表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/166

42.狙撃手、ラストアタックアイテムを知る

俺はカジの鍛冶屋にやってきた。

今日はリコッチはいないのでチンピラNPCに金を払って街に入った。


わざわざカジを訪ねるのには理由がある。

この前のイベントで手に入れたジャイアントイノシシの頭蓋骨とやらの用途を聞きたいのだ。

もし簡単に武器をグレードアップできるなら、ギルド戦に向けて強化しておきたいという思惑がある。


「ようケンタロじゃないか。はっはっは、元気だったか?」


店に入ると、暑苦しいマッチョポーズで出迎えてくれるカジ。

変わりがないようで何よりだ。


「武器は少し前に作ったばかりだが・・・防具でもほしくなったか?」

「いや、この前のイベントで戦利品を得たから、用途を教えてほしいんだ。武器に使えるなら使いたい」

「おお、いいとも。何だ?」

「ジャイアントイノシシの頭蓋骨というんだが知っているか?」

「なにい・・・!?」


仰天するカジ。

何だ?


「おいおいケンタロ、そりゃ本当か!? 本当にジャイアントイノシシの頭蓋骨か!?」

「アイテム欄を見る限りそう書いてあるが・・・どうしたんだ?」

「どうしたも何も、ラストアタックを取らないともらえないレア中のレアじゃないか!」

「・・・そうなのか?」


カジの説明によると、こういうことらしい。

ボスには、ラストアタック(一番最後にダメージを与えてキルすることだ)を取ったプレイヤーにのみ与えられるアイテムが存在するらしい。

中でもレイド級は滅多にお目にかかれないうえに、討伐に集まるプレイヤーも多いので、ラストアタックアイテムを入手するのは至難の業だそうだ。

そしてレイド級ボスモンスター”ジャイアントイノシシ”のラストアタックアイテムが、このジャイアントイノシシの頭蓋骨というわけだ。


「そうだったのか・・・。俺は運がよかったんだな」

「そりゃもう。レイド級なんてそうぽんぽん発生するものじゃないからな。持ってるプレイヤー自体かなり少ないぞ!」


なるほど。

しかし、そう考えるとスナイパーライフルはボスのラストアタックを取るのに適した武器かもしれん。

ヘッドショットさえ命中すれば、全武器の中で最大のダメージを誇るので、ヘッドショットを外す心配のない巨大モンスターと相性がいい。

まあそうは言っても数千人の中からのラストアタックだ、強運がなければとても無理だろう。

二度はないと考えるべきだろうな。


「それで、この頭蓋骨は何に使えるんだ?」

「かなり上位の武器や防具の素材になるな。レイド級のラストアタックアイテムを使った武器防具なんて、何人も持ってないはずだ」

「カジ、作れるか?」

「いやあ、そりゃ無理だ」


大仰な素振りで肩をすくめるカジ。

前にも説明してもらったが、鍛冶スキルは武器ごとに分かれており、カジは”スナイパーライフル作成”にはそれほどスキルポイントを割り振っていない。

ジャイアントイノシシの頭蓋骨を用いるような上位武器を作るには、スキルレベルが足りないそうだ。


「となるともっと腕のいい鍛冶屋を探すしかないのか」

「そうだな。ただケンタロ、ライフル作成を高レベルで持ってるような奇特な鍛冶屋はかなり少ないぞ」

「まあ・・・需要が少ないからなあ」


剣や杖、弓などは圧倒的な需要を誇るので、高レベルの作成スキルを持っている鍛冶屋も多い。

しかしスナイパーライフルは・・・ううむ、探すだけで一苦労だろう。


「カジの知り合いで、上位ライフルを作れそうな鍛冶屋は?」

「あいにくいないな。力になれなくて済まない」

「いや、むしろ感謝している。カジの作ってくれたライフルは大活躍なんだ」


俺が肩に担いだライフルをぽんと叩くと、カジは嬉しそうにニカッと笑った。

やはり自分の作った武器が役に立つのは生産職としては誇らしいのだろう。


「まあ、もし俺が上位ライフルを作れるようになったら真っ先にケンタロに連絡するさ」

「わかった、楽しみにしている」


眩しい笑顔を残すカジに手を振り、俺は店を出た。

この頭蓋骨にはもうしばらく埃を被っておいてもらうしかないな。




******




さて。

ジャイアントイノシシの頭蓋骨の用途はわかったが、俺が街に侵入したのはもう一つやりたいことがあったからだ。


俺はしばらく前に、薬屋のお姉さんNPCをキルできるかどうか試した。

そして実際にキルできた。

このゲームは店のNPCもきちんとHPゲージを持っており、攻撃すれば倒せるのだ。

素晴らしい。


しかし、ではただのNPCはどうか?

アイテム販売のために配置されている店のNPCではなく、街中にいるただのNPCだ。

話しかければ決められたパターンの返答をしてくれる通行人や、クエスト受注のためのNPCだ。


気になる。

そして気になるならキルすればいい。

なあに、たかがゲームだ。遠慮する必要はない。


とはいえそのあたりを歩いているプレイヤーに目撃されるのは、あまり望ましくない。

奇異の目で見られることは間違いないだろうし、下手をすればマイナスの感情を持たれてしまうかもしれない。

俺は別に街中で他のプレイヤーの恨みを買いたいわけではないのだ。


そういうわけで俺は宿屋に入った。


「いらっしゃいませ」


宿屋の主人NPCが、平坦な表情で出迎えてくれる。

この表情を見るにつけ、恐らく俺は宿泊させてもらえないだろう。

まあいい。宿泊が目的じゃあない。


俺は宿屋の主人を無視して、勝手に階段を登って2階に上がる。

システム的に宿泊しなくとも、別に歩き回るのは自由なのだ。

俺は表通りに面した一室に入る。


部屋の窓から表通りを見下ろす。

うん、悪くないポジションだ。

青年NPCが向こうの噴水広場に見える。

「あそこに見える城には王様が住んでいるんだよ」というあまり意味のない会話をしてくれる青年NPCだ。


俺は少し視線を移す。

噴水広場の反対側には大きな掲示板があり、クエスト受注のためのNPCがいる。

そいつに話しかけてクエストを受注し、完了しては報酬をもらうのだ。

ちなみに俺はその手のクエストは一度もやったことがない。

攻略サイトを見れば、恐らくオススメのクエスト、効率のいいクエストなどが掲載されているんだろうが。


まあクエストはどうでもいい。

俺が用があるのはNPCだ。

俺は窓枠に銃身を乗せて安定させると、スコープを覗き込む。


まずは会話のためだけに配置されている青年NPCだ。

頭に照準を合わせる。

トリガーを引く。


ターン。


青年NPCが電子の光となって消滅した。


おお・・・!

俺は感動した。

ただのNPCもキルできるのか。素晴らしい。

何だこのゲーム、何故こんなどうでもいいところを作り込んであるんだ。

最高だ。


そして次に、クエスト受注用のNPCだ。

もし仮にキルできてしまったら、一般プレイヤーが困るんじゃなかろうか?

なあに、心配は無用だ。

クエスト受注は頻繁に発生することなので、他の場所にもクエスト用NPCはいる。

一人くらいキルしても何の問題もない。


そういうわけで俺は銃身をずらして、今度はクエスト用NPCに照準を合わせる。

作り物の笑顔がプレイヤーたちの相手をしている。

プレイヤーたちがぞろぞろとクエストを受注している。

トリガーを引く。


ターン。


クエスト用NPCも光の粒子となって消滅した。

おおお!

俺は再び感動した。

きちんと役割を持っており、いなくなれば若干とはいえ他プレイヤーに影響を及ぼすようなNPCもキルできるのか。

何なんだこのゲームは。神ゲーか?

俺はこのゲームについていくぞ。


周りにいたプレイヤーたちが、何が起きたのかわからず混乱している。

いきなり消え去ったNPCを見て腰を抜かしているプレイヤーもいる。

すまんな、あっちのほうにいる別のNPCからクエストを受注してくれ。


ん? 誰か部屋に入ってきた。

宿泊目的のお客さんだろうか。

悪いが今は取り込み中だ。

何の罪もないNPCをあの世に送るというなあ。ふはははは!




怒りの形相でバトルアックスを振りかざした兵士だった。




俺は挽き肉になって死んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ