134.狙撃手、モグラリベンジ
復活ポイントに強制送還された俺は歯ぎしりをした。
ボスモンスターはHPが減ると行動パターンを変えることがある。
あのモグラもまさにそれだったわけだが・・・それにしてもモグラがいきなり急バックしてくるとは夢にも思わないだろう普通。
俺は学習した。
あれはモグラではない。
ブルドーザーとかショベルカーとか、そんな類の何かだ。
そう思うことにする。
そして行動パターンも今度こそ把握した。
巨大な爪による前方範囲攻撃、鼻ドリルによる突進、攻撃行動を取っていないときの旋回、そしてHPゲージが半分を切ったときのケツアタック。
大体こんな感じだ。
元より一回で攻略できるとは考えていないので、想定の範囲内だ。
次こそ人間様の本領を見せてくれる。
俺は銀色のダンジョンに赴くと、またもチキンプレイでコソコソと最下層までやってきた。
首尾よく雑魚モンスターやミスリルゴーレムを排除して、ボス部屋まで辿り着く。
またミスリル鉱石が溜まってきたが、これはまとめてオークションに出せば小金にはなるだろう。
『モグウウウウウウウウウ!!!』
銀色の巨大モグラが身体を起こす。
退化した目がギラつき、俺を排除すべき敵として認識する。
モグラの分際で勘違いしているようだな。
どちらが上かきっちり教育してやらねばなるまい。
とはいえ前回とやることは変わらない。
モグラの爪や鼻ドリルを避けて背後に回り込み、でかいケツに鉛玉をぶち込む。
その繰り返しだ。
一度経験したことなので、前回よりスムーズに行動できている。
そして何度目かの攻撃で、モグラのHPが半分を切った。
ケツがブルブルと一瞬震える。
ここだ。
俺はいそいそと横移動して避ける。
ドゴオオオ!!!
モグラが急バックしてケツアタックを敢行してきた。
ギリギリ回避成功したが危なかった。
間一髪だ。
これはもう少し余裕を持って避けたほうがいいな。
とはいえこのパターンはもう俺には通用しない。
壁にケツを埋めたモグラの横っ腹に銃弾を撃ち込む。
あとは同じことの繰り返しだ。
パターンとしてはケツアタックが増えただけなので、モグラの周囲を回るように移動しながらライフルをぶっ放す。
万が一にも巻き込まれないように、回避は早め早めを心がける。
そうこうしているうちにモグラのHPゲージが3分の1を切った。
じき倒せそうだ。
俺がソロでどうにかやりくりできた勝因は、このモグラが飛び道具を持っていなかったことだろう。
モグラは攻撃のためにいちいち移動というひと手間をかける必要があるので、回避行動を取る余裕があったのだ。
一撃でももらえば即死だが、逆にいうと敵の行動パターンを把握して回避し続ける限り、ソロでも倒せる類のボスだったということだ。
遠距離攻撃を持っているボスだと、スナイパーのソロは無理ゲーだからな。
恐らく4人くらいのパーティを組んで正攻法で挑めば、もっと手強いのだろう。
モグラはいかにもタフで生半可な攻撃は通らないし、攻撃力も恐ろしく高いのでタンクがいても辛かろう。
だから・・・そう。
全員遠距離のパーティを組んで、全員が俺と同じようなことをすれば、最も素早く倒すことができる。
これはそういうタイプのボスなのだ。
あの火山のボスであるレッドドラゴンは、そういうボスではなかった。
このゲームにはいろいろな種類のボスがいて、きちんとパーティの編成を考えて挑めば効率よく攻略できるようになっているのだ。
上手いこと考えられたゲームといえよう。
そんなことを考えているうちに、モグラのHPはもう残り5分の1だ。
このまま押せばいける。
だが油断はするまい。
クールになれケンタロ。
敵を倒す最後の瞬間まで気を抜くべきではない。
俺は学習できる人間だ。
油断が即座に死を招くことを、俺はすでに理解している。
このまま一片の油断もなく、僅かの緩みもなく、ただ機械のように任務を遂行するのだ。
『モグウウウウウウウウウ!!!』
迫り来る死の予感に咆哮するモグラ。
だが俺の行動は揺るがない。
もはやモグラのパターンは一部の隙もなく見切っている。
さらばだ巨大モグラ。
お前は強かったが、人間の学習能力を甘く見たのが運の尽きだ。
ここから俺は周回モードに入る。
ベルトコンベアで淡々と処理されるパック詰めの肉のように、ひたすら俺の糧になるがいい。
お前は確かに強敵であった。その生命が煌めき尽き果てる様を、俺は生涯忘れることはあるまい。
ではな――我がライバルよ。アディオス。
ドゴオオオ!!!
まるでミサイルのように鼻ドリルが発射され、俺は爆発四散して死んだ。




