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17.狙撃手、戦闘に遭遇する

鉱山でガツンガツンと採掘しながら俺は反省した。

お姉さんNPCを殺したことをじゃあない。


殺してアイテムをガメた後、怒り狂った兵士がやってくるまで少しのタイムラグがあった。

つまりもたもたせず、迅速に逃げれば成功していたかもしれん。

そこはシステムで許容されている遊び方なのだ。


しかし。

門番のアゴヒゲとやりあったとき、ヤツは100メートル3秒を切る勢いで猛然と疾走してきた。

街中にいる兵士も同じ性能だと仮定すると、よしんば店内から脱出してもすぐに追いつかれる。

いや100メートル10秒だとしても俺は逃げ切れないだろう。

狙撃手という職は鈍足だし、俺も鈍足なのだ。


あのPK少年が使っていたステルススキルなどがあればあるいは・・・。

そこまで考えて、俺はいったん諦めることにした。


俺の手持ちのスキルではどうにもならないし、そもそもNPCを殺してアイテムを巻き上げるのは、遊び方としては邪道な部類に入る。

もっと他のこともいろいろやりたいので、何か有効な方法を思いつくまでは保留にしておこう。




******




そんなこんなで今日は廃墟エリアにやってきた。

石造りの朽ちた建物が、あちこちにある。

昔は栄えた街だったのだろう。


俺はその廃墟の一等高い建物に侵入する。

5階あたりの部屋に入り、朽ちた窓から顔を出す。


うん、いい塩梅だ。

窓から銃身を覗かせるわけだから腹ばいにはなれないが、きちんとスナイパーライフルを窓枠にセットできるので安定はする。

俺は膝立ちになり、標的に目星をつける。


このエリアはゴブリンやオーガーがうろうろしている。

どうやら初~中級者用の狩場らしく、モンスター目当てのプレイヤーパーティもちらほら見える。


悪くない。

モンスターを狩りながら、たまにプレイヤーもキルする程度なら、俺が殺っているとはバレないだろう。


照準を据えてゴブリンを狙撃。

また照準を据えて、オーガーを狙撃。


そんなことをしばらく繰り返す。

スキルポイント稼ぎは大事なので、モンスターはなるべくたくさん狩りたい。

俺は黙々とモンスターを撃ち抜いていった。




・・・ん?

今何か、この建物内で物音がしたな。

上じゃない。階下だ。


俺は忍び足で、そっと部屋の物陰に身を隠す。

幸いこの部屋は朽ちた家具や調度品があるので、すぐにはバレないだろう。


耳を澄ませる。

金属と金属が打ち合う音、それから何かが爆ぜる音がする。

何者かが戦闘を行っているらしい。

戦闘音は階段を上がり、廊下を移動し、この部屋の前まで達した。


・・・どうする。


音からしてプレイヤー対モンスターじゃあない。

間違いなくプレイヤー同士の戦闘だ。

PKプレイヤー同士の戦いなのか、それともPKプレイヤーから逃れようとしている一般プレイヤーがいるのか・・・。

わからないが、俺がこの場から離脱するには窓から飛び降りるしかない。


しかしここは5階。

そして外にはモンスターがうようよ。

落下ダメージを受けた状態では、モンスターの群れから逃れることは叶うまい。

つまり窓から脱出したら死だ。


こんな状況は初めてなので、考えがまとまらない。

そして戦闘音の主たちは、室内へとなだれ込んできた。


2人と2人だ。


優勢な側は男2人。

一人は弓使いで、小刻みに矢を連射して相手の動きを制限している。

なるほど、通常攻撃にクールタイムがない射撃武器ってのは、ああまで連射できるのか。

もう一人は短剣2本で武装した少年で、素早い動きで相手を攻撃・・・ってあいつ、この前俺を秒殺したPK少年じゃねえか!


劣勢な側は男と女。

男は剣士のようで、剣で防戦しつつ後退しているが、短剣少年の動きについていけていない。HPゲージがもう残り少ない。

女は魔術師のようだが、弓使いの連射に阻害されてスキルを使えないでいる。


・・・。

・・・。


俺は決めた。

劣勢側に加勢することにした。

何故かって?

俺を殺したあのPK少年に恨みを晴らすために決まっているだろうが。

ここで会ったが百年目。

三十路の大人を舐めたガキにたっぷりと教育を施してやる。


弓使いは派手なことはしていない。

しつこく連射を繰り返して、相手の行動を阻害することを徹底している。

上手い。対人に慣れたプレイヤーの動きだ。


不意に短剣少年の姿が消える。ステルススキルを発動したのだ。

そして剣士の男の側面を取り、攻撃。

・・・なるほど、わかった。

攻撃する瞬間に姿を現すところを見ると、どうやらステルス状態のまま攻撃行動は行えないようだ。


剣士の男はもうダメだな。

あと一撃で死ぬだろう。

となれば・・・。


俺は物陰で膝立ちになり、スナイパーライフルを構える。

遠距離じゃないので外す心配はない。

照準を合わせ、確実に命中する瞬間を待つ。


短剣少年が再びステルス状態になる。

剣士の男の表情が歪む。

少年が姿を現し、剣士の男にトドメの一撃を見舞う。

剣士の男は光の粒子となって消えた。


ここだ。

少年が攻撃を行った瞬間、つまりは最も無防備になる瞬間。

俺はトリガーを引いた。


ターン!


室内に発射音が響き、短剣使いの少年が電子の光となって消滅した。

彼には何が起きたかわからなかっただろう。


「な、何だあ!?」


弓使いの男が狼狽する。

気持ちはわかる。意味不明だろう。

だがなあ、連射の手を止めていいのか?

スキルを使う機会を今か今かと待ち構えていた魔術師が、目の前にいるんだぞ。


「フリージングエッジ」


氷の斬撃が直撃して、弓使いは驚愕の表情のまま消滅した。


だがまだ終わっていない。

俺はすぐさまライフルの銃口を、魔術師の女へと向ける。


加勢した以上はキルするつもりはない。

PK少年に逆襲できて俺は満足している。

だが相手が攻撃の気配を見せるなら、殺られる前に殺るしかない。


魔術師の女はスキルを使う気なのか、俺に向かって手を突き出し・・・。


「・・・え?」


ぽかんとした表情をした。

肩で綺麗に切り揃えられた栗色の髪が、さらりと揺れる。


「・・・センパイ!?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 後輩ちゃんとの展開だ!後輩ちゃんとの展開だ! (大事なことなので2回言う) 来ましたよ!来ましたよ後輩ちゃんとの展開!密かに楽しみにしてましたよ! この後の展開がどうあろうと後輩ちゃんと…
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