35.狙撃手、ギルドに誘われる
「おい、おっさん」
ある日スタート地点で声をかけられた。
俺が振り返ると、腰のホルダーに2本の短剣を下げた少年がいた。
こいつは確か、この世界で初めて俺をPKした短剣少年だ。
その後、偶然にも逆襲を果たしたので、すっかり存在を忘れていた。
「おっさん、ケンタロだろ?」
少年はまさにイキりたい盛りの年頃のようで、礼儀など何も考えていないようだ。
とはいえゲームの世界で礼儀を指摘するのも無粋だろう。
「ああ、そうだ」
「ふぅん・・・」
身体を斜に構えて、睨めつけるような角度で俺を見据える少年。
全身で俺はイキっていますと主張しているようで、俺は何ともいえない気持ちになった。
俺も学生時代は、大人からあんな風に見えていたのだろうか・・・。
「俺に何か用事が?」
「うちのギルドに入れてやるよ」
自信満々に言う少年。
自分のほうが立場が上だと確信しており、それ故に自分の提案が断られるなど微塵も考えていない表情だ。
しかし、ふむ。ギルドか。
「ギルドというと、やはりPKギルドかい?」
「当たり前だろ、おっさん。わかりきったこと聞くなよ」
いや、社会人になるとなあ。
わかりきったことでも一応確認しておく癖がつくんだよ。
なあなあで済ませると後々ろくなことにならないんだ。
「あー。一つ聞きたいんだが、どうして俺を?」
「ライフルでランクインしただろ? なかなか見どころのあるおっさんだと思ってさ。うちのギルドに入れてやることになったんだ」
とても余計なお世話である。
俺はソロプレイを楽しんでいるので、どこかのギルドに所属する予定はない。
しかし・・・。
斜に構えたカッコイイ表情で、俺を値踏みするように見据えている少年。
どう断れば反発しないだろうか?
この手のプライドが高そうなタイプは下手に断ると逆ギレして、逆恨みしてくる恐れがある。
俺よりもベテランのPKプレイヤーであろう少年に粘着されると厄介だ。
それにこの少年だけならともかく、彼の所属するPKギルドに敵対意識を持たれると困ったことになる。
俺は所詮ソロプレイヤーなので、数の暴力に勝てるはずがないのだ。
うーむ・・・。
「おっさん、ギルド申請飛ばすぞ? いいな?」
短剣少年がイライラし始める。
仕方がない。この手でいこう。
「いや。察するに君のギルドはすごいところなんだろう?」
「あ? まあな。ちっとは有名だぜ。ギルド戦でもそこそこの戦績だしな」
得意げに顎を逸らす少年。
ギルド戦なんてあるのか。
それはそれで面白そうだが、ともかく。
「この布の服を見ればわかると思うが、俺はまだこのゲームを始めてそれほど経っていないんだ。そんなすごいギルドに入れてもらうには、少しばかり力不足だと思う」
「ん・・・。まあ確かにおっさんちょっと素人臭いしな」
「そうだろう? だから俺がもうちょっと成長して君のギルドに見合うほどの実力を身に着けたら、そのときにまた話さないか?」
「んー」
少年が悩んでいる。
もうひと押しだ。
「それに俺がもしここから何も成長しなかったら、君のギルドに所属するには力不足になってしまうんじゃあないか? すると俺を誘った君も、他のメンバーからの心象がよくないだろう」
「あー、確かにそうだな。おっさんがもっと成長してからでも遅くねえな」
「ああ。すごいギルドなんだろう? そしてそこに所属している君も熟練プレイヤーなんだろう?」
「そりゃもちろんさ」
俺がプライドをくすぐると、短剣少年は得意そうに胸を張った。
「しょうがねえな。おっさん、がんばって成長しろよ。そしたらうちに入れてやる」
「善処する。まああまり強くなれなかったら、他のギルドに世話になるかもしれんが・・・」
「いいんじゃね? うちは一流しか入れてないからよ」
「そうか。俺も君を見習ってがんばるとしよう」
「ああ。じゃあな、おっさん」
用は済んたとばかりに、肩で風を切って去っていく少年。
機嫌がよさそうで何よりだ。
俺は息をついた。
あれなら逆恨みして俺に粘着してくることはないだろう。
以前のように、偶然出会ったときにキルしたりされたりする関係が一番いい。
というかあんなイキった少年がたくさんいそうなギルドに入ってしまったら、俺のストレスがマッハだ。
俺は基本的に怠け者で、特に対人関係はかなり面倒くさがりなのだ。
もし将来的にまたあの少年に誘われることがあっても、実力不足を理由に断ればいい。
そうそう何度もランキングに載るような奇跡は起きないだろう。
もしくは本当に、気が変わってどこかのギルドに所属する可能性もないわけじゃないしな。
さて、気を取り直して狩りにいくか。




