表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/166

41.狙撃手、仲良し夫妻と出会う

イベントで大量の移動速度ポーションを得た俺は、あちこちのエリアを歩き回った。

まだ足を踏み入れたことがないエリアは多く、また行ったことがあっても隅々まで踏破するのは骨が折れる。

狙撃手にとって地理の把握というのは極めて重要なのだ。


すると行き慣れた熊山の奥地に、谷底へと降りる道を発見した。

これは探検してみるしかないだろう。

リアルでこんな場所へキャンプしに行くことは、面倒くさがりの俺としては有り得ないので、ゲームならではだ。

少し楽しい。


谷底へと下っていくと渓流があった。

ゴツゴツした不安定な岩場の間に川が流れているのだ。

ますますもってキャンプによさそうだ。釣りなど楽しめそうな場所だ。


と思っていたら先客がいた。

2人だ。

男女のペア。揃って釣り竿を振っている。

カップルだろうか?

それとも40代に見えるところから夫婦だろうか。


ふむ。

こんなのんびりとした釣日和だ。

挨拶くらいしてもバチは当たるまい。


「どうも、こんにちは」

「やあどうも。いい釣日和ですなあ」

「もしやデートで?」

「はっはっは、そうなんですよ。釣り一つとってもゲームとは思えない楽しさで」


人の良さそうな笑みを浮かべて話に乗ってくる。


「あなた、釣れなくなっちゃったわ」

「おっと、餌がなくなったんだな。分けてあげるからもう一度やってごらん」

「ええ」


妻のほうは一生懸命に釣り竿を振って、遠くに飛ばそうとしている。

微笑ましい。


「奥さんも釣りがお好きなんですか?」

「いやあ、リアルじゃ釣りなんて飽きてやってくれませんよ」

「ゲームだから楽しいんです。ねえ、あなた」

「そうなんですよ。いいデートになってるんです」


確かに普段やっていないと釣りなんてすぐ飽きるだろう。

ゲームとして遊べるからこそだ。

そうか、夫婦でアウトドアをする代わりにゲームを利用しているわけか。

これなら片方が飽き性でも一緒に遊べる。

なおかつリアルで移動する手間や労力もかからない。

目から鱗だ。


「あなたは戦闘職のようですが、やはり釣りを?」

「いや、俺は上のほうでデカ熊を狩っていたんです。猟師は熊を狩るもんでしょう?」

「はっはっは、違いないですな」


俺が冗談めかしてライフルを掲げてみせると、夫妻は可笑しそうに笑った。


「まあこのへんはたちの悪いPKプレイヤーもいません。のんびりしていくといいですよ」

「PKプレイヤーがいないんですか?」

「ええ。釣り人をキルしても落とすのは魚だけですからね」

「ああ、なるほど」


せっかく労力を割いてPKするなら、もっと旨味のあるプレイヤーを狙うのが普通だ。

魚しかドロップしない釣り人を狙う意味も薄いだろう。


「釣りはされませんか?」

「釣りスキルが0でもできるもんですか?」

「ほとんど釣れないでしょうが、スキルが0でもできますよ。釣りだけじゃなくて採掘や料理も」

「ほほお」


そういえば俺が街の門番に惨殺されて鉱山送りになったときも、確かに採掘はできた。

スキル0だから非常に効率は悪かったが、やるだけならできるのか。


「よければ?」

「む、すみません。ではちょっとだけ」

「どうぞどうぞ」


釣り竿を借りて、渓流へと釣り糸を垂らしてみる。

ふーむ・・・。

お、引いている。何かかかった。

竿を引き上げる。


・・・空き缶が釣れた。


「はっはっは、スキル0ならそんなもんです」

「うーむ、残念」


妻のほうを見てみると、たまにちゃんと魚を釣り上げている。

俺より釣りの腕は上のようだ。


夫妻に釣り竿を返し、少し魚談義をする。

どうやらこのあたりではフナやウグイ、少しレア度は上がるがヤマメやイワナなどが釣れるらしい。

そして釣った魚を料理スキルで料理に仕上げると。


ちなみに料理を食べると、一定時間いろいろなボーナスを得られる。

少しだけ敏捷性が上がったり、与えるダメージが増えたり、攻撃速度が上がったりだ。

それほど劇的な効果はないが、特に対人では少しの差が勝敗を分けるため、料理はPKプレイヤーとPKKプレイヤーにとても需要がある。

始まりの街にもプレイヤーが開く料理ショップがたくさんある。


俺もそのうち一度は料理パワーを体験してみてもいいかもしれんな。


「では俺はこのあたりで。もう少し熊を狩ってきます」

「や、お気をつけて。気が向いたらまた寄ってください」

「ええ、そのときはまた釣り竿を貸してください」

「はっはっは、喜んで」


俺が会釈をすると、夫妻揃って笑顔を返してくれた。

いい人たちだ。

俺は谷底を離れて、また熊山に登った。




「・・・ふむ、このあたりか」


俺は山の上から、谷底を見下ろす。

先程まで夫妻との邂逅を楽しんでいた場所だ。

うん、いる。

かなり小さいが、谷底に2つの人影が見える。


俺はスナイパーライフルを構えて、スコープを覗く。

夫妻が楽しそうに笑っている姿が映る。


酷い行為だ。外道だろう。

それに魚しかドロップしないから旨味も少ない。


だがなあ。

たかがゲームだ、キルして何が悪い?

もちろん悪くない。

俺はこのゲームで魚を手に入れたことがないので、一度入手してみたい。

動機なんてそんなもんで充分だ。


照準を定める。

どちらから狙っても同じだ。

トリガーを引く。


ターン。


夫のほうが電子の光となって消滅した。

妻が仰天した様子でおろおろしている様子がスコープ越しに見える。

可哀想に半泣きになっている。


俺は続けてトリガーを引く。

妻のほうも弾けて消えた。


俺はアイテム欄を確認する。

おお、フナと・・・それから少しレア度が高いと言っていたヤマメが入っているじゃないか。

素晴らしい。俺は満足した。

料理人のフレンドができたら何か作ってもらおう。


あの夫妻には悪いことをしたが、まあ分別ある大人だ。

ゲームはゲームだと割り切ることだろう。

そもそもの話、PKが嫌ならPKのないゲームをプレイすればいいわけで、そのあたりはあの夫妻もわかっているはずだ。

他人であり一プレイヤーに過ぎない俺が気を回すことじゃあない。




さて、もう少しデカ熊を狩ってから帰るとするか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] サイコパスで草 まぁゲームでバフが手に入るなら仕方ないな
[一言] 実は取引先のお偉いさんで後々面倒なことになったりして……
[良い点] 主人公のサイコパスな部分が垣間見えた気がします。 まさか親しくなってからぶっ殺すとは····なかなかのメンタルですね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ