表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/166

25.理子ちゃんとVRゲーム

私は栗原理子くりはら りこ

会社では理子ちゃんと呼ばれることが多い。


「んんっ・・・」


会社のデスクで伸びをする。

時間は11時半を回ったところ。

もう少しでお昼休みだ。


今日は健太郎センパイがお昼ご飯を奢ってくれる。

楽しみだ。

もちろんご飯も楽しみなんだけど、センパイと一緒にお昼っていうのが楽しみ。


そうなのだ。

私はセンパイに好意を持っている。

だってお昼を一緒できるのが嬉しいし、スマホのSNSでセンパイからメッセージが来ると嬉しいし、ゲーム内でもメッセージが来ると嬉しい。

これで好意を持っていないというのはいくら何でも無理がある。


何がいいって、センパイが私に興味なさそうなのがいい。




私は幸いというか、そこそこ可愛い顔立ちに生まれた。

両親に感謝だ。

女の子っていうのはほんとに顔で人生が変わる。

いや性別関係なく人生変わるんだろうけど。


ともかくそこそこな顔のおかげでリア充っぽい学生生活を送れたけれど、私は何を思ったのか結構なヘビーゲーマーになってしまった。

だってゲーム楽しいんだもん!

両親も理解があって、学業に影響がなければゲームを制限したりはしなかった。

そして無難に大学を卒業して、無難に就職できた。


会社ではそれなりに愛想よく振る舞っているおかげで同僚や先輩社員、特に年配のおじさんたち(上司含む)に可愛がってもらえている。

ただ一部の女性社員には、媚を売っていると思われて少し敬遠されている。

これについてはどうしようもない。

女性グループっていうのは学校だろうが会社だろうが、他のどのコミュニティだろうがそうなる。

愛想よく振る舞うことを媚を売っていると言われるなら、そういうものだと思うしかない。




ゲームではもう少し面倒だ。


私は友達がほしい。

友達と一緒に友情を深めながらゲームを楽しみたいのだ。


ただ仲良くなると当然、距離が詰まる。

多くの男性プレイヤーは、それを好意だと勘違いする。

私が男性プレイヤーのことを恋愛的に好いていると思われてしまう。


違うんだ。

友達だから仲良くしたいだけなんだ。

恋愛に発展させたいわけじゃないんだ。


でも男性プレイヤーは恋愛に発展させようとする。

そして告白してくる。

私が困った末に断ると、友情が壊れて疎遠になる。

勘違いさせやがって、と責めてくる人までいる。


私はたぶん、距離の詰め方が下手なのだろう。

もっと上手くできる子もいる。

でも私はできない。


そして仲良くなるプレイヤーの人口比は、圧倒的に男性のほうが多い。

だってゲーマーって男性のほうが人口が多いんだもん!

こればっかりは仕方ない。

そして仲良くなって勘違いされて、疎遠になって・・・の繰り返し。


じゃあどうすればいいの?

ずーっとソロプレイしてればいいの?

でもソロはつまんないよ。




その点、ケンタロセンパイはいい。

私を恋愛対象として見てなさそうなのが素晴らしい。

だから私は会社でも遠慮なく話しかけられるし、VRゲームにも誘った。


そして実際、私はケンタロセンパイに対して遠慮なく友情を感じられる。

気兼ねしないで遊びに誘えるし、メッセージを送るときに変な勘違いされたらどうしようっていちいちビクビクする必要もない。

とても気が楽だ。一切ストレスを感じない。

ケンタロセンパイ最高!

これからも一緒に遊んでね!


・・・って思ってたのに、私の気持ちはいつの間にか、友情から好意に変わってしまった。

いや友情もあるんだけど。

でも私はきっと、もうセンパイのことが好きだ。

私に興味なさそうだから好きになったって、なんかおかしいっていうか、矛盾してるっていうか。

とにかくおかしいと思うんだけど、好きになっちゃったものは仕方ない。


でもケンタロセンパイ、別に私のこと恋愛的に好きじゃないよね?

面倒くさがりのセンパイが何だかんだ私の絡みに付き合ってくれるから、嫌われてるってことはないと思うんだけど。

好意を持ってくれてるかどうかはわからない。


うーん・・・。

でも友情を感じながら遊べる今の距離感が心地良いから、しばらくこのままでいいかもしれない。

残念ながらセンパイは普段はソロプレイだけど、今度イベントもあるし、絡む機会もあるだろう。


もちろん遭遇したら手を抜かないでキルするつもりだ。

手加減したらセンパイ怒りそうだし、私もそういうのは嫌だ。

逆にセンパイに手を抜かれても悲しい。

ゲームは遊びだからこそ、本気でやり合いたいのだ。


「あっ」


そんなことを考えていたらお昼休みだった。

私は同僚からのお誘いを軽く断って、小走りに会社を出る。


今日はいい天気だ。

見慣れたスーツ姿の背中があった。


「せーんぱいっ」


私が弾んだ声をかけるとセンパイが振り返る。

いつも通りの面倒くさそうな目つき。

でもそれがいい。


「奢りといってもあんまり高いのはやめろよ」

「あははー。じゃー今日はですねえ・・・」




余談だけど。

私のスマホケースは3段ポケットで、一番奥には小さな切り抜きが折りたたんで入っている。

14年前の古い新聞の切り抜きだ。


田嶋健太郎選手(20)、オリンピックライフル射撃で銅メダルという小さな記事。

記事の小ささが注目度の低さをよく表している。


この会社の誰も知らないだろう。

私だけのちょっとした秘密だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
人をここまでぐちゃぐちゃに盾で殴ってやりたいと思った事はない初めてだよ ケンタロに初めて奪われちゃった!!
[良い点] 何だこの健気な可愛い子は幸せになりやがれコノヤローw そしてケンタロは多方面からキルされれば良いと思います。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ