26.狙撃手、新しいライフルの試し打ちをする
今週末にはイベントが始まる。
それを踏まえて、俺は今日、熊山に来ていた。
新しいスナイパーライフルの試射が目的だ。
俺は防具は布の服だし、装飾品も持っていないし、アイテムもろくなものがない。
ほぼこのライフルだけを頼りに戦わなくてはならない。
性能を正しく把握しておく必要がある。
岩陰に腹ばいになり、ライフルを地面にセットする。
まずは当座の目標であった、デカ熊を一撃で倒せるようになったかどうか。
遠目に見えるデカ熊は、呑気にのしのしと練り歩いている。
スコープを覗いて照準を合わせる。
トリガーを引く。
ターン。
ヘッドショットが決まり、デカ熊はのけぞって消滅した。
おお、やったぞ!
これまで2発かかっていたデカ熊を、1発で仕留められるようになった。
新しいライフルは間違いなく威力が向上している。
これならタフネスの高いタンク系のプレイヤーを相手にしても、ヘッドショットを決める限りは一撃で倒せるだろう。
まあ何かのスキルでガードされたら知らんが。
鍛冶屋のカジには感謝してもし足りない。
さて、次は命中だ。
俺は次のデカ熊に照準を合わせる。
しかしほんの少しだけ、その照準をズラす。
そして撃つ。
それを何度か繰り返す。
うん。
悪くない。
狙いがほんの少しズレても、自動で補正してヘッドショットを決めてくれる。
ゲームならではのシステムだな。
とはいえ大きくズレると補正されても当たらないので、過信は禁物だ。
俺の狙撃の腕がものを言うだろう。
次に射程だ。
これが一番重要だ。
威力や補正も大事だが、結局のところ、狙撃の強みとは射程なのだ。
誰も反撃できない、それどころか目視さえ困難なロングレンジから、一方的に攻撃する。
それこそが狙撃手の最大の武器といえる。
俺は遠くを見据える。
肉眼ではもはや豆粒にしか見えないデカ熊が、ゆっくりと移動している。
小さすぎて歩く動作すら認識できないほどだ。
そして以前までなら、ライフルの性能的に攻撃が届かなかった距離だ。
スコープを覗く。
拡大されたデカ熊の頭が見える。
照準を合わせる。
トリガーを引く。
ターン。
スコープの先で、デカ熊が電子の光となって消滅するのが見えた。
よし。射程も申し分ない。
万に一つも、この超遠距離から反撃できるプレイヤーなどいるまい。
計測したわけじゃないし、ゲームの世界だから距離感も正しいとはいえないが、今の俺はおおよそ1kmに迫るロングレンジから狙撃が可能だと思う。
リアルで1kmといえば、軍で正式に狙撃の訓練を受けた軍人がこなすような距離だ。
そう考えると凄まじい射程だ。
これもゲームならではといえる。
とはいえ、攻撃が届くのと攻撃が命中するかどうかは別の話だ。
はっきり言って1km先で戦闘をしているプレイヤーに、狙撃を命中させる自信は全くない。
最大射程でトリガーを引くならば、確実に当たる瞬間を見極めるべきだろう。
ふむ。
今後の方向性が定まってきた。
イベントの成果にもよるが、よほど威力不足や命中力不足を痛感しない限り、射程を伸ばす方向で行くのがよさそうだ。
近づかれたらどうするのかって?
護身のことも考えたほうがいいんじゃないかって?
必要ない。
豆腐よりも柔らかい狙撃手が少々護身を考えたところで焼け石に水だ。
それよりも、狙撃手にとって最も大切なことは位置取りだ。
発見されない、あるいは発見されてもすぐに撤退できるポジショニングで、初めから敵の攻撃を受けないようにするのだ。
それでも接近されたら、もう死ぬしかない。
そういうプレイスタイルだ。
そのための射程だ。
可能な限り遠距離に陣取るために、ひたすら射程を伸ばすのだ。
相手に気づかれることなく、一方的に蹂躙するのだ。
スキルポイントを割り振れば、それだけ順当に強くなるし。
地形や位置取り、狙撃のタイミングなどを試行錯誤すれば強くなるし。
そして強くなっていく実感があるので楽しいし。
何でこのゲーム、スナイパーライフルが不人気なのか理解できん。
こんな楽しい武器は他にないぞ。
俺はすっかり狙撃にのめり込んでいた。




