74.狙撃手とドラゴン
「ノーザンクロス!!」
リコッチが声も涸れよとばかりに叫ぶ。
凍てつく嵐が巻き起こり、ドラゴンが苦悶の咆哮を上げる。
ドラゴンのHPゲージはもはや残り数ミリだ。
あと一撃のノーザンクロスで倒せることは疑いようがなく、リコッチは脳筋神官からMP回復ポーションを受け取るとそれを一気に呷る。
自前のポーションはもう使い切ったらしい。
しかし俺としては、最後のノーザンクロスを撃たせるわけにはいかない。
狙うは漁夫の利。
つまりドラゴンも俺が倒すために、リコッチにはここで消えてもらう必要がある。
セオリーで言えば回復役の神官から倒すべきだろう。
しかしリコッチにノーザンクロスを撃たせたくはないし、何よりリコッチは俺のPKの手口をよく知っている。
彼女を生かしておくと、たとえジャッティの面々が満身創痍であっても思わぬ反撃を受ける可能性がある。
この場面においては誰よりリコッチが厄介だ。
俺は火口の上から底を覗き込み、スナイパーライフルを構える。
スコープの向こうにリコッチを捕捉する。
晴れて付き合うことになった可愛い恋人をキルするのは、少々気が引ける・・・・・・なんてことは全くない。
俺はゲームに手を抜かない主義だし、リコッチとてそんなことをしても喜ばないだろう。
タイミングが重要だ。
ここを外してはならない。
俺はトリガーに指をかける。逸る心を落ち着けて待つ。
ドラゴンが鋭い爪を連続で振り回す。
クッコロが受け止め、脳筋が吹き飛ばされ、神官が癒やし、ダンチョーが反撃に転ずる。
全員の視線が、リコッチから外れた瞬間――。
ターン。
ヘッドショットを叩き込まれ、声も上げられず電子の光となって消滅するリコッチ。
「・・・リコッチは!?」
「何! リコッチはどうした!?」
リコッチがキルされた瞬間を、誰も視認していない。
つまり俺の存在はバレていない。
残されたジャッティ4人は、突然いなくなったリコッチに慌てふためく。
もしリコッチが生きていれば、すぐさま遠距離からの狙撃――俺の仕業だと見抜いただろうが、そのリコッチはもういない。
『ゴアアアアアアア!!』
そしてそんな動揺を許さない存在がいる。
瀕死とはいえドラゴンはまだ生きているのだ。
もちろんドラゴンの獰猛な瞳に俺は映っていない。
俺はドラゴンには指一本触れていないわけで、何もヘイトを買っていないからな。
「マズいぜ! どうすんだよ!?」
「・・・落ち着け! ドラゴンは瀕死だ、我々だけでもどうにか倒せる!」
ダンチョーが声を張り上げて仲間の士気を維持する。
確かにここまで来れば、リコッチがいなくても攻撃し続ければギリギリ倒せそうだ。
それを理解したのか、他の面々もやる気を取り戻す。
「クッコロはドラゴンに張り付いてタウント! 俺たちは鱗の剥げた部分を攻撃する! 神官はクッコロだけを回復するんだ!」
「はっ、ダンチョー!」
的確な指示を出してダンチョーが横合いからドラゴンに突っ込んでいき、脳筋もそれに続く。
クッコロがタウントを使い、ドラゴンを引きつける。
ドラゴンが激しくクッコロを攻撃するが、筋肉神官がMP回復ポーションをがぶ飲みしながら癒やし続ける。
最強のドラゴンをあと少しで倒せる。
そんな共通の想いが、彼らを突き動かしているのだろう。
だから――視野が狭くなり、俺の存在に気づかない。
平時のダンチョーなら気づいたかもしれないが、先頭切ってドラゴンとギリギリの戦いを繰り広げながら指揮まで取っている状況では、さすがに意識が回らないのだろう。
「ぐわああ!」
ドラゴンの固い尻尾に叩き潰され、死亡する脳筋。
残り3人。
だがドラゴンもいよいよ限界だ。HPゲージがもうない。
ここが勝機だ。
俺は再びライフルを構えて、照準を合わせる。
次に狙うのはクッコロを回復させている筋肉神官だ。
トリガーを引く。
「がふう!」
筋肉神官が消滅する。
これで残るはダンチョーとクッコロのみ。
「何・・・!? ケンタロか!」
「なっ!?」
2人が上を見上げて俺に気づいた。
そうだな。さすがにバレるだろう。
だがここまで来たらもう遅い。あの2人は完全に詰んでいる。
『ゴアアアアアアア!!』
ドラゴンが最後のあがきとばかりに巨大な爪を振り回す。
「ぐはっ・・・!」
回復役がいなくなった状態では、いかなジャッティが誇る最強の盾といえどドラゴンの猛攻に耐えきれない。
クッコロも苦悶の表情で消滅した。
「・・・・・・見事だ、ケンタロ」
俺を見上げていたダンチョーが、悔しそうに、だがどこかさっぱりとした表情で告げた。
正直、俺はほとんど何もしていない。
最小の労力で詰将棋をしていただけだ。
人の苦労を横から掠め取っただけだ。
しかしダンチョーは、そんな俺を見事と言った。
あくまで他者のプレイスタイルを尊重するダンチョーの心根こそ、見事だと思った。
「次は負けないよ、ケンタロ」
ダンチョーはそう言い残して、ドラゴンのアギトの餌食になった。
俺はすぐさまライフルを構える。
総仕上げだ。
ドラゴンの頭部は狙うまでもないほど大きい。
そして針で突けば倒せそうなほど瀕死の状態だ。
漁夫の利として、パーフェクトだ。
トリガーを引く。
ドラゴンが一際大きな咆哮を上げて、溶岩の池にどうと倒れ伏せる。
卑劣であろう。
だがそれこそが狙撃手の勝利。
俺はライフルを肩に担ぐ。
ミッション達成だ。




