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50.狙撃手とナイト1

『攻撃隊、行進速度を緩めろ。防御を固めてゆっくり進むんだ!』

『はっ、ダンチョー!』

『弓・魔術隊、諸君らも数は少ないが本作戦の要だ。丘から敵を追い出せ』

『はっ、ダンチョー!』

『守備隊、いつでも出られる準備を』

『はっ、ダンチョー!』


ギルチャで逐次ダンチョーの指示が飛ぶ。

そんな中、俺とクッコロは2つ目の丘から敵の弓兵を追い出していく。


やることは変わらない。

弓の届かない遠距離の草むらから、一方的に狙撃するだけだ。

どこから攻撃を受けているかわからないので、弓兵を護衛している近接職たちもオタオタしている。

そうして2、3人をキルしてやると、それ以上の損害を抑えるために敵は小高い丘から撤退していく。


うん、これでいい。

丘を放棄するということは、敵の弓兵たちは高さの利を失うということだ。

ひとたび平地に追いやってしまえば、ガチムキの脳筋たちが負ける道理はない。


『攻撃隊、丘から追いやられた敵を追撃せよ! 深追いはするな!』

『うおおおお!』

『死にさらせ陰キャどもがあああ!』


もちろん俺だけの功績ではない。

リコッチを始めとした味方の弓・魔術混成隊も活躍している。

射程は敵の弓兵隊とほぼ互角なので、被害を出しながらではあるが、それでも敵を小高い丘から追い出していく。


攻撃隊も無傷ではない。

いかなガチムキとはいえ距離の有利は敵にある。

基本的に先手は敵に取られるため、ダメージは受けるしうっかりキルされている奴もいる。

それでも防御を固めて前進を続けるのは、俺や弓・魔術混成隊に期待しているからだ。

ならばその期待に応えねばなるまい。


俺はスコープを覗く。

ガチムキ攻撃隊にニヤニヤしながら矢の雨を降らせている敵の弓兵に、照準を合わせる。


まだ戦いが終わっていないのに軽薄な笑みを見せるとは、教育がなっていないようだ。

戦というものを教えてやる。その身体になあ。


ターン。


弓兵の頭が爆散する。

周囲が混乱し始めるが、それは俺にとって勝機に他ならない。

続けて狙撃を行う。

数人キルしたところで、敵が小高い丘から引いていく。


悪くない。

敵が丘を放棄するたび、少しずつ戦線が上がっていく。

つまり味方はどんどん進軍できるし、敵軍は追い詰められていくというわけだ。

このまま続けるぞ。




「ケンタロ!」


すぐ横に控えているクッコロが鋭い声を上げる。

それではっとした。

スコープから顔を上げると、ガサガサと草をかき分ける音が近づいてくる。


敵の接近だろう。

狙撃に集中するあまり気が付かなかった。


「何人だ?」

「わからない。ナイトである私に索敵スキルはない」


そりゃそうだ。

俺は白銀の鎧を纏うクッコロの後ろに下がる。


それと同時に、草むらから3人飛び出してきた。

全員が短剣を持っている。


「いたぞ! スナイパーライフルだ!」

「こいつ、”97位”だ!」

「ナイトは無視しろ! おっさんをぶぎゃ!」


俺が一発ぶっ放して先頭の短剣使いをキルした。

だが残りの2人に動揺はない。

対人に慣れたプレイヤーの動きだ。


短剣使いたちの姿が、ふっとかき消える。

マズい。ステルススキルに対処するすべがない。

できればもうちょっと皆の期待に応えたかったが・・・ここで終わりか。

俺が諦めかけた、その時。


「おおおおッ! タウントッ!」


クッコロが吼えた。

と同時に短剣使い2人の姿が現れて、何故かクッコロに攻撃を放った。

だがナイトの重厚な鎧を貫くには、短剣はあまりに貧弱すぎた。


「くっ! このナイトが!」

「これだから脳筋がふぁっ!」


ライフルのクールダウンが明けた俺が、2人目をキルした。


そうか。

敵を強制的に、自分に攻撃させるスキルか。

攻撃するからステルスは解除されるし、そして短剣は攻撃力が低いのでナイトならば大して痛くはない。


なるほど。

手の打ちようがないと思っていたステルススキルだが、こういう対抗策があるのか。

どうやらナイトは、短剣使いに対して極めて相性のいい職であるらしい。


・・・だからダンチョーは、俺の護衛としてナイトのクッコロを付けてくれたのか。

俺を探して暗殺するならば、短剣使いがやってくるに決まっているからな。

ダンチョーの戦術眼は大したものだ。ギルド戦に慣れているギルドのトップに居座っているだけはある。


「くそがあ!」


短剣使いは万策尽きたとばかりに突っ込んでくる。

だが俺の前には頼もしい壁がいる。

決して敵の攻撃を通さない、白銀に輝く壁だ。


短剣使いがクッコロに弾き飛ばされる。

狙い誤たず俺が頭を撃ち抜く。


「ケンタロ、よくやった。素晴らしい精度の射撃だ」

「クッコロがいてこそだ。助かった」


俺たちは互いに笑みを交わす。

何だろう、これが信頼というやつか。

俺はソロプレイヤーだから、基本的に他人に頼ることはない。

だが今この瞬間、クッコロがいればどうにかなると思える。

これも楽しみ方の一つだ。


「ケンタロ、移動したほうがいい。恐らく敵は本格的に狙ってくるぞ」

「俺もそう思う」


俺たちは頷き合うと、草むらを縫って移動を始める。

途中、ギルチャで報告しておくことも忘れない。


『こちらケンタロ。敵に発見された。撃退したが今後も狙われることが予想される』

『了解した。そのまま狙撃を続けてくれ』

『こちらケンタロ。了解』

『クッコロ。ケンタロを頼む』

『任せておけ』


俺たちは次の狙撃ポイントに向かう。


敵が俺たちに手を割くということは、そのぶん前線の味方が楽になるということだ。

そうすればダンチョーは次の作戦に移行できるだろう。


ジャスティスウィングに有利な戦況で、ギルド戦は中盤を迎える。

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