28.狙撃手、漁夫の利を狙う
ヤギ山に剣戟が響く。
爆発音と悲鳴。気合の雄叫び。苦悶の声。
一般プレイヤーとモンスター、それにPKプレイヤーたちが乱戦状態で激しく渡り合っている。
俺は岩陰でそれを遠目に見つめながら、地面に腹ばいになる。
スナイパーライフルをセットする。
銃身を乱戦に向けて、トリガーに指をかける。
引く。
ターン。
狙いをつけたプレイヤーのボディにヒットした。
HPゲージが残り少なかったそのプレイヤーは、光の粒子となって消え去った
そうなのだ。
激しい乱戦状態のせいで、ヘッドショットを狙うのは極めて困難だ。
だからボディに当たってもキルできそうなHPゲージの減少したプレイヤーを狙っている。
モンスターは狙わない。
下手にモンスターにダメージを与えて、俺に向かって突進してきたら非常に困ったことになる。
俺にはヤギモンスターの突進を回避するすべはないし、何より他プレイヤーに俺の存在が露見してしまう。
俺は再びトリガーに指をかけ、引く。
引く。
引く。
多数のプレイヤーが熱狂しながら入り乱れる戦場だ。
遠くの岩陰からちまちま狙撃を繰り返している俺のことなんて、誰も気づかない。
加えて言うなら、多少狙いを外したところで問題にはならない。
乱戦なので、誰かしらには当たるからだ。
しかしあいつら楽しそうだな・・・。
誰も彼もが夢中で目の前の敵を狩っている。
ゲームを楽しんでいると言うのだろうか、皆それぞれ熱中した表情で攻撃したりされたりしている。
いいことだ。
無論、俺も楽しんでいる一人だ。
狙撃。
狙撃。
狙撃。
撃ちたい放題だ。
乱戦を超遠距離から狙い撃ち。
素晴らしいシチュエーションだ。
これぞ狙撃手の本領だろう。
このゲームにおいて、スナイパーライフルは決してキル効率の高い武器ではない。
何故ってそりゃあ、通常攻撃にクールタイムがあるからだ。
連射できないのでどうしても時間あたりのキル数は多くならない。
だからそれを補うために、HPゲージが残り少ないプレイヤーを率先して狙っている。
他のPKプレイヤーに削ってもらって俺が美味しくトドメをいただくわけだ。
いやまあ、一般プレイヤーがPKプレイヤーを削っているケースもあるが、どちらにせよやることは同じだ。
卑怯?
知ったことじゃあない。
文句があるなら運営に言うんだな。
結論から言うと、俺はやりすぎた。
いくら遠距離からの狙撃といっても、調子に乗ってプレイヤーたちを狩りすぎた。
ペンタくんバッジが面白いようにざくざくと溜まっていく様子に気を取られていた。
ベテランならこんなミスは犯さなかったのだろうが、あいにく俺はこのゲームに熟練していなかった。
勘のいいプレイヤーたちが、何かがおかしいと気づいた。
どこか別の場所から攻撃を受けていると。
「あっ、いたぞ。あいつだ!」
「ライフルを持ってるぞ。狙撃手だ!」
「あいつから殺れ!」
マズい。
俺は慌てて立ち上がる。
冷や汗が頬を伝う。
一部のプレイヤーたちがぞろぞろと山肌を登り始める。
もちろん俺を仕留めるつもりだ。
仮にあの中の誰か一人と一騎打ちをしたところで、俺は勝てない。
狙撃手は脆い。接近されたら終わりだ。
怒り狂ったプレイヤーたちがぞろぞろと向かってくる。
ずいぶんと数は減っているが、それでもまだ多い。
手心を加えてくれるつもりはないようだ。
俺は後退しながら、先頭のプレイヤーに向かってライフルをぶっ放した。
ガキン!と音がしてバリアのようなスキルで銃弾が防がれた。
な、なるほど・・・。
射撃が来ることがわかっていれば、いかな攻撃力の高いライフルといえど防御スキルで防がれるのか。
俺は更に退きながら、もう一発発射。
だがやはり銃弾はバリアを砕くに留まった。
プレイヤーまで届かない。
あいつか。
神官職らしき男プレイヤーがいる。
あのバリア野郎を倒さない限り、俺に勝機はない。
しかし倒す手段がない。
俺はどんどん後退する。
だがもちろん後退より前進のほうが早いので、群れをなしたプレイヤーたちに徐々に距離を詰められる。
スナイパーライフルの射程の優位はもうない。
俺は背の低い岩陰の後ろに回り、上半身だけを出して射撃を続ける。
防がれる。
届かない。
魔術師らしきプレイヤーたちがスキルの詠唱を始める。
打開の手はない。
・・・詰みか。
「フリージングエッジ」
横合いから氷の斬撃が飛来して、神官の男が消滅した。
「なにい?」
「誰だ!?」
「援軍か・・・!?」
俺を狙っていたプレイヤーたちが、驚愕の表情で振り返る。
栗色の髪の魔術師が、片方の腰に手を当てて颯爽と立っていた。
魔術師が笑う。
獲物を前にした猫科の笑み。
「手を貸しましょうか、センパイ?」




