2.狙撃を開始する
俺、田嶋健太郎・・・じゃなかった、ケンタロは始まりの街に降り立った。
・・・すごいな。
まるで中世ファンタジーの町並みそのままの光景が目の前にある。
地面は石畳だし、建物は石造りだ。
そのあたりを馬車が走り、露店では野菜や果物が売られ、遠くには大きな城がそびえている。
そしてたくさんの人。
いろいろな服装と、様々な武器防具を纏った人。
これ全部プレイヤーか。
人気のVRゲームって触れ込みは嘘じゃなかったんだな。
さて、俺は初期装備である布の服だ。
そして肩にはスナイパーライフルを背負っている。
といっても実在するような本格的でリアルなものじゃあない。
あくまでライフルっぽい長銃だ。
さて・・・。
まずはどうするんだ?
よく考えたら俺はこのゲームのことをろくに知らない。
面倒臭がって何も調べてないからな。
まあいいか。
何はともあれスナイパーライフルの性能を確かめないと話にならないだろう。
こいつが俺の相棒なわけだしな。
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そういうわけで俺は一直線に街の外にやってきた。
草原だ。
見渡す限りの原っぱ。
初心者らしきプレイヤーもちらほら見える。
ふむ。
間違って誤射でもしようものなら大問題になりかねん。
このゲームはPKありの、つまりプレイヤーがプレイヤーを殺せるゲームだからな。
後々はPKに手を出す可能性もあるが、スキルすら何もない初心者がPKに手を染めるのは自分の首を絞めるだけだ。
そういうわけで、もう少し遠くに足を伸ばそう。
少し遠くに来た。
雑木林のようなフィールドだ。
近くには誰もいない。
ここならいいだろう。
遮蔽物は多いが、好きに狙撃の確認ができそうだ。
都合よく、遠くに犬のようなモンスターを見つけた。
いや狼かもしれん。どっちでもいいが。
あれで試し打ちと行くか。
俺は片膝を付き、両手でライフルを構える。
伏せてじっくり照準を合わせてもいいんだが、今はまあ射撃の性能確認だしな。
スコープを覗き込んで、犬狼に照準を合わせて・・・。
トリガーを引く。
ターンと思いの外、軽い音を響かせ、狙撃は犬狼の胴体に命中した。
おお・・・。
HPゲージが7割ほど減ったぞ。
初期装備なのにすごい威力だ。さすがライフル。
怒った犬狼がこっちに猛突進してくるが、慌てることはない。まだ距離はある。
もう一発でジエンドだ。
俺はトリガーを引き。
あれ?
トリガーを引き・・・。
トリガーを・・・。
トリガーが反応しないあああ!?
”クールタイム中はその行動はできません”
”クールタイム中はその行動はできません”
”クールタイム中はその行動はできません”
は? え?
単なる攻撃にクールタイムがあるのか? ライフルは!?
高い威力の代償ってこと?
ちょ、待て、聞いてない。
犬狼が目の前まで迫ってきた。
その大きな口を開き、俺に向かって牙を・・・。
ターン!
ギリギリで俺の狙撃が犬狼の胴体を貫いた。
パアッと電子の光になって犬狼が消滅する。
はあ、はあ・・・。
危なかった。
スナイパーライフルは連射できないのか。
そうか、なるほど・・・。
つまりは初撃に全てを賭ける武器ってことだ。
外したら終わり。
モンスター相手なら2射目の機会もあるかもしれんが、プレイヤー相手だとそう甘くはないだろう。
最初の一撃できちんと仕留めることを念頭に置かないといけない。
俺はその後しばらく、名前のわからない犬狼を倒し続けた。
何というか・・・。
これ結構楽しいかもしれん。