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47.狙撃手とあの女の子

作戦会議が終わると、幹部たちはそれぞれに円卓の会議室を出ていく。


「ケンタロ、外まで送ろう」


クッコロ騎士が凛々しい笑顔で申し出てくれた。

正直助かる。

リアルの城ほど複雑な作りではないので迷うことはないが、新参者が一人でうろうろするのも少々居心地が悪い。


どうやらこのプラチナブロンドの騎士は、我先にと突撃したがる脳筋軍団の中では珍しく、仲間を守ることに重点を置いたプレイヤーのようだ。

それだけにギルメンからの信頼も厚いのだろう。

どのゲームでもタンク役というのは、重要なわりにあまり人気がない。

それを率先してこなしてくれるプレイヤーは感謝されるべき存在であろう。


俺はクッコロに先導されながら、城の通路を歩く。

全体的に大理石のような白い材質でできた建物で、コツコツと足音が響くのが小気味好い。

ふむ、ギルド戦の間はこのクッコロが俺のパートナーとなる。

少し会話をして親交を深めておくべきだろう。

彼女が何をできるプレイヤーなのか、全く知らないしな。


「なあ、クッコロは剣士職だと思うが、どういうスキルを使えるんだ?」

「ん? 見ての通り私はナイトだ」

「・・・ナイト?」


そんな職があっただろうか?

俺の疑問が顔に出ていたのだろう、クッコロはなるほどと頷く。


「そうか、ケンタロはまだ転職システムを知らないのだな」


転職。

多くのゲームに存在する極めて一般的なシステムだ。

要は何らかの条件を満たすと、一次職から二次職、そして三次職へとランクアップできるのだ。


「するとナイトは二次職か?」

「ああ。一次職の剣士から転職するんだ。ナイトは防御に比重が寄った職だな」


二次職か・・・。

俺はふとPKギルドに誘ってきた短剣少年を思い出す。


「剣士から、短剣二刀流のような二次職にも転職できるのか?」

「ああ、シーフだな。ステルススキルや忍び足などを使えるので、奇襲を得意とする二次職だ」


なるほど、合点がいった。

恐らくベテランのPKプレイヤーたちは大半が二次職なのだ。

二次職になってようやく、PKの世界で一人前ということだ。

ライフル使いがヘッドショットを決めない限り、他のプレイヤーたちと渡り合えないのも、ある意味では当然だったわけだ。


「どうすれば二次職に転職できるんだ?」

「一定以上のスキルポイントを割り振ると、街にいる転職ガイドからクエストを受注できるようになる。ケンタロもそのうちできるだろう」


一定以上か。

PKを減らしてモンスター狩りに勤しんだほうがいいのか。

いやしかしPKもしたいしな。ううむ・・・。


しかしこれらの疑問は、恐らくは攻略サイトを見れば書いてあることだ。

それを嫌な顔ひとつせず教えてくれるクッコロはいい奴だ。


「ちなみに三次職もあるのか?」

「うぅん・・・あるだろうとは言われている」

「言われている?」

「最上位のプレイヤーたちは、驚くほどたくさんのスキルポイントを稼いでいる。でも三次職へのクエストは発生していないらしい」

「・・・それは単に、三次職がないんじゃ?」

「いや、用途不明のアイテムがいくつか存在するんだ。転職用のアイテムじゃないかと推測されている」

「つまり」

「ああ。スキルポイントだけじゃなく、他にも何らかの条件を満たさないと三次職にはなれないようだな」


まあ二次職にすらなっていない俺にはあまり関係のない話だ。

とはいえいい目標ができた。

まずは狙撃手の二次職に転職しよう。


もちろんそれについて事細かにクッコロに質問などしない。

事前に全てを知っておくなんてつまらんからな。

いや、今どきの若いプレイヤーは最初から全てを知っておかないと気が済まないんだろうが、俺は三十路のおっさんだ。

知らないことを知っていく楽しみというやつを、ワクワクしながら満喫させてもらおう。




******




「ん?」

「どうした、ケンタロ?」


俺はふと足を止める。

城の1階に、金床や機織り機などの生産器具が置いてある生産室があった。

もちろん生産職じゃない俺は、それらに興味を惹かれたわけではない。


見覚えのある女の子がせっせと生産器具を動かしていた。


「あれは・・・」


以前、初心者いびりを受けていた気弱な風体の初心者プレイヤーだ。

いびっていたチンピラどもは俺が脳天を吹き飛ばしたが、女の子に対しては別段フォローはしなかった。

・・・そうか、ジャスティスウィングに入団したのか。


いい判断だろう。

初心者、特に生産職は、PKのはびこるこの世界で自衛の手段がない。

となればPKKギルドに身を寄せて、生産物で貢献する代わりにギルメンに身を守ってもらうのが一番いい。

生産職でソロプレイは絶望しかないからな。

しかし、そうか。嫌な目にあったのに、めげずにこのゲームを続けてくれているんだな。

それだけでも何やら嬉しい気持ちになる。


「・・・」


女の子は俺たちに気がつくと、ぺこりと小さく会釈をした。

どうやらチンピラどもを消し飛ばしたのが俺だとは気づいていないようだ。


うん、それでいい。

俺はギルド戦が終わったらこのギルドを抜けるし、そうなればこの女の子をPKする場面も出てくるだろう。

形だけとはいえ自分を助けた相手にPKされるのは、気弱な感じのこの子にとってはショックに違いない。

何も知らないのが一番だ。そのほうが俺もキルしやすいしな。


「クッコロ、このあたりでいい。出口はすぐそこだ」

「そうか? なら私はこれで」


プラチナブロンドの騎士は立ち去ろうとしたが、ついと振り返る。


「ケンタロ」

「どうした?」

「ギルドを抜けるまでは、ケンタロは我々ジャスティスウィングの一員だ。いつでも来るといい」


そう告げると、クッコロは靴音を響かせて颯爽と去っていった。

とてもかっこいい。これぞ騎士であろう。

あの手のロールプレイは、俺にはとてもできない。

というか三十路のおっさんが頑張っても誰も喜ばないだろう。虚しい。


俺はもう一度、生産室をちらと見遣る。

女の子が真剣な表情で、ちまちまと機織り機を動かしていた。


俺は何も言わずに踵を返した。

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