6.狙撃手、効率を求める
俺は早速、移動速度ポーションを使って遠方まで足を伸ばした。
体感だが歩く速さが1.2倍くらいになっている気がする。
こいつはいい。
さて、ここは山の中腹のフィールドだ。
具体的に言えば、地理的に上を取って下を狙いやすい地形だ。
大きな岩もごろごろあるから、身も隠しやすい。
そして恐らく、間違っても初心者プレイヤーが立ち入ってはいけない中~上級フィールドだろう。
何故かって、俺に初の死に戻りを体験させてくれたあの熊より更にでかい熊が、そのへんをうろうろしているからだ。
俺なんて爪が掠っただけで即死しそうだ。
だがそれでいい。
明らかに格上の獲物だ。
スキルポイントもたくさんもらえることだろう。
そしてもう一つ、俺にとって都合がいいことがある。
この地形なら、俺は腹ばいになって、いわゆる本格的な狙撃スタイルで戦うことができる。
戦うといっても、俺が一方的に撃つだけだが、狙撃手の戦い方とはそういうもんだ。
さて。
俺は適当な岩の陰に移動して、腹ばいになる。
そしてスナイパーライフルを地面にセットする。
うん、悪くない。
これは俺の得意分野だ。
スコープを覗き込む。
でかい熊が間近に見える。
もちろんスコープの中だから間近に見えるんであって、実際はずいぶん遠くにいる。
デカ熊は俺に気づいていない。
時間はたっぷりある。
じっくりと照準を定めて、俺はトリガーを引く。
ターン!
デカ熊の頭に命中。
HPゲージが5割ほど減る。
すげえな。
完璧なヘッドショットが決まったのに、5割しか減らせないのか。
明らかに格上のモンスターだ。
デカ熊がズシンズシンと俺のほうに突進してくる。
だがかなりの距離がある。
ライフルは通常攻撃に数秒のクールタイムがあるが、それを差し引いても2射目が間に合う。
俺は落ち着いて再び照準を定める。
ターン!
再度のヘッドショットが決まり、デカ熊の体が電子の光になって弾け飛ぶ。
うむ。計算通りだ。
一撃で倒せる魔物はさほど格上じゃあない。
それだと効率よく稼げない。
ヘッドショットを2連続で当てるのは、普通なら至難の業だが、充分に距離があって落ち着いて狙えるならそう難しいことじゃあない。
これは俺の予想だが、これだけ遠距離なら弓や魔術スキルも届かないんじゃなかろうか?
つまり一撃で勝負を決められる限りは、スナイパーライフルこそが最強ではなかろうか。
・・・いや、まだそのあたりを考えるのは早計だな。
もっとこのゲームに慣れてからでも遅くはないだろう。
ターン。
ターン。
山の中腹にライフルの音が幾度も響く。
やはり格上の魔物を狩るのは効率がいいようで、俺はなかなかのスキルポイントを手に入れた。
早速、パッシブスキルの”射程”を10まで上げてみる。
おお!
もはや目視では豆粒にしか見えない標的にも、狙撃が届くようになった。
素晴らしい。
しかし問題も生じた。
あまりに遠すぎて、ヘッドショットの命中率が下がったのだ。
どうやら胴体とヘッドショットでは威力にかなり差があるようで、特に俺のようなプレイスタイルなら必ずヘッドショットを決めなければならない。
しかし手動での照準には限界がある。
今後は”命中”にも程よくポイントを振っていったほうがいいかもしれない。
リアルと違ってこのゲーム内なら、スキルである程度は命中を補正してくれるからな。
便利なものはどんどん使うに限る。
結局、今日のスキルはこうなった。
射程:10
命中:1