた。

俺は勢いよく振り返ると、ギロリとメンチを切る。


「ああん!? 俺は今忙しいんだよ!! 誰だか知らねえが舐めた真似してっとケツから手え突っ込んで奥歯ガタガタ・・・・・・?」


80%のトグロ弟みたいなガチムキがいた。


「よう、にいちゃん。俺のツレに何しとんじゃ? あ?」

「・・・・・・・・・こちらの青年様のお友達でいらっしゃる?」

「何しとんのか聞いとんじゃ。あ?」


俺は隣の青年を振り返る。

青年はこのカスが臓物をぶちまけて死ね、という目つきで俺を見ている。

どうやらこちらのトグロ弟様は、大変親しいお友達でいらっしゃるようだ。


「・・・いえその、こちらの方が土地の権利書を快く譲ってくださると」

「あ?」

「・・・・・・いえその、こちらの方が」

「あ?」

「あ、あひ・・・。ほんの出来心で・・・」

「あ?」

「ゆ、ゆるひて・・・」


俺は心をへし折られて地面に頭を擦り付けたが、幻○にボコられた美しい魔闘家みたいになって死んだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ガチムキさんと遭遇したのは街の中?外? そもそも主人公は入れないけど、どうするつもりだったのか
[良い点] この後無事通報されて全部失いそうで面白い PKってのは通報折り込みのプレイですからね 通報されてその後も想定した高度な戦略が求められます 悪人ではなく悪人ロールプレイですからね [気になる…
[一言] ストーカー行為に脅迫となると、場合によってはたかがゲームにならなくなりますね。運営と合わせて弁護士に相談もやむを得ないでしょう。 ルールは必要に応じて出てくるので規制することが多いですが…こ…
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