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58.狙撃手と倉庫

畑で収穫している農民プレイヤーが、視界内に何人もいる。

皆、日々平和に収穫や料理を楽しんでいるプレイヤーたちだろう。


俺は木陰に隠れながら、何の罪もない農民たちの頭を撃ち抜いていく。

彼らは恐慌状態に陥って逃げ惑うが、知ったことじゃあない。たかがゲームだ。

どうせ収穫物を少々ドロップするだけだし、また収穫し直せば済むことだ。


泣き出してしまう農民はPKに慣れていないんだろう。

俺は不憫に思って、苦しませないように脳天の風通しを良くしてやる。


哀れな農民たちをあらかたキルすると、俺はアイテムウィンドウを開く。

彼らがドロップしたと思しき小麦や大豆、トマトなどがアイテム欄に追加されている。

何で小麦とトマトが同じ畑で取れるのかは謎だが、まあゲームだし細かいことはいいだろう。


俺はたまにこうして生産者をキルし、自分では役に立たない素材アイテムを収集している。

何故かというと、アイテム欄を埋めるためだ。


俺はPKプレイヤーではあるが、もちろん一方的な狩人ではなく、他のPK・PKKプレイヤーに殺されることもある。

そんなときにアイテム欄をゴミ素材で埋め尽くしておけば、ゴミをドロップする確率が上がる。

つまりジャイアントイノシシの頭蓋骨のような、絶対にドロップしてほしくないアイテムを失う確率が下がるわけだ。

攻略サイトを見れば当たり前に書かれているような手法だと思うが、俺としては自力で思いついた自分に拍手を贈りたい。




『ええーっ! センパイ、倉庫使ってないんですか?』


そんなことをフレンドチャットでリコッチに話したら、大層驚かれた。


『倉庫?』

『街にいる倉庫NPCですよー。アイテムを預けられるんですっ』


なるほど、倉庫か。

多くのゲーム、とりわけRPGで極めて一般的なシステムだ。

持ちきれないアイテムを倉庫に預けるのだ。

倉庫なんていらんからアイテム欄を無限にしてほしいと思うが、まあそこはゲーム的な不便さを演出しているのだろう。


ともあれ倉庫。

大変有用な情報だ。俺はこのホコリを被っている頭蓋骨をぜひとも預けたい。


そういうわけで始まりの街に繰り出した。

正門では相変わらず憎きアゴヒゲが睨みを効かせているので、俺はチンピラNPCに金を払って街に侵入する。

街中、特に大通りはいつもの賑わいを見せており、このゲームが繁盛していることを実感する。


俺は噴水広場から少し離れた場所にいる倉庫NPC話しかける。

とても地味で何の特徴もない青年NPCだ。

まあ倉庫だしそんなもんか。

「倉庫にアイテムを預けるかい?」というメッセージと共に、倉庫ウィンドウが開いた。

開いたが・・・。


『リコッチ。倉庫枠が一つしかないんだが?』

『え? ですよー』

『一つしか預けられないんだが?』

『ですよ?』


おい。

いくら何でも1枠はおかしいだろ。

いや、おかしくないのか?

PKがあってアイテムドロップがあるこのゲームにおいては、重要アイテムを残らず倉庫に預けられるような設計こそがおかしいのか。


とはいえ1枠は少ない・・・。

俺は今現在はジャイアントイノシシの頭蓋骨さえ預けられればいいが、どう考えても後々不足する。

他プレイヤーはなおさらだろう。


『リコッチ、倉庫枠を増やす方法はないのか?』

『課金ですよー?』


・・・。

・・・。


くそったれええええ!!


ま、まあな。理屈はわかる。

運営はボランティアじゃあない。

利便性の向上に金を取るのは、ごく真っ当な商売だ。


このゲームはわりと良心的で、課金が戦力の向上に直結しない。

理論上は100万円課金しようが月額の定額課金だけだろうが、戦力は同等だ。

ガチャを回せば最強武器が手に入るような、札束で殴り合う仕様ではないのだ。


ではどの部分に課金するのか。

利便性の向上および見た目の満足だ。


例えば課金をすれば倉庫枠が増える。

課金をすれば収穫量や採掘量が増える。

課金をすればエリア移動が便利になる。

そうしたなくても困らないがあれば便利な部分で課金する。


そして何より、課金コンテンツの中で最も収益が多いだろうと言われているのがファッションガチャだ。

VRゲームであり自分の分身がそのまま動き回るこの世界において、ファッションというのは極めて求心力の高いコンテンツだ。

何せリアルの自分と同じように着飾れるわけだからな。


運営もそれを理解しており、なかなかの更新スピードで新しい衣装をラインナップに並べてくる。

優秀なデザイナーがいるのだろう、女受けするような可愛らしい衣装も豊富だ。

反面、男向けの衣装はやや数が少ないが、これはまあどのゲームでも同じだ。

恐らく殺伐としたPKゲームとしての側面があるこの世界において、女プレイヤーが比較的多いのも、これら魅力的なファッションコンテンツに寄るものが大きいのだろう。


ちなみに俺はまだ初期装備である布の服だ。

みすぼらしいと言えなくもないが、だんだんこれに愛着が湧いてきたので、俺としては何も問題がない。

好きなものを着ればいいのだ。


・・・思考が逸れた。

倉庫は1枠だが、俺は課金して枠を増やすべきだろうか?

うーむ、いらないだろう。


当座はこの頭蓋骨だけ預けられればいいし、それに俺は可能な限り月額の定額課金だけでやっていく方針だ。

何せ課金というのは一度やり始めたらキリがないからな。

徐々に自制心が緩んでいく仕組みは見事なもので、どうにも泥沼にハマる予感しかしない。


ともあれ俺はジャイアントイノシシの頭蓋骨を、倉庫にスライドさせて預ける。

うん、よし。

これで誰かにキルされてもドロップしない。一安心だ。


『リコッチ、預けられたぞ!』

『あはははー。センパイよかったですね!』


笑われてしまった。

よく考えたら、初めてのおつかいに成功してお母さんに報告する子供みたいなことをしてしまった。

いいおっさんが少し恥ずかしい。


まあいい。

懸念事項が一つ解消されたわけだし、もう一狩り行くとしよう。

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