48.狙撃手、女騎士と練習をする
俺は目を覚ました。
枕元の時計を見ると、もう昼過ぎだ。
俺は休みの日は大体これくらいまで寝ているので、予定通りといえる。
今日はいよいよギルド戦の日だ。
とはいえ夜からなので、時間はたっぷりある。
顔を洗って、適当に卵を焼いて昼食を取る。
コーヒーを飲むとようやく頭がすっきりしてくる。
やはりカフェインはいい・・・。
歯を磨いて準備万端。
俺はベッドに舞い戻る。
もちろん二度寝するためじゃなく、Welcome to Earth World Onlineのためだ。
ヘッドギアをすっぽりと被り、脱落防止のためのバンドを止める。
正直、VRゲームがどういう技術に基づいているのかさっぱりわからない。
フルダイブ型ゲームというのもすごいし、ゲームの世界で五感を再現しているのもすごい。
途方も無い技術だろう。
とはいえそんな話は技術者たちに任せておけばいい。
俺は自分が使っているスマホでさえどういう仕組みで動作しているのか知らないが、別に何も困っていない。
ヘッドギアの電源を投入する。
もうすっかりおなじみのログイン画面を通過する。
さあ、狙撃手ケンタロの時間だ。
『では諸君、筋肉体操を始める!』
『はっ、ダンチョー!』
『まずは上腕二頭筋からだ!』
『いち!』
『に!』
『さん!』
『し!』
・・・。
・・・。
・・・。
何やってんだこいつら。
ログイン直後にこんなギルチャを目にした俺が、危うくギルド脱退のボタンを押しそうになったとしても誰も責められまい。
『すまん、何をしているんだ?』
『やあ、ケンタロ。もちろん筋肉体操さ』
『ご!』
『ろく!』
『なな!』
『はち!』
もちろんて。
まるで共通言語のように珍妙な単語を持ち出さないでほしい。
そんな単語がギルチャで飛び交っているのは間違いなくここだけだ。
ゲーム内でいくら筋トレをしたところで、別にリアルに筋肉がつくわけではない。
本体は寝ているだけだからな。
とはいえゲームの楽しみ方は人それぞれなので、そんなことを指摘するのは無粋だ。
みんな楽しそうなので好きにやらせておこう。
俺は夜までしばらくモンスター狩りをすることにした。
やはり転職のことが気になっていたからだ。
今すぐじゃないにしても、なるべく早く二次職になりたいからな。
******
「・・・で、何でお前がいるんだ。クッコロ」
「決まっている。ケンタロの盾となるためだ」
凛々しい表情のプラチナブロンド騎士が、シカ山についてきた。
「ギルド戦の間、私とケンタロはペアで動く。となれば少し動き方の練習をしておいたほうがいいと思ったのだ」
「・・・なるほどな」
言われてみればもっともだ。
ぶっつけ本番でペアとして動いても、互いが互いの邪魔をして足を引っ張る結果になりかねない。
確かに俺たちは、互いの戦い方を全く知らないのだ。
「俺は基本的に、遠くから撃つだけだ。スナイパーライフルはそれしかできない」
「何かアクティブスキルは取ってないのか?」
「いや、一つも」
「ふぅむ、珍しいタイプだな。普通はスキルをばんばん使いたがるプレイヤーのほうが多い」
まあそうだろう。
必殺技の感覚で、エフェクトの派手なスキルを好むプレイヤーは多い。
通常攻撃のみで戦っている俺のほうが異端なのだ。
とはいえこのほうが俺の性分には合っている。
やることが一つだけなので、極めて集中しやすい。
そして一つのことに集中しているときの俺は、高いパフォーマンスを発揮できる。
「まあ私もケンタロとさほど変わらない。守るだけだ」
そういってクッコロは銀色の大盾を構えた。
「さあ、実際にやってみようじゃないか」
「そうだな」
俺はクッコロの影に隠れるようにして、手近なシカのボディに一発撃つ。
距離が近いが、クッコロの実力を見るためなのでこれでいい。
怒り狂ったシカが角を振りかざして突進してくる。
そしてヘイトがリンクしたハゲワシが、クエーッと空から降下してくる。
そう、シカ山はこのモンスターの連携が厄介なのだ。
「ぬん!」
クッコロが大盾でシカの角をがっしりと受け止める。
頭上のHPゲージが少し減る。
とはいえ防御に秀でているだけあって大したことはない。
俺なら3回は死んでいる突進だろう。
だがハゲワシが俺を狙って急降下してきた。
シカを攻撃したのは俺なので、これは当然だ。
俺はクールタイムのせいでまだ二射目を撃てない。
「ナイトシールド!」
クッコロがスキルを発動させた。
俺の前に光の盾が生じて、ハゲワシを弾き飛ばした。
光の盾はそれで消滅する。
一撃を防ぐスキルといったところか。
ターン。
俺はクッコロと押し相撲をしているシカの頭に、銃弾を打ち込んだ。
消滅するシカ。
これで脅威はハゲワシだけだ。
再び急降下してくるハゲワシだが、クッコロの大盾がしっかりと押し止める。
動きの止まった瞬間に俺の射撃が突き刺さり、ハゲワシも消滅した。
「すごいじゃないか、ケンタロ。話には聞いていたが、スナイパーライフルの威力がこれほどとは」
凛々しい笑顔で振り返るクッコロ。
だが驚いたのは俺のほうだ。
パーティに不向きなライフルで、きちんとパーティプレイができていた。
いや、これだと射程の利を活かせないから魔術か弓のほうがいいのは間違いないが、一応形にはなっていた。
「クッコロが上手かった。盾を名乗るだけはある。頼りになるとはこのことだ」
「そ、そうか? 大したことはしてないが、褒めてくれるのは嬉しい・・・」
クッコロは少し頬を赤らめてもじもじした。
何だろう、褒められ慣れていないのだろうか?
この気持のいいギルドだ、みんな盛大に褒めてくれそうな気がするが・・・まあいいか。
「特にクッコロが離れていても、スキルで他プレイヤーを守れることがわかったのが収穫だった」
「あまり遠いと無理だ。ケンタロは狙撃手だからなるべく敵から距離を取りたいと思うが、ギルド戦の間は私から離れないでほしい」
「ああ、そうさせてもらう」
俺は軽く手を挙げる。
クッコロも応じて、バシッとハイタッチをする。
たったモンスター2匹相手だったが、俺達の記念すべき初勝利だ。
その後もシカ山でモンスター狩りを繰り返していると、じき夜になった。
いったん夕食を済ませ、再度ログインをする。
いよいよ俺の初のギルド戦が始まる。




