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55.狙撃手、ギルドを脱退する

「ケンタロ、考え直してくれ!」


ギルド戦も終わったので俺はさっさとジャスティスウィングを抜けようとしたが、悲壮な顔をした女騎士に止められた。


「ケンタロ、お前と一緒なら我々はもっと上に行ける! 決勝トーナメントに進むのも夢じゃない!」

「・・・決勝トーナメント?」

「えっとですねー」


リコッチが説明してくれたところによると、ギルド戦は毎週あり、勝率が最も良かった上位の数チームが決勝トーナメントに進めるらしい。

ジャスティスウィングは勝率は良いほうだが、あと一歩のところで決勝に進めるレベルに達していないとのこと。


ちなみにこの場にいるのは俺、リコッチ、クッコロだけだ。

ダンチョーはソロプレイが好きな俺のスタイルを尊重してくれて、引き止めるような真似はしないそうだ。


「リコッチ、お前からも何とか言ってくれ!」

「んー。私もセンパイが残ってくれたら嬉しいですけど、センパイの意思を尊重したいですねー」


まあリコッチならそう言うだろう。

意思を尊重してくれるのは大変有り難い。


「ケンタロの力は見ただろう? 相性が最悪だったあの暗黒のダークネスを打ち破ったんだぞ」

「ほんとですよね! 興奮しちゃいましたー」

「そうだろう、そうだろう」


リコッチとクッコロが手を取り合って喜んでいる。

まだ興奮冷めやらぬらしい。


「なあ、ケンタロ。どうしてそこまでソロプレイにこだわるんだ? ギルド戦は楽しくなかったか?」


俺の顔を窺い見てくるクッコロ。

うーむ、どう言ったものかな。


「正直、ギルド戦はかなり楽しかった。ああいう楽しみ方もあるのかと新鮮な体験だった」

「なら・・・!」

「ただ悪いが、俺は面倒くさがりなんだ。ゲームの中でまで、大勢の他人と毎日、親密なコミュニケーションを取りたくない」

「・・・そ、そうなのか?」

「ああ」


よくわからないといった表情のクッコロ。

まあそうだろう。

彼女のようなタイプは、他人との親密なコミュニケーションが苦にならないのだろうと思う。


リコッチは「センパイはそうですよねー」みたいな顔で苦笑している。

理解を得られているのがとても有り難い。


「し、しかしだな・・・」


クッコロがほんのりと頬を染めて、もじもじしながら俺を見てくる。

何だこの反応は・・・。

リコッチも何やら、そんなクッコロをチラチラと気にしている。

ふーむ。


「・・・なあクッコロ、俺がいれば上を目指せると言ったが、本心が他にあるんじゃあないか?」

「うっ・・・!」


狼狽するクッコロ。

図星のようだ。

俺がじっと見つめると、観念したようにクッコロが口を開く。


「じ、実はだな・・・」

「ああ」

「ギルド戦の最中、ケンタロの護衛がとても楽しかったんだ」

「・・・うん?」


楽しんでもらえたなら光栄な話だ。

しかしどうも様子が違う。

クッコロはぐっと拳を握りしめる。


「ケンタロほど脆弱なプレイヤーを守り通す快感!」

「・・・は?」

「こんなひ弱なプレイヤーが他にいるだろうか? 否! 私が守らねば彼は塵のように無残に死ぬ! 私が彼を守ってやらねばならぬ! まさにタンクの本懐! これほどタンクをやっていてよかったと思ったことはない!」


・・・。

・・・。

・・・。


「あー・・・。つまり、何だ。豆腐より貧弱なクソザコ狙撃手を守ることで、タンクとしての快感に目覚めたと」

「そういうことだ」

「だからこれからも、剣で突っついただけで即死するようなゴミを守ることで、タンクの本懐を遂げたいと」

「そういうことなのだ・・・」


顔を赤らめてもじもじするクッコロ。

横でリコッチが大きなため息を付いている。


まあなあ・・・。

ジャスティスウィングのメンバーの大半は、逞しい脳筋だ。

さぞ守りがいがないに違いない。

タンクとして守る対象に飢える気持ちはわからんでもない。


「リコッチを守ってやったらどうだ?」

「いや彼女はなかなか逞しいし、きちんと自衛の手段を持っているからな」


そうだな。

俺は自衛の手段すらないもんな・・・。

接近戦を完全に放棄して、遠距離からの一撃に全てを賭けるようなスタイルのプレイヤーを、クッコロは初めて見たんだろうな・・・。


「そういうわけで、ケンタロ! 頼む、うちのギルドに残ってくれ!」


俺の手をがしっと両手で握り、真剣な表情を向けてくるクッコロ。

うーむ、仕方がない。

俺としても、あれほど身体を張って守ってくれたクッコロの願いを無下にはできない。

気は進まないがこうするか。


俺はフレンドウィンドウを開くと、名前検索をしてクッコロにフレンド申請を送る。


「・・・ケンタロ?」


びっくりしたように顔を上げるクッコロ。


「ギルドには残らないが、たまにならパーティを組んで難易度の高いエリアに行こう。それが妥協点だ」

「・・・いいのか? ケンタロはソロプレイヤーだろう?」

「だから、本当にたまにだ」

「そ、そうか・・・!」


クッコロはそれはもう嬉しそうに、いそいそとフレンド申請を受理する。

俺のフレンド欄が2人に増えた。


ふと横を見ると、リコッチが唇を尖らせている。


「あー・・・。よければリコッチもたまに狩りに行くか?」

「行きたいです!」


ぱあっと顔を輝かせるリコッチ。

まあ俺もパーティプレイの楽しさを知った。

ソロプレイが基本だが、たまになら仲間と戦うのも悪くはないだろう。


「念のために言っておくが、俺はパーティプレイに向かないスナイパーライフルだからな?」

「任せておけ。何があっても私が守ってみせる」

「センパイわりと合わせるの上手いんで平気ですよー」


2人とも笑顔で請け負ってくれる。

そうだな。この2人なら大丈夫だろう。


そして俺はギルド脱退のボタンを押して、2人と別れた。




ピロン。


『ケンタロ! 狩りに行こう』

『5分前に別れたばかりだぞ。いい加減にしろ』

『で、でも・・・』




ピロン。


『センパイ! 狩りにいきましょー』

『10分前に別れたばかりだぞ。お前ら仲良しかよ』

『へ?』

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― 新着の感想 ―
[一言] ケンタロが恋しいクッコロも、ちょっと拗ねてるリコッチも尊い
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