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29.狙撃手、共闘する

「リコッチ!?」

「ジャスティスウィングのリコッチだ!」

「あの氷系魔術師の上位プレイヤーか!?」

「馬鹿な、PKKギルドは初心者エリアに行ってるんじゃなかったのか?」


敵集団が動揺する。

この機を逃す俺ではない。


スナイパーライフルを構えると、すかさず敵の神官の頭を撃ち抜く。

何より厄介なヒーラーを最初に落としておかないと、後が続かない。


「くっ、あの狙撃手を殺せ!」

「でもリコッチが・・・」

「狙撃手から殺すんだ!」

「おい待て、リコッチのほうが手強いに決まってる!」


指揮官などいないようで、敵集団の意思はばらばらだ。

そしてリコッチの詠唱が終わる。


「フリージングストーム」

「うわあああ!」

「氷の嵐だああ」


すげえな・・・。

範囲殲滅系のスキルは初めて見たが、エフェクトが派手で痛そうだ。

リアルのブリザードもこんな感じなのだろうか。


リコッチが敵集団を回り込んで、岩陰に隠れている俺の元へとやってくる。


「ども、センパイ」

「・・・何でここに?」

「初心者エリアはPKKプレイヤーが多すぎて」


なるほど。

こっちのほうが旨味があると踏んだわけか。


「あれで倒したのか?」

「いえいえ。範囲系スキルはまとめてダメージを与えられるぶん、威力はそこまで高くないんで」


なるほど。

敵集団を見ると、HPゲージが減ってはいるがまだまだ戦う気満々のようだ。


「なので共闘しましょ、センパイ!」

「おう」




「フリージングトラップ」


突っ込んできたプレイヤーの足元に、氷の円が発動する。

プレイヤーの動きが止まったところを、俺の射撃で頭を撃ち抜く。


「くっ、囲め! 相手はたかが2人だ!」

「おお!」


俺とリコッチは背中合わせになり、敵集団と相対する。


「センパイ、落ち着いて素早く正確に撃ってくださいね」

「注文が多いぞ」

「できないんですか?」

「誰にものを言っている」


リコッチはくすりと笑うと、スキルの詠唱に入る。

俺は先頭のプレイヤーに一発ぶっ放す。

悠長にヘッドショットを狙っている時間はないのでボディだが、いいダメージが入った。

バリア役の神官を落としたリコッチの判断が効いている。


「もらったあ!」


剣士職の男が俺に剣を振り下ろす。


「フリージングエッジ」


氷の斬撃が直撃し、剣士は消滅した。

このフリージングエッジは単体高威力のスキルのようで、ボディにヒットした俺の射撃よりもダメージが出ている。

なるほど、ヘッドショットを決めない限り、スナイパーライフルより魔術スキルのほうが威力は高いんだな。


ターン!


俺はそんなことを考えながら、リコッチの側面に迫っていたプレイヤーを撃ち抜いた。


「たかが2人に何してるんだ!」

「で、でもこいつら連携が上手くて」

「言い訳はいいからさっさと殺せ!」

「ああ!? 何てめえが仕切ってんだ?」

「そもそも俺はリコッチと戦いたいわけじゃ」

「今更何言ってやがる!」


こいつら連携やべえな。

だがそのおかげで助かっている。

何せこっちはたかが2人だ。

きちんと統率の取れた集団に勝てるはずがない。


「フリージングトラップ」


ターン!


リコッチが足を止め、俺が撃ち抜く。

タイミングが絶妙だ。


リコッチがちらりと俺を見て、軽く片目を瞑ってみせる。

俺もニッと笑みを返す。


こいつはいい。

なるほど、これがパーティプレイってやつか。

パーティが推奨されているわけだ。

ソロより圧倒的に対処できる幅が広がる。

何より楽しい。


もちろん、これは俺が上手いわけじゃあない。

リコッチがパーティプレイのやり方を熟知しているのだ。

パーティ向きじゃないライフルを上手く活かして、リコッチが補助に回ってくれているおかげだ。


「センパイ、数が減ってきたんで一気に決めたいです」

「おう」


俺はリコッチの意を汲むと、わざと大きな動きで岩陰から飛び出した。

ついでにライフルで敵に一発。


「狙撃手のおっさんが出てきたぞ!」

「おっさんを狙え!」

「殺せ!」


敵集団がわらわらと俺に向かってくる。

俺は後退しながらもう一発。


こんなあからさまな時間稼ぎに引っかかるところを見ると、こいつら完全に頭に血が上っているらしい。

まあ指揮系統なんてないようだし、大人数をかけて2人相手に劣勢じゃ無理もない。

俺をキルすれば溜飲も下がるだろうし。


だがなあ。いいのか?

リコッチは氷系魔術師の上位プレイヤーなんだろう?

もう詠唱が終わるぞ。


「ノーザンクロス」


凄まじかった。

巨大な氷の嵐が敵集団を飲み込み、凍らせながら引き裂いていく。


「ぎゃああああああ!」

「た、助けて・・・!」

「な、何も見え・・・がはっ」


あまりの威力に俺が呆然としている間に、敵集団は一人もいなくなった。

これが氷系の上位スキル・・・。

いや最上位ではなかろうか。


「終わりましたね、センパイっ」


リコッチが弾んだ声をかけてくる。

俺は我に返った。


「ああ、助かった」


だがまだ終わっていない。

まだ目の前に、一人残っているだろう?


俺は素早くリコッチに銃身を向ける。


「・・・センパイ。共闘した仲じゃないですかあ」

「ゲームに手は抜かない主義だ。悪く思うな」

「ほんとですか? じゃー・・・よかったです」


ニコッと笑うリコッチ。

不意に俺の足元に、氷の円が出現した。


これはフリージングトラップ!?

う、動けない・・・。

いつだ?

いやそうか、俺が氷嵐スキルの威力を見てアホみたいに呆けていたときに張ったのだ。

これが対人に慣れたベテランというやつか。


「ゲームに手を抜かない主義のセンパイ、ステキです」

「・・・必ず借りは返すぞ」

「えへへー、待ってます」




氷の斬撃を食らって俺は死んだ。

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