16.狙撃手と薬屋のお姉さんNPC
俺は目標が増えた。
1.デカ熊を一撃で倒せるようになる
2.アゴヒゲを殺す
それはともかく、世のPKプレイヤーはどうやって街に入っているのだろう?
正門には門番NPCがいて惨殺される。
となれば正門ではないルートがあるはずだ。
まさか延々と野宿しているわけでもあるまい。
そういうわけで、俺は街の外周をぐるりと回ってみた。
始まりの街は城壁に囲まれており、門は2つしかない。
そのどちらも門番がいて、目下のところ俺は入れない。
となれば城壁を乗り越えるのだろうか?
見上げてみる。
かなり高い。
もしかすると”登攀”みたいなスキルがあって、それを取得すれば壁を登れるのかもしれない。
しかしあいにく俺のスキルツリーには存在しないので、壁を乗り越えるのは諦めるべきだろう。
そんなことを考えながら城壁に沿って歩いていると、ぽつんとNPCがいた。
いかにもチンピラといった風体のNPCだ。
ふむ。
話しかけてみる。
「よお、あんた悪人だな? 街に入りたいのか?」
ほお。
なるほど、そういうことか?
非正規のルートで街に侵入させてくれる裏社会のNPCがいるのか。
俺は街に入りたいので、”はい”を選択する。
「だがもちろんタダとはいかねえ。わかるよな?」
金を払えと。
そりゃそうか。
提示された金額は、まあ高くはない。
しかし毎日払っていたら、とてもやってられん程度の額ではある。
とりあえず一度は払ってみるべきだろう。
どう街に侵入するのか経験しておかないとな。
俺は空中のパネルを操作して、チンピラNPCに金を払う。
「よし、ちょっと待ってな」
チンピラが城壁に近づく。
不意に石造りの城壁に、ぽんと木の扉が出現した。
おお・・・。
面白いなこれ。
まるで魔法のようだ。
「一度通ったら消える。気をつけな」
そうかい。
ご丁寧にありがとう。
俺は木の扉を開けてくぐる。
するとそこは、間違いなく始まりの街の中だった。
裏路地のようで人通りもないが、逆に有り難い。
間違って表通りのど真ん中に侵入しようものなら、目立って仕方ないからな。
俺が振り返ると、木の扉はもう消えており、ただの城壁が広がっていた。
ふーむ。
最初の頃に街の周囲を見て回ったときは、あんなNPCはいなかったように思う。
もしかすると、PKを犯して兵士に狙われるようになると、あのチンピラNPCが出現するのかもしれん。
******
さて。
俺がわざわざ金を払ってまで街に戻ったのには理由がある。
もしかするとNPCショップでアイテムを手に入れられるかもしれないという算段があるのだ。
俺は薬屋に入店する。
綺麗なお姉さんNPCが「いらっしゃいませ」と出迎えてくれる。
だが表情が平坦なので、恐らくアイテムは売ってもらえないだろう。
それはいい。
アイテムは棚にずらりと陳列されている。
こいつを手に取ると購入画面になり、そしてお姉さんNPCに金を払って購入するのだ。
では、そのお姉さんNPCがいなければどうか?
金を払う相手がいなければ、アイテムを勝手に持っていっても問題ないのではなかろうか?
俺のアイデアはまだ誰も試していない(試そうとも思わない)画期的なものではなかろうか?
俺はスナイパーライフルを肩から下ろすと、お姉さんNPCに銃口を向ける。
ちなみに街中はPK禁止エリアなので、プレイヤーに攻撃はできない。
だがNPCはどうだ?
銃口を向けられたお姉さんは何も反応しない。
そりゃあそうだ。NPCだからな。
近距離だ。狙うまでもない。
俺はトリガーを引く。
ターン!
お姉さんNPCは電子の光になって消滅した。
おお・・・!
NPCを攻撃できた。そして倒せた!
すごいぞこのゲーム。
俺は年甲斐もなく興奮した。
こんなことができるゲームはそうないだろう。
よく作り込まれたシステムだ。
さて、当初の目的を忘れてはならない。
アイテムを持ち出せるかどうかだ。
俺は棚の移動速度ポーションに手を伸ばす。
手に取る。
ポーションはそのまま、ピコン!とアイテム欄に収まった。
おおお・・・!
素晴らしい。何だこのゲーム最高だろう。
俺はしばらく感動に打ち震えた。
このゲームはやりこみがいがある。
まだまだ隠された要素が詰まっているに違いない。
思考を放棄して、敷かれたレールの上をただ歩くだけでは決して得られない楽しみ方が、たくさんあるのだ。
そんなことを考えていると、店に誰かが入ってきた。
ん? 他のお客さんかな?
悪いが今お姉さんは席を外しているぞ。
あの世になあ。ふはははは。
怒りの形相でバトルアックスを振りかざした兵士だった。
俺は死んだ。




