27.狙撃手とイベントスタート
イベント『ペンタくんバッジを集めよう!』は週末の2日かけて開催される。
もちろん48時間ぶっ続けじゃない。
きちんとプレイヤーの睡眠時間に配慮してくれるいい運営だ。
俺も三十路になってから徹夜は無理になった。
若い頃と違って体力がもたない。
だからこういう配慮は大変有り難い。
ともかく俺はヘッドギアを装着してログインする。
いつもの”Welcome to Earth World Online”という文字が視界を埋め尽くす。
一瞬の暗転の後、俺は見知らぬ草原エリアに降り立っていた。
うーむ、来たことのない場所だ。
そうなのだ。
このイベント期間中、プレイヤーはログインのたびにランダムなエリアに転送される。
誰がどこにいるかわからないのだ。
もちろんフレンド同士は連絡を取り合って合流すればいいし、あんまりいないと思うがイベントに参加したくない人は、真っ直ぐ街に戻ればいい。
俺はフレンド欄を開く。
唯一のフレンドであるリコッチのステータスはオンライン。
少し考えるが、連絡は取らないことにする。
俺はPKプレイヤーだし、リコッチはPKKギルドに所属している。
お互い手抜きはなしだ。
今回の俺の目標は、リコッチのランキングを超えることだ。
リコッチがどれくらいデキるプレイヤーなのか、正直あまり知らない。
とはいえ俺より遥かにベテランだし、攻略サイトも読み込んでいることから、本来なら俺など相手にもならないだろう。
だから、目標。
仮にリコッチを超えることができたら、俺はいっぱしの狙撃手として自信を持っていいといえる。
俺は頭を低くして、草に紛れるように移動を開始する。
他プレイヤーに発見されたくないし、うっかり強力なモンスターに遭遇したら目も当てられない。
だがモンスターにしろプレイヤーにしろ、なるべく数を狩りたい。
バッジを集めた数によってランキングが決まるからな。
そして数を狩るとすれば、こんな平地の草原をうろうろするのは下策だ。
ここは狙撃手にとって有利な地形ではない。
・・・ん。
右から草をかき分ける音。
こちらに接近している。
俺は静かに伏せて、スナイパーライフルをそちらに向ける。
背の高い草のせいで射線が通っていないが、間違いなく何かが近づいてくる。
俺はトリガーに指をかける。
草と草の間から顔を覗かせたのは少女。プレイヤーだ。
何かを探すように、落ち着かない様子できょろきょろしている。
俺は有無を言わさずトリガーを引く。
少女は何が起きたのかもわからなかっただろう、電子の光となって消滅した。
すぐさま俺はアイテム欄を確認する。
ペンタくんバッジ:1個
うん。
いきなりプレイヤーと遭遇するとは思わなかったが、平静を保って行動できた。
そしてバッジも入手できた。
開始早々あの少女には気の毒だが、別にアイテムを落としてしまうわけでもなし、さして問題はないだろう。
いいスタートだ。
とはいえいつまでもこんな場所に居座る気はない。
一刻も早く、狙撃に有利な高所を陣取るのだ。
******
草原エリアで通りすがりのモンスターを狩り、プレイヤーをどうにかやり過ごし、俺は山岳エリアに到着した。
熊山もそうだったが、やはり山というのは狙撃手にとって有利な地形だ。
ここも熊山と似ている。
山肌はごつごつとしており、大きな岩があちこちに点在している。
加えて言うならモンスターの数も、熊山より多い。
ここのモンスターはヤギだ。
あちこちをうろうろしている。
だが可愛いもんじゃない。
でかい角が生えており、そいつで突進してくる。
デカ熊より接近力があり、かつ攻撃力も高い危険なモンスターだ。
そしてこのエリアは、熊山よりも危険だ。
何故かって?
飛翔モンスターもいるからだよ。
ハゲワシが空を舞っている。
奴らはプレイヤーがヤギと戦っていると、急降下して襲いかかってくるのだ。
大変危ない。
それはともかく、モンスターの数がそれなりに多い。
これが重要だ。
ペンタくんバッジをほしがるプレイヤーたちは、自然とモンスターの数が多いエリアに集まる。
つまり俺のようなPKプレイヤーにとっては絶好の狩場というわけだ。
俺は最初、生産職が赴きそうな初心者エリアを狩場にしようと考えた。
だがそんなエリアにはPKプレイヤー、特に生産職を専門にPKするような外道どもがこぞって群がるに違いない。
言い方を変えると、そこはPKKギルドにとっても絶好の狩場ということだ。
群がってきた外道どもを大義名分の元、遠慮なく蹂躙できるまたとない機会だからな。
そんなイカれた戦場に近づきたくはない。
そういうわけで戦闘職の一般プレイヤーと、多少マシな外道どもが集まるであろうこの山岳エリアに目星をつけた。
うむ、どうやら正解だったようだ。
普段よりも多くのプレイヤーたちがぞろぞろと群れをなし、ヤギやハゲワシと戦闘を繰り広げている。
そしてそんなプレイヤーたちに、PKプレイヤーたちが武器を振りかざして襲いかかっていく。
だがこんな決して安全とはいえないエリアにまで足を伸ばすプレイヤーたちだ。
PKへの対処も慣れているのだろう、一方的な展開にはならず反撃に転じている。
普段はヤギの鳴き声がのんびりと響く山岳地帯は、プレイヤー、モンスター、そしてPKプレイヤーたちが入り乱れる修羅場と化していた。
俺はそんな主戦場を、遠く離れた岩陰から見つめている。
これだけ混乱した場だ、多少狙撃したところで誰も気づくまい。
狙うは漁夫の利だ。
卑怯なのではない。効率的なのだ。
では狙撃手ケンタロ。
これより行動を開始する。




