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18.狙撃手とリコッチ

「・・・センパイ!?」


魔術師の女はぽかんとした顔で俺を見つめている。

俺をそんな呼び方するのは一人しかいない。


「理子ちゃん・・・?」

「あっ、やっぱり健太郎センパイじゃないですかあ! こんなところで何してるんですか!?」

「ゲームだが」

「あっ、それはそうですよねえ。あははー」


ころころと笑う理子ちゃん。

そして笑ったことで身体の緊張が解けたようで、床にぺたんと座り込む。


「はふー。疲れたあ・・・」

「追い込まれてたもんな」

「そうなんです。不意打ちされちゃって。あっセンパイ、危ないところをどうもありがとうございました!」


ぺこっと頭を下げる理子ちゃん。

こう見えて礼儀正しい子なのだ。


「ぱっと見、理子ちゃんだと気づかなかったよ。髪の色がリアルより明るいし、それに」


いかにもファンタジー世界らしく、ふわふわした水色のローブスカートを身に着けている。

髪と服装だけでガラッと印象が変わるもんだな。


「えへへー。カワイイでしょ? ファッションガチャで当たったんですよー」


スカートの裾を摘んで見せる理子ちゃん。

なるほど、VRゲームでもやっぱりガチャとかあるんだな。

まあ運営もボランティアじゃあるまいし、集金システムは必要だろう。

盛大に金かかってそうなゲームだもんな。


「センパイはリアルまんまですねー。もしかしてキャラクリのときデフォルトから弄ってないんですか?」

「面倒くさかったんだ」

「あははー。センパイらしー」


笑う理子ちゃん。

ほんと表情が豊かで見ていて飽きないな。


「ところで理子ちゃん」

「リコッチです」

「あん?」

「この世界ではリコッチって名前なんで、そう呼んでください!」

「そ、そうか」


理子ちゃんもまんまじゃねえか、と思ったが突っ込まないでおく。

俺よりはマシだ。


「センパイは何て名前にしたんですか?」

「ケンタロだ」

「へ?」

「ケンタロだ」


理子ちゃんは目をぱちぱちさせて、それからけらけらと可笑しそうに笑った。


「ほんとまんまですねえ。もう面倒くさがりなんだからー」

「わかりやすくていいだろ」

「まーそうですけどお」


さっきまでピンチだったのに、何やら理子ちゃんは機嫌良さそうだ。

理由はわからんがいいことだ。


「理子ちゃん・・・リコッチは魔術師なんだな」

「そうですよお。氷系のスキルをばんばん上げてるんですー」

「ほほお」


やっぱり火系とか風系とかもあるんだろうな。


「センパイは・・・」


理子ちゃんが俺の持っているスナイパーライフルに目を留める。


「もしかして狙撃手ですか?」

「ああ」

「ええー! ズルいですよう」

「何がだ」


理子ちゃんは唇を尖らせる。


「だって・・・センパイ、オリンピックライフル射撃の銅メダリストじゃないですか」

「14年も前の話だ」


まだ若い頃、そんなこともあった。

俺は鈍くさかったが、時間をかけて集中する競技に限っては優秀だったのだ。


とはいえ別段、世間に注目されたわけでもない。

射撃種目なんて誰も注目していないからな。

オリンピックのチケットだって、射撃は5本の指に入るほど取りやすい。

不人気で誰も見に来ないからだ。


それでも金や銀メダルなら、まだしも注目されたかもしれんが、銅メダル。

当時ですら誰も話題にしなかったし、俺も自分のことながら忘れかけていたくらいだ。

まあつまりは、あまり話に出さないでほしい。


「射撃のメダリストが狙撃手なんて反則じゃないですかあ」

「それ、誰にも言うなよ?」

「何でですか?」

「何でもだ」

「んー・・・わかりました」


ちょっと不満そうだったが、頷いてくれた。

素直でいい子だ。


「それよりセンパイ、すごいですねえ。まだ初めて間もないのに、もうPKに手を染めちゃってるんですね」

「理子ちゃんもだろ」

「リコッチです」

「リコッチもだろ」

「まー私はセンパイよりはベテランなので」


確かに理子ちゃんはそこそこヘビーゲーマーだしな。

PKに躊躇するようなタイプではなさそうだ。


「しかし、そうするとお互い苦労するなあ」

「へ? 苦労?」

「ああ。街の兵士には攻撃されるし、NPCショップから買い物もできないだろ?」

「んー・・・?」


理子ちゃんは少し眉根を寄せて・・・それから、ぽんと手を打った。


「センパイ、やっぱり少しは攻略サイト見たほうがいいですよー」

「何でだ?」

「だってセンパイ、一般プレイヤーもキルしてるでしょ?」

「よくわかるな」

「わかりますよー」


理子ちゃんが説明してくれる。

どうやらこういうことらしい。


プレイヤーには3タイプいる。



1.一般プレイヤー

2.PKプレイヤー

3.PKプレイヤーだけを狩るPKKプレイヤー



一般プレイヤーは、NPCからクエストを受けたりモンスターを狩ったりと、いわゆる平和にプレイしている層で、人口比では最も多い。

次にPKプレイヤーは、一般・PK問わずプレイヤーを狩る層。俺ことケンタロもこれだ。


そして最後にPKKプレイヤーだが、これはPKプレイヤーのみを狩る層らしい。理子ちゃんはこのタイプだ。

理子ちゃんいわく、正義を執行しているとのことだが、なんか危ない響きに聞こえるのは俺だけだろうか?


「それで重要なのは、PKプレイヤーをキルしても、街のNPCからは嫌われないってことなんですよー」

「・・・そうなのか?」

「そうなんです」


な、何と。そうだったのか・・・。

俺がNPCショップでアイテムを売ってもらえなかったり、兵士にバトルアックスでミンチにされているのは、PKに手を染めていない一般プレイヤーをキルしているからのようだ。

PKプレイヤーだけを狙えば、そんなことにはならないのか。

悪人を殺しても街の人からは嫌われない、むしろ喜ばれるってことか。


「だから街に入るのに不自由してるのは、PKプレイヤーたちだけですねえ。ケンタロセンパイみたいな」

「ぐぬぬ・・・」


知らなかったうえに、理子ちゃんから教えてもらわなければ今後も知り得なかった情報だろう。

攻略サイト恐るべし。


「ね、センパイ!」


理子ちゃんがぐぐっと身を乗り出してくる。

ちょっとだけ胸の谷間が見えそうだったので、さり気なく目を逸らす。


「センパイも私達と一緒に、正義を執行しませんか?」

「危ない言い方はやめろ」

「えー、危なくないですよう」


何でも理子ちゃんはPKKギルドに所属しており、モンスターを倒してスキルポイントや金を稼ぐ傍ら、PKプレイヤーも狩っているらしい。

もちろんキルすることもあればされることもあるので、そこはお互い様のようだ。


「とすると、さっき一緒に戦っていた剣士の男は」

「同じギルドのフレンドですよー。今度紹介します」

「なるほどなあ」


ギルドに入れば、一気にフレンドが増えて人付き合いが多くなりそうだ。

・・・うーむ、面倒くせえ。


「だが狙撃手、特にライフルはパーティプレイには向かないんじゃあないか?」

「まーそうですねえ。センパイも弓ならよかったんですけど」

「俺はソロプレイが性に合っているし、お誘いは嬉しいが今回はやめとくよ」

「そうですかー・・・」


理子ちゃんはちょっと残念そうだが、無理強いはしてこなかった。

面倒くさがりの俺の性格をわかっているんだろう。


「でも、じゃー、代わりに今度一緒に遊びましょ!」

「一緒にっつってもなあ」

「遊びましょ!」

「あー、わかったわかった。今度な」

「やったあー」


嬉しそうに笑う理子ちゃん。

まあいいか。

いろいろと教えてくれるし、あまり無碍にするのも悪い。


「でもまー、どっちにしても一般プレイヤーをキルするのはやめたほうがいいですよ」

「んー・・・。考えとくよ」


俺は別に正義を執行したいわけじゃあない。

PKというプレイスタイルを楽しみたいのだ。

街に入るたびに金を取られるのは痛いが、まあ俺はNPCショップを利用しなくてもやっていけるし、どうにかなるだろう。


「センパイがPKしてる現場に出くわしたら・・・私、やっちゃいますよ?」


理子ちゃんが片目を瞑って、指でバーンという仕草をする。

ほほお、上等だ。

俺はにやりと笑う。


「新米狙撃手に手痛い反撃を食らっても泣くなよ?」

「あー、言いましたねえ。私容赦しませんからっ」

「吠え面をかく練習をしておくことだな」


俺たちはむむっと顔を寄せ合い・・・そして笑い合う。

ああ。楽しいな、こういうの。

すごく楽しい。


ふとピロン!と音がなった。


”リコッチからフレンド申請が届きました”


顔を上げると、理子ちゃんがにへーっと笑った。

俺は”受理”を選択する。


俺のフレンド欄が、0人から1人に増えた。


「わあい。センパイありがとう!」


嬉しそうな理子ちゃん。

俺としてもフレンドは大歓迎だ。

また今度、昼飯を奢ってやろう。


そんなことを考えていると、ドタドタと足音が響いた。

5人ほどの男が、室内になだれ込んでくる。


「見つけたぞ! まだ同じ場所でたむろってるとは呑気なもんだなあ!」

「あ」

「あ」


俺と理子ちゃんは顔を見合わせた。

ここは別に安全地帯じゃなかった。


あっ、さっき間抜け面で退場した弓使いもいやがる!


「野郎ども、やっちまえ!」

「うおおおおお!」

「ひいいい、センパイ助けてえ!」

「さらばだリコッチ、お前の犠牲は忘れない」

「ズルいですよせんぱああい!」




俺と理子ちゃんはボロ雑巾のように死んだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 自分のストレス解消のために、なんの罪もない他プレイヤーをキルする… ただのクズだなぁ。 自分がキルされてムカつく気持ちが相手にもあるとは思わないんだろうか… [一言] 作品は面白いけど…
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