44.狙撃手、レッドと勝負をする
「さあおっさん! 決闘だ!」
赤髪を逆立ててレッドが吼える。
大変気合の入った表情をしていらっしゃる。
しかしだなあ。
「なあダンチョー。助っ人の俺に求められている役割は、レッドのような近接をバッタバッタと薙ぎ倒すことなのか?」
「もちろん違うとも」
ダンチョーは一つ頷き、レッドに向き直る。
「レッド、キミの凄まじい攻撃力と勇敢さは皆が認めるところだ」
「へへっ、そうだろ!」
得意げな顔になるレッド。
こいつ根は素直なんだろうな。リコッチが絡むと面倒くさいだけで。
「しかしキミが一撃の元にケンタロを斬り伏せたとして、それはケンタロの狙撃力の試験になるのかい?」
「・・・いや、ならねえ」
「だろう? 我々が、特にキミが見たいのは彼の狙撃の腕だ。それを踏まえて、どうだい?」
レッドはダンチョーの指摘に唸ると、腕を組んで考える。
待つことしばし。
レッドはニヤリと笑って俺を見た。
「おっさん。500m先から俺を撃て!」
「500m?」
「そうだぜ! その距離ならどんな弓スキルでも届かねえ!」
なるほど。
最低でも500m先から的に当てられないようでは助っ人にならないということか。
俺の役割は敵の弓使いを一方的に落とすことだしな。
「わかった、500m離れて狙撃すればいいんだな」
「おう! 俺を倒せたらおっさんを認めてやるよ!」
レッドはまたニヤリと笑う。
ふーむ・・・。
何かあるんだろうな。俺に倒されない案が。
他の2人を見ると、ダンチョーは納得したように頷いているし、リコッチはニコニコと笑顔を返してくる。
この試験内容は2人から見てもフェアなようだ。
それなら俺としては文句はない。
俺はスタスタと歩いて500m離れた。
3人がかなり小さく見える。
「準備はいいか!」
俺は大声で呼びかける。
「いつでもきやがれ!」
レッドの声が返ってくる。
自信満々に仁王立ちしている。
俺はいつものスタイルで腹ばいになり、ライフルを地面にセットする。
スコープを覗くと、レッドが不敵に笑っているのが見える。
まあいい。
俺は俺の仕事をしよう。
レッドの頭に照準を合わせる。
トリガーを引く。
その瞬間、レッドが吠えた。
「ガーディアンアーマー!!」
レッドの身体が薄いバリアに包まれる。
勝利の笑みを浮かべるレッド。
ターン。
俺の銃弾はアーマーを粉砕してレッドの脳天を爆散させた。
「ふざけんなよ! おかしいだろ!?」
復活して戻ってきたレッドが地団駄を踏む。
「何で俺のバリアスキルが通用しねえんだよ!」
「ライフルにアーマーブレイクが付いているからだな」
「はあ!? 聞いてねえ! おっさん卑怯だぞ!」
「卑怯と言われてもなあ・・・」
俺は困ったようにダンチョーを見る。
こいつの説得は俺の仕事じゃあない。
「レッド、往生際の悪い真似は止めたまえ。彼は敵の弓使いがバリアに守られていても仕留められることを証明した。素晴らしい戦力じゃないか」
「でもよ! ダンチョー!」
「キミの執念は認めるが、レッド、あまり見苦しい姿を見せないでほしい。僕としてはキミから幹部の役職を取り上げたくないんだ」
「・・・くそっ! わかったよ!」
地面を蹴るレッド。
よほど悔しかったのだろう、燃えるような目つきで俺を睨みつけてくる。
「おっさん! 俺は負けてねえからな! マトモに戦えば俺の圧勝に決まってる!」
いや、そりゃあそうだろう。
狙撃手に何を期待しているのか。
「おっさん! うちのギルドに入るからにはしっかり貢献してもらうからな!」
「ああ、善処はする」
「ふん! 俺はもう帰るぞ!」
そう言ってレッドは足早に帰ってしまった。
ダンチョーが困ったように肩を竦める。
「済まないね、ケンタロ。彼も普段はもっと素直なんだけど・・・」
「いや、気にしていない。それより後から文句を言われなければいいが」
「それは大丈夫だ。レッドは熱しやすく冷めやすいタイプだから、結果が出た以上、もう何も言ってこないと思う」
「そうか」
まあギルドに所属するのはあくまで一時的なことだ。
嫌われないのが一番ではあるが、仮に嫌われてもさしたる問題はないだろう。
「さて、僕も帰ろう。リコッチはどうする?」
「もうちょっとセンパイと話したら帰りますよー」
「わかった、ではまた後で」
ダンチョーも立ち去った。
「ふー。センパイ、お疲れ様ですっ」
「疲れた」
「あははー、そこは大したことないって言うとこですよー」
「大したことはなかった」
俺が返すと、リコッチは可笑しそうにけらけらと笑った。
「センパイのライフル、アーマーブレイクなんて付いてるんですね。びっくりですよー」
「イベントの報酬で買ったんだ」
「あー。じゃーギルド戦、めっちゃ期待しちゃいます!」
「ほどほどにしてくれ」
「ダメですー。めっちゃですっ」
笑うリコッチ。
楽しそうだ。周囲をポジティブな気分にさせてくれる。
だがふと、リコッチが申し訳無さそうな表情を向けてくる。
「センパイ、スミマセン。レッドが・・・」
「ああ。別にリコッチが謝ることじゃあない」
「でも・・・」
うん、まあそうだろうな。
レッドがリコッチに好意を寄せているがゆえの暴走だったと、リコッチも気がついているんだろう。
リコッチは容姿もスタイルもいいし、性格も明るくてポジティブだ。
そしてヘビーゲーマー。
ゲーマーの理想の女の子といっても過言ではない。
そりゃあモテるに決まっている。
・・・そう考えると。
もしかするとリコッチは、これまでもゲームで色恋絡みの問題に悩まされてきたのかもしれん。
リコッチはゲーム内で恋愛を求めているようには見えないので、いろいろと嫌な思いもしてきたのだろう。
ゲームを純粋に楽しみたいという気持ちは、俺もそうなのでよくわかる。
俺はリコッチの背中をバシッと叩いた。
「わわっ! 何ですか、センパイ」
「また今度、昼飯を奢ってやる」
「えっ? 私、何もしてませんよー?」
「気にするな。俺が奢りたいんだ」
「ほんとですか? やったあー」
喜ぶリコッチ。
ふと俺を見上げて、にへっと笑う。
「センパイ、ありがとです」
「俺は何もしていない」
「私がありがとって言いたいんですー」
「そうか」
「はいっ」




