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46.狙撃手と作戦会議

ジャスティスウィング幹部会議。

銀髪イケメン団長のダンチョーを中心に、十数人の幹部プレイヤーたちが円卓に集結している。


議題は明日のギルド戦についてだ。


「さて、まずはおさらいだ。明日の対戦相手のギルドは暗黒のダークネス」

「何て?」

「暗黒のダークネスだ、ケンタロ」


何だその頭痛が痛いみたいな名前は。

まあいい、そこは大した問題じゃない。


「過去に1戦交えたことがあるが、我々の惨敗。忸怩たる思いだ」

「くっ、あのクソ陰キャども・・・!」

「弓兵ばっかり揃えやがって」

「ダンチョー、質問がある」

「何だい、ケンタロ」

「弱いものいじめにならないように、ある程度実力が拮抗したギルド同士が当たるように調整されているんじゃないのか?」

「良い質問だ。その通りではあるのだが、残念ながら調整システムは職の相性までは参照してくれないんだ」


つまり人数やギルド戦の戦績によって対戦相手が決まるが、職同士の相性までは考慮してくれないようだ。

脳筋が8割を占める我らがジャスティスウィングは、遠距離から一方的に削られるロングレンジ主体の相手とは相性が悪い。

敵の元に到着する頃には、戦力がガタガタになっているというわけだ。


「ちなみに暗黒のダークネスは総力の6割以上が弓兵と魔術師で構成されている」

「多いな」

「ついでに言うとPKギルドだ」

「許すまじ暗ダ!」

「我らが正義を思い知らせてやる!」

「でも近づく前に蜂の巣にされるぞ」

「くそお・・・!」


俺は前回の戦いを知らないが、皆の悔しそうな表情を見るに、充分に実力を出しきれないまま負けてしまったようだ。


「しかしダンチョー、こっちにもリコッチを始めとした魔術師や弓兵はいるんだろう?」

「もちろんだ。特にリコッチの魔術スキルは敵集団をまとめてキルできるほど威力が高い。だが・・・」

「だが?」

「弓の一斉掃射を受けて穴だらけになって死んでいた」

「あー・・・」


魔術スキルは弓よりも射程が短いからなあ。

加えて言うなら弓と違って、スキルの発動にいちいち詠唱時間があるのも弱点だ。

いくら威力が高くても攻撃できなければどうしようもない。


「そういうわけでケンタロ、勝敗はキミにかかっていると言っても過言じゃない」


ダンチョーは拳をぐっと握り締める。

ここからが会議の本番だ。

俺は姿勢を正した。




明日のギルド戦。

フィールドは広い草原。

背の高い草と、各所にある小高い丘が特徴だ。


メインクリスタル(メイン石と呼ぶ)は互いの本陣に一つずつ。

本陣と言っても建物があるわけじゃなく、屋外にどーんとでかいクリスタルがあるだけらしい。

そしてサブクリスタル(サブ石と呼ぶ)が計4つ、草原各地に散らばっている。


基本は守備隊をサブ石とメイン石に配置し、攻撃隊は敵のサブ石を攻めに行く。

だが各所にある小高い丘には敵の弓兵や魔術師がいて、ロングレンジから攻撃の雨を降らしてくる。


「小高い丘はいくつもあるんだが、敵のほうが圧倒的に遠距離職が多い。つまり大半の丘は敵に制圧されてしまうんだ」


我らがジャスティスウィングは遠距離職が少ないので、たくさんの丘を制圧したところで、配置できる遠距離職が不足する。

必然的に丘の大半は敵に占領されるそうだ。

すると敵は地の利を得て、ここぞとばかりに各所の丘から雨あられと攻撃を仕掛けてきて、味方の脳筋たちがバタバタと倒れる負け戦になってしまう。


「そこでケンタロの出番だ。弓さえ届かない超遠距離から一方的に狙撃をしてほしい」

「だがダンチョー、何百人規模のギルド戦だろう? 俺一人で敵の弓兵全員をキルするのは、とてもじゃないが無理だ」

「わかっている。キルはたくさん取ってほしいが、それよりも敵の主力部隊である弓兵たちを、狙撃ポイントである丘から追い出してほしいんだ」


作戦はこうだ。

まず脳筋たちは防御を固めて、前進して敵にプレッシャーを与えながら遠距離攻撃を耐える。

その間に、敵が陣取っている丘を俺が超遠距離から狙撃する。

すると敵は一方的に攻撃されるため、その丘を放棄するしかない。


それを繰り返して敵の弓兵たちを有利な狙撃ポイントからあらかた追い出したら、我らが愛すべき脳筋たちが突撃する。

平地での激突なら、ガチムキ脳筋たちが脆い弓兵たちに遅れを取るはずがない。


ふーむ・・・。

俺はギルド戦に関しては全くの素人だから、いい作戦かどうかは判断がつかない。

だがまあ、やるべきことは理解できた。

しかし懸念もある。


「ダンチョー。敵が俺をいつまでも放っておくとは思えない。例えば背の高い草を活かして、回り込んで俺に奇襲を仕掛けることも考えられる」

「それもわかっている。キミの生存時間がそのまま勝率に直結すると思っている。だから護衛をつけよう」

「護衛?」

「私だ」


クッコロ騎士が凛々しい顔で立ち上がる。

とても頼りになりそうな雰囲気である。


「しかし・・・護衛は有り難いが、一人で大丈夫か?」

「ケンタロは狙撃ポイントを次々に変える。ならばぞろぞろ行くより少人数で隠れながら移動したほうがいい」


まあそうか。

敵の弓兵をどんどん丘から追い出していくなら、俺自身もそのたびに素早く狙撃ポイントを変えていく必要がある。

ぞろぞろと護衛に囲まれていると目立って仕方がないし、行進速度も鈍るからな。


その点、俺とクッコロだけなら移動速度という点においては申し分あるまい。

護衛役を一人で引き受けてくれるからには防御力にも自信があるのだろう。

見るからに守りの強そうな騎士だしな。


「わかった、クッコロ。世話になる」

「任せておけ」


凛々しく胸を張るクッコロ。


「ケンタロだけではない。ジャスティスウィングの盾である私が、必ず皆のことも守ってみせる。安心して戦いに臨んでほしい!」

「うおおおお! クッコロ!」

「クッコロさんかっこいい!」

「お前についていくぜ、クッコロ!」

「クッコロ!」

「クッコロ!」

「クッコロ!」


だ、駄目だ。まだ笑うな・・・。

し、しかし・・・。


「ま、まあ作戦はわかった。ギルド戦は初めてだから期待に応えられるかどうかは保証できんが・・・」

「ははは。構わないさ、ケンタロ。勝てれば嬉しいがこれはゲームだ、気楽にやってほしい」

「ああ、そうさせてもらう」

「私がついている。ケンタロは最後まで守ってみせる」

「頼もしいな。明日はよろしく頼む」

「任せておけ」


俺が手を差し出すと、クッコロも差し出してくれた。

しっかり握手をする。

うん、悪くない。


「よし、作戦会議は以上だ。諸君、今日はしっかりと寝て明日は万全の状態で戦に臨むように」

「はっ、ダンチョー!」

「それから、いつも言ってるがリアル優先だ。何か急用が入ったらそっちを優先してほしい」

「はっ、ダンチョー!」

「そして、諸君。やるからには全力を尽くして勝つぞ!」

「うおおおおおおお!」


ダンチョーが拳を掲げると、皆がそれに呼応する。

熱いギルドだ。そしていいギルドだ。


楽しむことを前提に、俺もなるべく貢献できるように頑張ろう。


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