75.狙撃手とゲーム引退
ふ・・・。
ふははは。
ははははは!
ふはははははは!
ふははははははははは!!
火山の山頂で俺は高らかに哄笑した。
この湧き上がる高揚感。
遅れてやってきた充足感。
俺はソロで勝ったのだ。
最強クラスのボスモンスターであるレッドドラゴンと、あのジャッティにだ。
これが二次職の力か! これがスナイパーか!
いや冷静に考えれば、別にあの戦い方なら二次職じゃなくても行けた気がするが、そうであっても俺の背中を後押ししてくれたのは紛れもなく二次職になったという自信だ。
ならばスナイパーの力と考えてもよかろう。
卑劣ではあった。ただの漁夫の利だ。
だがそれがどうした?
それこそが狙撃手の戦い方なのだ。
卑怯、卑劣という言葉は俺にとって勲章に等しい。
所詮は負け犬の遠吠えよ!
何やら身体の奥底から無限に力が湧いてくるようだ。
勝てる。
どんな相手だろうと負けるはずがない!
俺は今、究極のパワーを手に入れたのだ!!
跪け愚民ども! 俺こそが王だ!
おい、そこのダチョウ。王の帰還だ。
俺を乗せてふもとまで走れ。
そうだ、王の命令であるぞ。
何だこの乗り心地は! 所詮は畜生か。
おらっ! 何をしている! とっとと走れ!
丸焼きにされてクリスマスのディナーに並べてほしいのか!?
上下関係ってものをそのでっぷりした体にみっちり教え込んでやろうか? あーん!?
チンタラしてんじゃねえぞこの鳥類が!
人間様の養分になるしか能がない分際で「クエ―ッ!!!」
俺は怒り狂ったダチョウに振り落とされ、上下関係を身体に教育されて死んだ。
******
俺は復活ポイントに死に戻りしてきた。
酷い目にあった。
・・・いやまあ、喜びのあまりちょっと調子に乗りすぎた。
真正面から戦ったらダチョウ一匹にすら勝てないことをみっちり教え込まれてしまった。
不意にピロン!とフレンドメッセージが届いた。
『せんぱあーい! してやられましたっ! 悔しいです!』
リコッチだった。
悔しいとは言っているが、何やらさっぱりとした雰囲気だ。
うん、それでこそリコッチだ。
『いつでもかかってくるが良い』
『むーっ! 今度絶対リベンジしますっ』
ああ、いいな。
リコッチはやはりいい。
心地良い会話とはこのことだ。
『でもセンパイ、私はお昼ごはんを要求しますっ』
何やら可愛いことを言い出した。
彼女をキルした対価ということだろう。
『わかった。食べたいものを考えておいてくれ』
『やったあー!』
大変微笑ましい。
・・・そうだ。
どうでもいいことなんだが、少しだけ気になったことを聞いてみよう。
『赤髪のレッドがいなかったが、どうしたんだ?』
『レッドですか?』
『ああ。ああいうドラゴン退治なら真っ先に挙手しそうな奴だろう?』
レッドは初の顔合わせのときにいきなりケンカを売ってくるほど血の気の多いプレイヤーだ。
ドラゴン退治なんて一大イベントを黙って見過ごすとは思えない。
だからあの場にいなかったことに、少々違和感を覚えたのだ。
『レッドなら引退しちゃいましたよ』
『何、そうなのか?』
『はい。ゲームにハマりすぎて成績がめっちゃ下がったみたいで、親にヘッドギアを取り上げられたって』
『あー』
『レッドも猛反発したらしいんですけど、結局ダメだったって。ダンチョーが教えてくれました』
『あー・・・』
そうか、若いと思っていたがレッドはまだ学生だったのか。
ならばありがちな話だ。
ゲームのやりすぎで成績が下がり、ゲーム機を取り上げられる子供はいつの時代にもいる。
子供の視点からすると理不尽なのだ。
ゲームくらい好きにやらせてくれと思うし、何もゲーム機を取り上げなくても、と思う。
親は勉強勉強と言うが、社会に出たら勉強した内容なんてほとんど役に立たないだろ、とも思う。
そしてそれは、ある意味で真理だ。
しかしこうしておっさんになってみると、大人の視点もよくわかる。
住まいも食事も金も、親の世話になっている以上、ある程度は親に従う義務がある。
それが嫌なら、親の世話にならず自立した環境に身を置くしかない。
世話にはなるが言うことを聞かない、というのは世間的には筋が通らない話なのだ。
俺は別にレッドと親しかったわけではないし、レッドが引退したところで痛くも痒くもない。
そしてこのゲームは未だにプレイヤー数が増加し続けている大人気ゲームなので、レッド一人が消えたところで何の影響もないだろう。
しかしそれでも、一抹の寂しさを感じた。
自分がプレイしているゲームを引退するプレイヤーがいると、そしてそれが知り合いだったりすると、いつも少しだけ寂しい。
これはゲーマーなら皆が抱く感情かもしれん。
『ダンチョーとレッドはリアフレだったんだな』
『そうみたいですねえ。たまーにオフ会もやってるみたいです』
『オフ会か。リコッチも参加していたのか?』
『いえ・・・私はあんまり』
まあそうか。
レッドはリコッチに好意を持っていたからな。
その気が全くないリコッチとしては、あまり会いたくなかったのだろう。
『ダンチョーとクッコロさんにはめっちゃ会ってみたいんですけどねー』
『そのうち行くか? 俺が付き添う』
『えっ、いいんですか!?』
『自分の彼女に付き合うのは当然だ』
しばらく間。
『えへへー。センパイ、ありがとですっ。めっちゃ嬉しい!』
照れながら喜んでいるリコッチが目に浮かぶようだ。
まあ・・・俺も少し恥ずかしかったことは言わないでおこう。




