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51.狙撃手とナイト2

クッコロが大盾で敵を弾き飛ばす。

すかさず俺がヘッドショットでキルする。

・・・これで何人目だ。


「クッコロ、大丈夫か」

「問題ない。ケンタロこそ集中力は続くか?」

「ああ」


俺たちは草むらの中を移動する。

クッコロは走りながらHPポーションを飲んでいる。

いくらタフなナイトとはいえ無敵ではない。こう立て続けに戦闘をしてはHPゲージも減る。


前線にいる味方は好調なようだ。

どんどん戦線を押し上げている。

味方の弓・魔術混成隊も、順調に敵を狙撃ポイントから追い払っているようだ。


そりゃあそうだろう。

敵が俺たちの捜索に人数を割いているからだ。

正直厳しい。


もちろんやってくる敵すべてと交戦しているわけじゃない。

物陰に隠れてやり過ごしたりもする。

だがここは草原エリア。

そもそもからして物陰が少ないので、どうしても交戦回数は増える。


それでもどうにか凌げているのはクッコロの守りが強いのと、背の高い草むらを選んでこまめに移動を繰り返しているからだ。

一度に大人数と戦わなければどうにかなる。

とはいえ俺とクッコロにとっては楽な展開ではない。


「いたぞ! おっさんとナイトだ!」

「”97位”を殺せ! ナイトは放置でいい!」

「おっさんだ! おっさんを仕留めろ!」


敵が突進してくる。

剣士・魔術師・神官の3人だ。


俺は舌打ちをする。

敵もバカじゃない。ナイトを突破できない短剣使いを下げて、真っ当なパーティを送り込むようになってきた。


俺は一発ぶっ放す。

神官がバリアスキルを発動させるが、俺のライフルはアーマーブレイク持ちだ。

バリアを粉砕して剣士の頭を四散させる。


「バリアが効かない!? 何なんだあのおっさんは!」

「バーニングシュート!」


動揺する神官の横で、火炎スキルを発動させる魔術師。


「ガーディアンアーマー!」


自らに守りのスキルをかけて、それを受け止めるクッコロ。

こうなれば後は、この白銀の盾を信じて後ろから射撃をするだけだ。


『こちらケンタロ。敵がいよいよ剣士職を差し向けてきた』


敵を退けた俺はギルチャで報告をする。


『いい頃合いだ。サブ石1の防衛隊、および2の防衛隊は前進せよ。迅速に攻撃隊に加われ』

『うおおおおお!』

『やっとだ! 待ちかねたぜえええ!』

『お前ら行くぞおおお!』


ギルチャから気合の高まりが伝わってくる。


そう。

前線は押し上げられ、狙撃ポイントは弓・魔術混成隊によって追い出され、更には俺の対処に人手を割いている状況では、敵はこちらのサブ石を攻撃する余裕がない。

こうなればサブ石を守っている防衛隊を、攻撃に参加させることができる。

それに最悪、サブ石は1つ2つ破壊されてもどうにかなる。

メイン石さえ破壊されなければいいのだ。


とはいえサブ石を破壊されるとメイン石が柔らかくなるし、時間切れになった場合は残っているサブ石が多いほうが勝者となる。

余裕があるならサブ石だって守ったほうがいい。

つまり我らがジャスティスウィングは、余裕を捨てて勝利を掴みにいっているのだ。


ギルチャからは次々と報告が流れてくる。


『敵の防衛隊を撃破!』

『サブ石を1つ破壊した!』

『いけるぞ! このまま次に向かえ!』

『おおっ!』


だがもちろん無傷ではない。

敵とてギルド戦に慣れたベテランなのだ。


『こちらリコッチ! 弓・魔術隊は半壊!』

『よく頑張った。下がって攻撃隊の支援に回りたまえ』

『りょーかい!』


元々、弓・魔術隊は数が少ない。

敵の遠距離部隊とやり合えば、被害を受けるのはわかっていたことだ。

むしろよく敵の部隊をいくつも狙撃ポイントから追い出した。


もちろん俺とクッコロも、ぼんやりとギルチャを眺めていたわけじゃあない。

一度追い出した丘に、敵の弓兵が様子を見に戻ってくるのだ。

俺は遠距離からそいつをキルする。

すると敵はもう二度とその丘には近づかくなる。


もう小高い丘にはあらかた敵の姿は見えない。

もっと敵陣に入り込んで、敵の本陣に近い場所を狙ったほうがいいだろう。

そうしなければ本陣を攻撃する際に、味方の被害が甚大になる。


「クッコロ。進むぞ」

「了解だ・・・むっ!」


敵の一団が草むらから飛び出してきた。

4人組だ。だがこれくらいの人数ならどうにか。


「”97位”を発見! これより戦闘に入る!」

「ナイトは2人で引き付けろ! 残りでおっさんをキルする」

「了解!」

「了解!」


クッコロの顔色が変わる。

明らかに統率の取れた4人だ。精鋭に違いない。


俺は奥にいる神官と思しき男に照準を合わせる。

だが戦士の男が射線を遮るように、前に出て突進してきた。

俺は舌打ちをして、戦士に狙いを定める。


「ガーディアンアーマー!」


戦士が防御スキルを発動させる。

だが甘いな。そのスキルが通用しないことは先日、赤髪レッドが証明してくれたばかりだ。

俺はトリガーを引く。

しかし。


「セイクリッドシールド!」


神官が戦士の前に光の盾を張る。

二重防御だと・・・!?


俺の銃弾は光の盾を粉砕し、戦士の防御スキルを破り、そして戦士のHPゲージをほんの少しだけ減らして・・・止まった。


「読み通りだ! おっさんの攻撃は防御2枚で止まるぞ!」

「ナイトを自由にさせるな! 動きを封じろ!」


戦士が巨大な斧をクッコロに叩きつける。

しかしクッコロも白銀の盾でがっしりと受け止める。

そうだ。この頼もしい守りがある限り、動揺する必要はない。


不意に戦士の横から、短剣使いがクッコロに接近する。

意表を突かれるクッコロ。短剣はタンクに通用しないはずだが・・・。


「ヴェノムストラッシュ!」


短剣使いの一撃を受けて、クッコロの全身が薄紫に染まる。

そして頑強なはずの彼女のHPゲージが徐々に減り始める。

クッコロが歯噛みをする。

これは・・毒か!


なるほど、継続ダメージならどれほどタフネスが高い相手にも一定のダメージを期待できる。

タンクと言えども弱点はあるわけか。


「今だ! おっさんを殺れ!」

「了解!」


弓使いがクッコロを迂回するように、俺に向かって弦を引く。

俺は慌てて横移動をして、クッコロを盾にするような位置取りを維持する。


マズい・・・。

明らかにこれまでの相手とは練度が違う。

死がすぐそこまで迫っているのを感じる。


「おっさん覚悟!」

「くっ! タウント!」


短剣使いが俺に向かおうとする動きを、クッコロが防ぐ。

俺は攻撃できない。

スナイパーライフルは攻撃の際に静止しなければならない。

厳密に言えば走りながら命中させるという器用な真似が、俺にはできない。

だが敵の弓使いは、俺に照準を定める時間を与えてくれない。


無論、弓使いに一人で正面から立ち向かうという選択肢はない。

俺は自分の力量を把握している。1対1で戦えば必ず負ける。


勝ちの目が見えない。

これはもう、今死ぬかクッコロがキルされた後で死ぬかの違いでしかない。

・・・詰みか。


「ケンタロ、行け」


俺ははっと顔を上げる。

クッコロが俺を見て、笑んでいた。

死んでも敵を食い止めてみせると。だから逃げろと。

そういう笑みだ。


「しかし・・・!」

「早くしろ! 長くはもたない」


クッコロの判断は正しい。

2人で彼ら4人の精鋭を倒すことはできない。

ならばどちらかが犠牲になるしかない。

そして俺の狙撃はこの先まだ必要だ。


「逃がすな! 仕留めろ!」

「了解!」


弓使いが俺に向かって弦を引き絞る。


「おおおおッ! シールドチャージッ!」


クッコロが大盾ごと弓使いにぶち当たる。

弓使いは大きく吹き飛んだ。ノックバックスキルか!


「クッコロ・・・」

「頼む。皆に勝利を」


・・・。

・・・。


俺は踵を返すと、一目散に駆け出した。


「追えっ!」

「逃がすかっ!」

「させん!」


後ろで甲高い金属音が響き渡る。

クッコロが身体を張って食い止めているのだ。


そうだ。

俺の仕事は、未練がましく振り返ることじゃない。

必ずこの場から逃げ切り、前線の味方に合流することだ。


彼女は皆に勝利をと言った。

俺ならばそれができると信じたのだ。

ならばその信頼に応えなければならない。


俺はひたすらに駆けた。

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