65.狙撃手と想いの結果
「リコッチ・・・まず、ありがとう。好意は嬉しい」
「はい・・・」
俺の言葉を聞いて、リコッチの表情が歪む。
そうだろう。
断り文句にしか聞こえないはずだ。
実際、俺はやんわりと断ろうとしている。
「だが、落ち着いて聞いてくれ。まず俺は34のおっさんだ。反面、リコッチはまだ若い」
「・・・センパイ。いまどき10歳くらいの差なんてフツーです」
・・・そうなのか?
10歳は大きいと思うが。
いやそうでもないのか?
20代前半といえば、ましてリコッチほど可愛ければ、相手なんて選び放題の年頃だと思うが・・・。
「それに知っての通り、俺は極度の面倒くさがりだ」
「知ってます」
「いや。例えば今日SNSのメッセージが来たら、明日や明後日に返信するくらい重度のだ。それで過去に彼女を怒らせて振られたりしている。つまり、付き合ったところで長続きするとは思えない」
「・・・でもセンパイ、おかしいです」
「・・・何がだ?」
リコッチは唇に指を添えて、不思議そうにしている。
「だってセンパイ、私がSNSのメッセージを送ったら、すぐに返してくれるじゃないですか?」
「そりゃあ・・・」
そりゃあ・・・何でだ?
言われてみればその通りだ。
俺はリコッチのメッセージを放置したことはない。
俺が首をひねっていると、リコッチが小さく笑った。
「センパイ。それたぶん面倒くさがりっていうより、興味がないことに労力を割きたくないだけですよ」
「む・・・」
「私とのやり取りはゲームのことがほとんどですから・・・センパイ、興味あったし楽しんでくれてたでしょ?」
「・・・なるほど」
リコッチの言葉が腑に落ちた。
確かにそうかもしれん。
興味があれば面倒くさく感じない。
人間、誰しもそうかもしれんが、俺はことさらにそういう人間ということだ。
「だから、そのへんは心配ないと思います。私も重度のゲーム好きなんで」
ゲーム好き同士なら、興味のない不毛なやり取りが延々と発生することはない。
それはこれまでのリコッチとのやり取りですでに証明されている。
「いや、だがリコッチはもっとスペックの高い高収入のイケメンをいくらでも捕まえられるはずだ」
俺がそう言うと、リコッチは眉根を寄せた。
「こんなおっさんとくっついても、リコッチは幸せにはなれない。お前にはもっと・・・むぐっ」
リコッチが俺の両頬を、がしっと掴んだ。
俺の顔を覗き込んでくるその表情は、怒っている。
「センパイ。一つ言わせてください」
「な、何だ・・・」
リコッチは真っ直ぐに、そして真摯に、俺を見つめる。
「私の幸せは、私が決めます」
リコッチは一言一言区切るように、はっきりと言う。
「私は、スペックの高い高収入のイケメンよりも、ケンタロセンパイがいいんです」
「・・・っ」
リコッチの言葉が胸に突き刺さる。
感情を揺さぶる強烈な言葉だ。
だがその言葉に反して、リコッチの両手は小刻みに震えている。
そうだ。
リコッチとて怖いのだ。
拒絶されたらどうしようと震えながら、それでもなお勇気を振り絞って、想いを言葉に乗せているのだ。
他の誰でもない、俺に対して。
・・・。
・・・。
・・・。
俺は大した取り柄もないおっさんだが、女の子にここまで言わせて。
それでもその気持に背を向けるなら、俺はもう男ではない。
俺は両手を広げると、リコッチをぎゅっと抱きしめた。
「わ・・・! せ、センパイ・・・?」
リコッチが面食らっている。
俺は構わず腕に力を込めた。
「リコッチは恐らく後悔するぞ」
「・・・しませんけど、してもいいです」
「そうか」
俺が抱きしめたままでいると、リコッチもおずおずと俺の背中に手を回した。
「あの・・・センパイ」
「何だ?」
「私・・・センパイの、その・・・か、彼女になっていいんですか?」
「いい」
俺の言葉に、リコッチの瞳が潤む。
「じ、じゃー・・・センパイ、私の彼氏になってくれるんですか?」
「良い彼氏になれるよう最善を尽くす」
「・・・え、えへへ」
リコッチは泣き笑いのような表情で、こくんと頷いた。
「あ、あの・・・私、嬉しいです」
「・・・」
俺はリコッチの頭に手を乗せると、ゆっくりと撫でた。
リコッチは一瞬こらえるような表情をして・・・それからぽろぽろと涙を流した。
「ふえ・・・せんぱあい・・・」
「悪かった。俺に勇気がなかった」
俺がそう言うと、リコッチは泣きながらぶんぶんと首を振った。
「私・・・私みたいな子供じゃダメなんじゃないかって・・・」
「そんなことはない」
「センパイは大人だから・・・クッコロさんみたいに大人の魅力がないと・・・」
「リコッチは魅力的だ」
俺が遮るように言うと、リコッチはびくっと身を震わせた。
「でも、私・・・」
「リコッチは魅力的だ。むしろ魅力しかない」
「あ、う・・・」
リコッチの顔がみるみる朱に染まっていく。
「せ、センパイから見て・・・そう見えますか?」
「見える」
「え、えへへ・・・」
断言すると、リコッチは俺の腕の中で恥ずかしそうに身悶えした。
「じゃ、じゃー私、もっとがんばって、もっと魅力的になりますっ・・・」
「・・・いや、ならなくていい」
「えー、何でですか?」
「リコッチがいろんな男からアプローチされるようになったら困るだろう」
俺の言葉にリコッチは一瞬きょとんとして・・・それから、がばーっと俺の首に抱きついた。
「おいリコッチ」
「センパイ、好き・・・」
「いい加減、放してくれ」
「やです」
そう言ってリコッチは、それはもう蕩けるような笑顔を見せた。




