17.狙撃手、戦闘に遭遇する
鉱山でガツンガツンと採掘しながら俺は反省した。
お姉さんNPCを殺したことをじゃあない。
殺してアイテムをガメた後、怒り狂った兵士がやってくるまで少しのタイムラグがあった。
つまりもたもたせず、迅速に逃げれば成功していたかもしれん。
そこはシステムで許容されている遊び方なのだ。
しかし。
門番のアゴヒゲとやりあったとき、ヤツは100メートル3秒を切る勢いで猛然と疾走してきた。
街中にいる兵士も同じ性能だと仮定すると、よしんば店内から脱出してもすぐに追いつかれる。
いや100メートル10秒だとしても俺は逃げ切れないだろう。
狙撃手という職は鈍足だし、俺も鈍足なのだ。
あのPK少年が使っていたステルススキルなどがあればあるいは・・・。
そこまで考えて、俺はいったん諦めることにした。
俺の手持ちのスキルではどうにもならないし、そもそもNPCを殺してアイテムを巻き上げるのは、遊び方としては邪道な部類に入る。
もっと他のこともいろいろやりたいので、何か有効な方法を思いつくまでは保留にしておこう。
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そんなこんなで今日は廃墟エリアにやってきた。
石造りの朽ちた建物が、あちこちにある。
昔は栄えた街だったのだろう。
俺はその廃墟の一等高い建物に侵入する。
5階あたりの部屋に入り、朽ちた窓から顔を出す。
うん、いい塩梅だ。
窓から銃身を覗かせるわけだから腹ばいにはなれないが、きちんとスナイパーライフルを窓枠にセットできるので安定はする。
俺は膝立ちになり、標的に目星をつける。
このエリアはゴブリンやオーガーがうろうろしている。
どうやら初~中級者用の狩場らしく、モンスター目当てのプレイヤーパーティもちらほら見える。
悪くない。
モンスターを狩りながら、たまにプレイヤーもキルする程度なら、俺が殺っているとはバレないだろう。
照準を据えてゴブリンを狙撃。
また照準を据えて、オーガーを狙撃。
そんなことをしばらく繰り返す。
スキルポイント稼ぎは大事なので、モンスターはなるべくたくさん狩りたい。
俺は黙々とモンスターを撃ち抜いていった。
・・・ん?
今何か、この建物内で物音がしたな。
上じゃない。階下だ。
俺は忍び足で、そっと部屋の物陰に身を隠す。
幸いこの部屋は朽ちた家具や調度品があるので、すぐにはバレないだろう。
耳を澄ませる。
金属と金属が打ち合う音、それから何かが爆ぜる音がする。
何者かが戦闘を行っているらしい。
戦闘音は階段を上がり、廊下を移動し、この部屋の前まで達した。
・・・どうする。
音からしてプレイヤー対モンスターじゃあない。
間違いなくプレイヤー同士の戦闘だ。
PKプレイヤー同士の戦いなのか、それともPKプレイヤーから逃れようとしている一般プレイヤーがいるのか・・・。
わからないが、俺がこの場から離脱するには窓から飛び降りるしかない。
しかしここは5階。
そして外にはモンスターがうようよ。
落下ダメージを受けた状態では、モンスターの群れから逃れることは叶うまい。
つまり窓から脱出したら死だ。
こんな状況は初めてなので、考えがまとまらない。
そして戦闘音の主たちは、室内へとなだれ込んできた。
2人と2人だ。
優勢な側は男2人。
一人は弓使いで、小刻みに矢を連射して相手の動きを制限している。
なるほど、通常攻撃にクールタイムがない射撃武器ってのは、ああまで連射できるのか。
もう一人は短剣2本で武装した少年で、素早い動きで相手を攻撃・・・ってあいつ、この前俺を秒殺したPK少年じゃねえか!
劣勢な側は男と女。
男は剣士のようで、剣で防戦しつつ後退しているが、短剣少年の動きについていけていない。HPゲージがもう残り少ない。
女は魔術師のようだが、弓使いの連射に阻害されてスキルを使えないでいる。
・・・。
・・・。
俺は決めた。
劣勢側に加勢することにした。
何故かって?
俺を殺したあのPK少年に恨みを晴らすために決まっているだろうが。
ここで会ったが百年目。
三十路の大人を舐めたガキにたっぷりと教育を施してやる。
弓使いは派手なことはしていない。
しつこく連射を繰り返して、相手の行動を阻害することを徹底している。
上手い。対人に慣れたプレイヤーの動きだ。
不意に短剣少年の姿が消える。ステルススキルを発動したのだ。
そして剣士の男の側面を取り、攻撃。
・・・なるほど、わかった。
攻撃する瞬間に姿を現すところを見ると、どうやらステルス状態のまま攻撃行動は行えないようだ。
剣士の男はもうダメだな。
あと一撃で死ぬだろう。
となれば・・・。
俺は物陰で膝立ちになり、スナイパーライフルを構える。
遠距離じゃないので外す心配はない。
照準を合わせ、確実に命中する瞬間を待つ。
短剣少年が再びステルス状態になる。
剣士の男の表情が歪む。
少年が姿を現し、剣士の男にトドメの一撃を見舞う。
剣士の男は光の粒子となって消えた。
ここだ。
少年が攻撃を行った瞬間、つまりは最も無防備になる瞬間。
俺はトリガーを引いた。
ターン!
室内に発射音が響き、短剣使いの少年が電子の光となって消滅した。
彼には何が起きたかわからなかっただろう。
「な、何だあ!?」
弓使いの男が狼狽する。
気持ちはわかる。意味不明だろう。
だがなあ、連射の手を止めていいのか?
スキルを使う機会を今か今かと待ち構えていた魔術師が、目の前にいるんだぞ。
「フリージングエッジ」
氷の斬撃が直撃して、弓使いは驚愕の表情のまま消滅した。
だがまだ終わっていない。
俺はすぐさまライフルの銃口を、魔術師の女へと向ける。
加勢した以上はキルするつもりはない。
PK少年に逆襲できて俺は満足している。
だが相手が攻撃の気配を見せるなら、殺られる前に殺るしかない。
魔術師の女はスキルを使う気なのか、俺に向かって手を突き出し・・・。
「・・・え?」
ぽかんとした表情をした。
肩で綺麗に切り揃えられた栗色の髪が、さらりと揺れる。
「・・・センパイ!?」
 




