36.狙撃手と初心者いびり
俺が狩場に向かおうと初心者エリアの草原を歩いていると、数人の男女がいた。
いや、正確には男3人、女1人だ。
それだけならどうでもいいんだが、どうやらあまりいい雰囲気ではない。
「おらっ、攻撃ってのはこうやるんだよ」
「ぎゃはははは! 何だよそのへっぴり腰」
「あっ、あの・・・一人でできますから・・・」
「ああ!? 俺らは親切で教えてやってんだぞ!」
・・・。
・・・。
端的に言うと初心者いびりだった。
初心者の女の子がモンスターを倒そうとしているところを、横から攻撃してかっさらう。
そんなことを何度も繰り返している。
それだけでなく、わざと威力の弱い剣で女の子を突っついて、殺さない程度にHPゲージを減らしている。
ゲームだから別に痛みは感じないが、精神的にクるものがあるのは間違いない。
女の子は涙目で肩を震わせてているが、ガタイのいい3人の男に囲まれているので逃げることもできない。
ちなみにこのゲーム、戦闘中はログアウトできない。
キルされそうになったらログアウトを利用して即逃亡、といった行為は禁止されているのだ。
男たちにチクチクと攻撃されている女の子は、システム的には戦闘中と見なされるので、この場でログアウトはできない。
「あの、あの・・・私、もう帰らなきゃ・・・」
「はあ? 俺らが懇切丁寧に教えてやってんのにそりゃねえよなあ?」
「へっへっへ、もうちょっと付き合えよ」
「戦い方ってやつをじぃぃっくり教えてやるからよお」
女の子は涙を浮かべながら、嫌がるように剣を避けようとしているが、逃げられるはずもなくチクチクと粘着されている。
あの男3人はPKプレイヤーだろう。他人を攻撃することに躊躇がない。
こんな状況になってしまうと、女の子側としては打開策はないのだろうか?
いや、ある。簡単だ。
自分の武器でサクッと自殺すればいいのだ。
するとスタート地点に死に戻りできるので、さっさとログアウトできる。
まあアイテムはドロップしてしまうが、そこはプレイヤー全員に適用されるシステムだから我慢するしかない。
だがこの女の子のような初心者は、そもそも自殺など思いつかないのだろう。
どうしようもないようで、本格的に泣きべそをかいている。
周囲を見てみるが、そもそも人はまばらだし、ちらほらいるプレイヤーたちも関わり合いになりたくないようで目を逸らしてすぐに立ち去っている。
まあここは初心者エリアだ。
進んでPKプレイヤーに関わりたい人などいないだろう。
明らかな不正やバグ利用が行われているなら即座に運営に通報すればいいのだが、このゲームにおいてこの男たちの行動はどうなのだろうか?
システム的には許容されているので、あくまでマナーが悪い程度に収まるのだろうか?
こういう状況にPKKプレイヤーが駆けつけて正義のヒーロープレイをするのも、遊び方の一環ではないかと個人的には思う。
だがマナー的に悪質なのは間違いないので、一般的には通報すべき案件なのだろうか?
うむ・・・わからん。
「・・・あ」
涙目の女の子が俺のほうを見た。
気の弱そうな表情で、潤んだ瞳を向けてくる。
「ああん!? おっさん何か用か?」
「おっさんも戦い方を教えてほしいのかあ?」
「やんぞオラア!」
同じく俺に気づいた男たちが凄んでくる。
「いや、何も」
俺は肩を竦める。
悪いが俺は貧弱な狙撃手なんだ。
男は3人いるが、これが1人だったとしても戦ったら俺は勝てないんだ。
すまんな。
「へっへっへ、腰抜けが」
「おら、さっさと行けよ。俺らの気が変わらねえうちによお」
「ああ、そうさせてもらう」
「あ・・・」
俺はそ知らぬ振りでこの現場を通り過ぎる。
女の子の悲しそうな視線が背中に突き刺さる中、俺はその場を離れた。
さて。
俺は小高い丘の上で腹ばいになる。
スナイパーライフルを地面にセットし、スコープを覗く。
スコープの向こう側では、相変わらず男3人が女の子にちょっかいを出している。
女の子はついに地面に座り込んで、泣き出してしまっている。
俺は別に正義感の強い人間じゃない。
ましてゲームだ、誰をキルしたところで問題はないと考えている。
例えば俺が鉱山であの女の子を見かけたら、鉱石を奪い取るために狙撃するだろう。
だがそれはそれとして、胸糞悪い言動に腹が立たないわけじゃあない。
あの男たちはリアルじゃ決してできないチンピラプレイをしているのかもしれんが、俺はお前らに少々腹が立った。
理由はそんなもんで充分だ。
照準を合わせる。
トリガーを引く。
ターン。
男1人の頭が吹き飛んだ。
スコープの向こうで、残りの男2人が慌てたように右往左往している。
女の子は何が起きたのかわからずキョトンとしている。
ターン。
もう1人も脳天に銃弾が炸裂して死んだ。
最後に残った男はこれまでの威勢が嘘のように、へっぴり腰で逃げ出した。
だが悪いな、スナイパーライフルの射程は長いんだ。
ターン。
最後の男も頭部が爆散して消滅した。
女の子の様子を見ると、びっくりした様子できょろきょろしている。
そりゃ意味がわからんだろう。
まあ驚いた拍子に涙は引っ込んだようだ。
俺は立ち上がってライフルを担いだ。
あの女の子はこのゲームを辞めるかもしれんが、それは仕方がない。
嫌な目にあったわけだしな。
とはいえこのゲームは面白いので、出来れば続けてほしい。
今のようなプレイヤーは比率としては少数派だろう。
もちろんそのあたりは本人が決めることで、俺のような他人が口を出すことじゃない。
俺は初心者エリアを離れて狩場に向かった。




