43.狙撃手、団長と顔合わせをする
ログインするとリコッチからピコン!とフレンドメッセージが飛んできた。
『せんぱあーい! 顔合わせしたいんで来てください!』
『誰とだ?』
『ダンチョーとですっ』
ダンチョー?
ああ、団長か。
ギルド戦に参加するにはギルドに入らないといけないわけで、なるほど、ギルドの団長との顔合わせは必要だ。
ジャスティスウィングの団長か・・・。
やはりカジと似たタイプの暑苦しいマッチョなのだろうか。
待ち合わせ場所に行くと、3人いた。
男プレイヤー2人に女プレイヤー1人。
もちろん女プレイヤーはリコッチだ。ぴょこぴょこと手を振ってくれる。
男のうち1人は銀髪をさらりとなびかせたイケメン青年だ。
思わず見惚れるほどの爽やかイケメンである。
歯がキラリと光る。CMに出てきそうだ。
「やあ、ケンタロ。始めまして。ジャスティスウィングのダンチョーだ。よろしく頼む」
「こちらこそよろしく。団長の名前は何ていうんだ?」
「ダンチョーだよ」
「・・・? いや、だから」
リコッチが我慢できないといった様子で吹き出した。
何なんだ?
「センパイ、名前がダンチョーなんですよっ」
「・・・何だって?」
「ダンチョーだ。よろしく頼む」
俺は思わずダンチョーを二度見した。
銀髪爽やかイケメンの雰囲気と名前が全くマッチしていないんだが?
「あー・・・その、差し支えなければそんな名前にした理由を聞いても?」
「もちろんいいとも。僕はこのゲームを始めたときから、ギルドを創設して団長になろうと思ってたんだ。だからダンチョーなのさ」
わかるようなわからんような理由を説明された。
ま、まあいいか。
人の名前にケチをつけられるほど俺の名前も上等じゃない。
「ふぅむ・・・」
「? どうしたんだ?」
「いや、筋肉が足りないと思ってね」
「は?」
筋肉?
こいつ筋肉フェチなのか?
まさか男もイケるクチなのか?
俺が後ずさるのを見て、ダンチョーは「ははは」と笑った。
「済まない、気を悪くしないでくれ。我らがジャスティスウィングには逞しい男が多いんだ」
「そうなのか?」
「ああ。非道なPKプレイヤーを我が手で捻り潰したいという屈強な勇者たちが集まってくるからね」
「そ、そうか・・・」
俺はもしかしてやべーギルドに入ろうとしているのでは?
本当に大丈夫か?
「ダンチョー! 俺はやっぱり反対だぜ!」
唐突に横から声が割り込んできた。
威勢のいい声だ。
見ると、もう一人の男・・・燃えるような赤髪の青年が拳を握っていた。
「ケンタロはPKプレイヤーって話だ! 俺たち正義のギルドには相応しくない!」
ああ、うん。
もっともな意見だ。
PKプレイヤーがPKKギルドに入るのは望ましくないという人も、当然いるだろう。
「落ち着くんだ、レッド。その話はもう済んでいるし、団長である僕が許可したことだよ」
「それはそうだけどよ! 納得してないヤツだっているんだぜ!」
「ふぅむ」
ダンチョーは銀髪をかきあげて思い悩む。
イケメンだけあってとても様になっている。
「ケンタロ、キミがPKプレイヤーであることは、個人的には問題ではないと思ってる。ただ済まないが、ギルドに所属してる最中だけはPKは控えてもらえると助かるんだが・・・」
「それはもちろんだ」
俺もさすがにそこまで分別がないわけじゃあない。
ギルド戦が終わるまでのことだし、ジャスティスウィングの名前を背負ったままPKプレイに勤しむつもりは毛頭ない。
「ダンチョー、こいつは普段からPKを繰り返してる外道だぜ! うちのギルドにいるときだけ止めたって意味ねえよ!」
「レッド、キミの正義感と筋肉は素晴らしいと思うが・・・」
「だいたいこいつ、リコッチとどういう関係なんだよ!」
・・・ん?
ああ、もしかしてそこなのか?
「センパイは会社のセンパイだよー? 言ったことなかったっけ?」
「ねえよ! ダンチョーもリコッチの紹介だからってえこひいきはずるいぜ!」
「しかしだね、レッド。リコッチは脳筋だらけのうちのギルドで貴重な魔術師だし、貢献度も高いんだ。キミだってわかってるだろう」
「リコッチはそうだけど、このおっさんは違うだろ!」
レッドと呼ばれる赤髪の青年は、ビシィッと勢いよく俺を指差す。
俺は困り顔になるが、口は挟まない。
これは内部で解決すべき問題だろうと思うからだ。
「うぅむ。レッド、キミは幹部の一人だから、できればキミも納得のうえでケンタロに入団してもらいたいと思ってるんだが」
ぜひそうしてほしい。
入ったあとにあーだこーだ反対されても困るし、俺のせいで内部分裂なんてことになったら俺を紹介したリコッチも肩身が狭いだろう。
「ではレッド、どうしたら納得するんだい?」
「このおっさんがPKをやめればいいんだよ!」
レッドが勢い込んで吼えると、ダンチョーは銀色の目をスッと細めた。
「それはできない。これはゲームだ。他人にプレイスタイルを強要する行為は恥ずべきものだと知りたまえ、レッド」
「ぐっ・・・!」
レッドが言葉を詰まらせる。
俺はダンチョーに感心する。
そこを尊重できるプレイヤーは、精神的にも成熟したいいプレイヤーだ。
俺より遥かに若いだろうに、ギルドを一つまとめているだけはある。
「じゃあせめて、おっさんの実力を試させてくれ! せっかく秘密兵器として入れる狙撃手が使い物にならないんじゃ笑いものだろ!」
「それは確かに、レッドの言うことは一理ある。僕としてはリコッチの紹介だから疑ってないんだが・・・」
ダンチョーが済まなさそうにチラリと俺を見る。
レッドに付き合ってやってほしい、ということだろう。
仕方がない。俺としてもギルド戦は楽しみだし、ここで躓くのはもったいない。
「わかった、そういうことなら・・・。それでレッド、実力を試すというが何をするんだ?」
「そんなもん決まってるだろうが! 決闘だ!」
・・・なにい?
ガチムチの近接職と豆腐より柔らかい狙撃手が決闘だ?
そんなもので狙撃の実力を計れるわけないだろうが。
レッドがチラリとリコッチに視線を遣る。
なるほど、かっこいいところを見せたいわけだ。
当のリコッチは「センパイがんばれー」みたいな表情をしている。
俺は頭を抱えたくなった。
 




