15.狙撃手と門番NPC
俺は少し上機嫌で始まりの街への帰途についていた。
今日はいつもの熊山で狩りをした後、森林エリアに足を伸ばしてPKをしたのだが、思いの外上手くいったのだ。
たくさんキルできたわけじゃあない。
だが樹上からの狙撃という新しい試みに挑戦して、そこそこの結果を残せたのが満足なのだ。
樹上は地面と違って腹ばいになるのが難しいし、スナイパーライフルをセットする場所にも事欠く。
そういう場所での戦闘はいい経験になるのだ。
もちろん俺のいう戦闘とは、超遠距離から一方的に相手を狙撃するものだ。
初心者エリアの原っぱを通り、街の門に近づく。
始まりの街よ、ただいま! 狙撃手は帰ってきた!
ザシュ!
俺のHPゲージがゼロになった。
は? え?
俺は死んだ。
******
視界が暗転して、気がついたら鉱山エリアにいた。
な、なるほど・・・。
俺はどうやら門番NPCに斬り殺されたようだ。
そうか、一定数以上PKすると、門番に攻撃されるようになるのか。
そして門番にキルされると、スタート地点ではなく鉱山エリアに飛ばされるわけだ。
”あなたは街の兵士に捕まりました。強制労働を行ってください”
捕まりました?
いやロングソードでぶった斬ってたよな?
たぶんタフな前衛でも一撃だぞあれ。
しかし、強制労働か。
NPCショップからアイテムを買えなくなるだけじゃなく、街の兵士に攻撃されるようになるのか。
PKのペナルティってのは意外と重いんだな・・・。
とりあえずアイテム欄を確認する。
布の服の他に、ツルハシというアイテムだけを持たされていた。
本当に労働するしかないようだ。
”銅鉱石を10個、看守に納めてください”
なるほど、採掘をしろと。
10個集めたら出られると。
仕方がないのでツルハシを構えて、目の前の鉱石に叩きつける。
ガツン。
何ももらえない。
ガツン。
ガツン。
ガツン。
何度もやってようやく一個、銅鉱石がアイテム欄に入る。
め、めんどくせえ・・・。
生活系スキルに”採掘”ってのがあるが、当然俺はスキルポイントを割り振っていない。
レアでも何でもない銅鉱石ですら、こんなに手間がかかるわけだ。
ガツン。
ガツン。
ガツン。
・・・。
・・・。
うがああ、やってられん!
面倒くさがりの俺にとってこいつは拷問に近い。
こんなペナルティがあるんじゃPKも流行らないわけだ。
しかもこれは後々面倒だ。
というのもこのゲーム、死に戻ったときのスタート地点は街の外にあるからだ。
なんか街の門の近くに泉のような場所があり、そこに戻ってくる。
つまりモンスターにわざとキルされて、門番に会わずに街の中に戻るといった芸当が使えないわけだ。
よく考えられている。
ガツン。
ガツン。
ガツン。
・・・。
・・・。
ガツン。
ガツン。
ガツン。
・・・。
・・・。
許さんぞ、あのアゴヒゲ・・・!
ここから出たら必ず目にもの見せてくれる。
******
結局、たかが銅鉱石を10個掘るのに1時間以上かかった。
スマホゲーなどと違って、オート放置なんてシステムはないので、俺はひたすら怒りを原動力に変えて乗り切った。
鉱山から出たら装備は全てアイテム欄に戻ってきた。
さあ。
復讐の時間だ。
俺は始まりの街の門を一望できる丘に佇む。
ここからだと仁王立ちの門番NPCがよく見える。
充分に遠距離だ。
ヤツご自慢のロングソードもここまでは届くまい。
俺は腹ばいになってスナイパーライフルを地面にセットする。
通りすがりのプレイヤーが、何か奇異なものを見るような目つきで俺を見てくるが、気にする必要はない。
俺は今ここに復讐を成し遂げるのだ。
スコープを覗く。
仁王立ちしているアゴヒゲの脳天に照準を合わせる。
くたばれアゴ。
狙撃手を怒らせた罪の重さを悔いるがいい。
ターン!
・・・ん? あれ?
アゴヒゲは微動だにしない。
何だろう、HPゲージが1ミリも減っていないような・・・?
あっ、アゴヒゲがこっちを向いた。
怒りの形相だ。
はええ!?
100メートル3秒を切ろうかという勢いで、猛然と突進してくる。
俺は慌ててライフルを担いで逃げ出そうとするが、間に合うはずもない。
何で岩をも砕けそうなバトルアックスを構えてるの!?
お前さっきまでロングソードだったよな?
怒り度によって武器が変わるの?
待て、話せばわかる。
暴力はよくない。
あひいいいいいいいいいいいいいい!
グチャッ。
”あなたは街の兵士に捕まりました”




