12.狙撃手、PKのペナルティを知る
仕事が終わって帰宅する。
夕飯を食う。
シャワーを浴びる。
ベッドに寝転がる。
さあVRの時間だ。
頭にヘッドギアを装着し、いざログイン。
”Welcome to Earth World Online”の文字が目の前に広がる。
そして俺の分身、ケンタロが始まりの街に降り立つ。
やはり夜の時間帯は街全体が賑わっている。
まあ大半の人間は、夜に余暇時間があるもんだからな。
行動指針はもう決めてある。
これまで通り、モンスターを狩ってスキルポイントと金を稼ぐ。
それと並行してPKも行い、アイテムをゲットする。
PKだけやれれば楽しいんだろうが、それだとキャラクターが全く成長しないし、早晩金欠になってしまう。
どちらも必要なのだ。
そういうわけで俺は薬屋に赴く。
移動速度ポーションを補充したいのだ。
「いらっしゃいませ」
いつもの綺麗なお姉さんNPCが出迎えてくれる。
・・・ん?
今日は笑顔じゃないんだな。どこか平坦な表情をしている。
NPCにも表情の変化があるのか。
まあそんなことはどうでもいいので、陳列されているアイテムから移動速度ポーションを選択する。
「お客さんは人を殺したんですね。しばらくは、アイテムを売ることはできません」
・・・は?
え、何?
俺は慌てて、もう一度移動速度ポーションを選択する。
「お客さんは人を殺したんですね。しばらくは、アイテムを売ることはできません」
全く同じセリフが返ってくる。
これは・・・。
俺は試しに、HPポーションやMPポーションも選択してみる。
だが結果は同じだった。
購入できない。
なるほど・・・。
そうか、そうなるのか。
PKをしても何もペナルティはないんだなと悠長に考えていたが、そんなことはなかった。
なるほど、これがシステム的なペナルティか。
NPCショップでアイテムを売ってもらえなくなるとは予想外だった。
俺は移動速度ポーションだけだからまだいいが、HPポーションを常用する前衛職などは大変困るだろう。
そこかしこでPKが蔓延するような世界になっていないのは、こうした制約があるからか。
だがこのNPCは、しばらくはアイテムを売ることができない、と言った。
しばらくということは、恐らく時間によってこのペナルティは解消されるのだ。
まあ永遠に購入できなかったら、さすがにゲーム的に厳しすぎるからな。
しかし・・・しばらくっていつまでだ?
1日? 3日? 一週間?
わからん。
面倒だが毎日NPCショップに通って、確認するしかないだろう。
俺は念のため、武器屋にも行ってみた。
結果は同じで、ゴツいおっさんNPCは「お前に売る武器はねえ」とか抜かしやがった。
ぐぬぬ・・・。
まあ仕方がないので、俺は何も買わずに街を出ることにする。
移動速度ポーションは残り少ないので、節約したほうがいいだろう。
始まりの街の門をくぐって、外のエリアに出る。
ファンタジー世界らしく、豪華で大きな門だ。
・・・ん?
俺は違和感を覚えて振り返った。
いつも門を出るときは、門の左右に控えている門番の兵士が、無骨ながらも温かみのある声で「いってらっしゃい」と声をかけてくれる。
今日はその声に、どこか棘があった気がする。
よく表情を見てみると、門番の表情も心なしか平坦になっているような・・・。
・・・。
何か嫌な予感がする。
俺は果たして、このままPKを続けて大丈夫だろうか?
まあ続けるが。




