21.狙撃手、新しいライフルを欲する
始まりの街。
フレンドジャンプでリコッチに追いついた俺は、並んで大通りを歩く。
何度見ても建物の作り込みがすごい。
中世風のファンタジー世界かくあるべしといった街並みだ。
ふと、通りすがりの他プレイヤーたちがこっちをチラチラ見ていることに気がついた。
何やら囁き声も聞こえる。
「おい、あれリコッチじゃないか?」
「ああ、ジャスティスウィングの・・・」
「すげえ可愛いなあ」
「お近づきになりたい・・・」
「隣の目つきが悪いおっさんは誰だ?」
「あんなおっさんがリコッチと一緒に・・・許せん」
「死すべし」
・・・。
・・・。
「なあ、リコッチ」
「何ですか、センパイ?」
顔を寄せて小声で話す。
「もしかしてリコッチって有名人なのか?」
「んー・・・。うちのギルドがそこそこ有名だからじゃ?」
「ジャスティスウィングっていうのか?」
「そうですよー」
俺が微妙な顔をしたのに気づいたのか、リコッチがくすっと笑う。
「センパイ! 勘違いしないでくださいね。正義執行とか言ってますけど、うちのギルドはみんなそういう遊び方で楽しんでるだけですから」
「そうなのか?」
「ですよー。本気で自分たちは正義、悪人を誅伐すべし!なんて思い込んでる偏った人はいませんよ」
「そ、そうか・・・。まあそういうことなら」
何らかのヤバい集団かと思っていた。
小さな子供が戦隊ごっことかで遊ぶ延長のようなものだろう。
そう考えると微笑ましいな。
「・・・センパイ、何か生暖かい目で私のこと見てません?」
「気のせいだ」
「ほんとですかー? あっ、ここですよ。着きました」
裏通りの奥まった店だった。
『カジの鍛冶屋』と看板が出ている。
カランカランとドアベルを鳴らしながら入店する。
「こんにちはー。カジさんいるー?」
リコッチが声をかけると、奥からガタイのいい兄ちゃんが出てきた。
うお、筋肉すげえな。浅黒いし。
「おう、いらっしゃい。おっ、リコッチちゃんじゃねえか」
「カジさん、ども! 相変わらずムキムキだねえ」
「はっはっは、毎日ジムに通ってるからなあ」
ポージングをするカジ。
ボディビルダー選手権とかに出ていても不思議じゃない。
「今日はどうした? 新しい杖がほしいのか?」
「んーん。お客さんを連れてきたよ!」
「なにい?」
じろっと俺を見るカジさん。
筋肉がすごいし上背も俺よりあるので威圧感がすごい。
「ど、どうも・・・」
俺はやや気圧されながらも挨拶をする。
カジはじろじろと俺を観察していたが、不意にニカッと笑った。
「スナイパーライフルとは珍しい。あんた、通だな。名前は?」
「ケンタロだ」
「俺はカジだ。よろしくな」
がしっと握手を交わす。
手がでけえよ。
「よし、ケンタロ。注文は?」
「いい加減、初期装備を脱したいと思って。これより強いスナイパーライフルがほしいんだ」
「そりゃあ何作っても初期装備よりは強くなるけどなあ」
腕を組むカジ。
「リコッチちゃん。装備を見たところ、ケンタロは初心者なのかい?」
「まーそんなようなもんです!」
「なるほどなあ。生産職の端くれとして、初心者には親切にしないとな」
ニカッと笑うカジ。
どうやらいい人らしい。
「でも知ってると思うが、俺はスナイパーライフル作成にはそんなにスキルポイントを振ってないぜ」
「あははー。初期装備より強ければだいじょぶですよー」
「そうかそうか、はっはっは」
何か2人で納得しているが、まあ俺も異論はない。
そもそも俺一人だと鍛冶屋のツテすらなかったしな。
「俺が作れる一番強いライフルだと・・・そうさなあ。材料はこんな感じだな」
カジは空中のパネルを操作して、材料を見せてくれる。
何々、銀のインゴッドと鉄のインゴッド、それに研磨剤がそれぞれ数個・・・。
「インゴッドは俺が鍛冶スキルで作れるから、持ってきてほしいのは銀鉱石と鉄鉱石だな。研磨剤とかもいるが、そのへんは俺がNPCショップで仕入れといてやる」
「材料さえあればすぐに作れるのか?」
「ああ。リアルと違って鍛冶スキルを発動すれば一瞬だぜ」
逞しい二の腕を盛り上げるカジ。
暑苦しいが、確かに頼りにはなりそうだ。
「報酬はいくらあればいい?」
「そうさなあ。これくらいでどうだ」
提示された金額は、恐らく適正価格より少し割り引いてくれている。
初心者には親切にという言葉は本当らしい。
「わかった。なるべく早く材料を持ってくるから頼めるか?」
「おう、任せとけ」
「私も今度また依頼させてねー」
「はっはっは。いつでも来な」
ニカッと笑うカジに別れを告げて、店から出る。
「どうですか? カジさんいい人でしょー」
「そうだな。ちょっと暑苦しいが」
「あははー。あれがあの人の持ち味ですよー」
けらけらと笑うリコッチ。
そしてふと真面目な顔になる。
「センパイ、採掘スキル持ってるんですか?」
「まさか」
「ですよねえ。じゃー、どうやって鉱石を集めるんですか?」
「・・・今リコッチが想像している通りの方法だと思うから、聞かないほうがいいぞ」
むーと唸るリコッチ。
すぐにぱっと顔を上げて、笑顔になる。
「じゃー聞かないことにします! 知らなければ何もわかりませんからねっ」
「そうしてくれ」
「はいっ」
リコッチもいいヤツだ。本当に。
俺は後輩に恵まれた。
「じゃーセンパイっ。私ギルドの集まりがあるんで、このへんでー」
「集まりって何をするんだ?」
「いやですねえ、センパイ。PKKギルドがすることって言ったら一つですよー」
「あー。気をつけてな」
「はあーい」
リコッチは手をフリフリ去っていった。
さて、俺も新しいライフルのためにがんばるとするか。




